かわいい愛犬も、やがて老いを迎えます。実家で暮らしていたシベリアン・ハスキーも12歳頃から体や行動に変化が現れ、まもなく介護が始まりました。その中で、最期まで寄り添う家族の姿を見て「命と向き合うこと」の意味を改めて考えるようになりました。
この記事では、愛犬が15歳で亡くなるまでの老犬介護を通じて得た気づきとともに、終生飼養の考え方や、介護を始める際に飼い主が持っておきたい心構えや準備についてお伝えします。
この記事の目次
愛犬に訪れた老いのサイン
小学5年生のときに、我が家にシベリアン・ハスキーがやってきました。ちょうどシベリアン・ハスキーブームの頃でしたが、偶然譲り受けたのがこの子でした。
「あぁ、うちの子も年を取ったのだな」と変化に気づいたのは12歳頃。足腰が衰え、立っていると後ろ足が小刻みに震えるようになったのです。歩くスピードも徐々に落ち、庭で駆け回る姿は少なくなりました。
体にも変化がありました。イボ(乳頭腫)が体のあちこちにできて、被毛には艶がなくなっていきました。もともとは黒白の毛色でしたが、白髪が増えて全体的に体色が薄くなり、確実に年齢を重ねていることを感じさせました。
当時大学生だった私は、愛犬が8歳になったころから実家を離れて暮らしており、日々の世話は両親と祖父母が担っていました。だからこそ、たまに帰省して目にする変化が余計に鮮明に感じられました。
老犬介護の現実
13歳を過ぎて認知症の症状が出始めると、家族は「今までどおりの飼い方は危ない。これは介護が必要だ」と感じるようになりました。
体重20kgの愛犬の介護は大変でしたが、幸い足腰は最期まで比較的しっかりしており、寝たきりになることがなかったのは大きな救いでした。
最も大変だった徘徊の症状
家族にとって特に負担となったのは、認知症による徘徊の症状でした。
トボトボと一方向に歩き続け、壁にぶつかっても止まらず、そのまま同じ方向に進み続けます。そのうち首の力が弱まり頭が持ち上がらなくなって、頭頂部を地面に付けたまま歩くようになりました。その姿勢でも足だけは動き続けるため、前転するように回ってしまうことも何度もありました。
30年前は犬を外で飼うのが一般的で、私の実家でも庭に鎖でつないでいました。しかし、徘徊をするようになってからは、歩いているうちに鎖が首に巻き付くと危険なので、車庫にビニールプールを置いてその中で過ごさせていました。
ある晩には、庭に停めた車のボンネットの下に入り込んでしまい、わずか15cmほどの隙間から出られなくなっていたこともありました。明け方、鳴き声に気づき慌てて救出しましたが、20kg近くある体があんな狭いところに入り込むなんて、誰も予想もしていなかった出来事でした。
認知症の徘徊行動について
これらの症状は、認知症による徘徊行動の一種です。
- 一方向に歩き続ける
- 家具と壁の間や柵の隙間などに入り込み、出られなくなる
狭いところに入り込む行動には、空間認識能力の低下が関係しています。
若いうちは「ここに入ったら出られない」と判断できますが、認知機能が落ちるとそれがわからなくなり、狭い隙間に入り込んでしまうのです。また、「後ずさりして出る」という判断もできなくなります。
排泄の介助
そのうち、排泄は垂れ流しの状態に。徘徊の際に排泄物を踏んでしまうため、ビニールプールの中や愛犬の体には強い臭気が漂っていました。家族は、タオルで愛犬の体を拭いたり掃除をしたりしながら、懸命に介護を続けてくれていました。
今も残る後悔
愛犬が老いていく姿に向き合うのは、正直つらいことです。私も、せっかく実家に帰ったとき「老いを認めたくない」「かわいそうな姿を見たくない」という気持ちから、愛犬のそばにあまり近づけませんでした。それは今でも後悔しています。
愛犬が15歳で亡くなったとき、看取ったのは両親と祖父母でした。家族からの愛情を最期までたっぷり受けて、今は庭にあるお墓で眠っています。
介護から学んだこと
ペットを迎える理由は「かわいいから」「一緒に暮らしたいから」が多いでしょう。私の実家もそうでした。
しかし、飼い始めたときは小さな子犬や子猫もその先には必ず老いがあり、介護が必要な時期が訪れます。かつては10歳を超えると長生きと言われていましたが、今では平均寿命は犬猫ともに約15歳。20歳を超えて生きる子もいます。
殺処分の理由に「高齢」も
環境省が報告した「犬・猫の引取り及び処分の状況」によると、犬・猫の殺処分の数は令和5年度には9,017件と、毎年減少傾向にあります。しかし、保健所等にペットを持ち込む理由には「ペットが高齢になった」というものも含まれています。
「介護は大変だから」「年を取ったら可愛くなくなった」と途中で手放してしまうのは、人間側の都合に過ぎません。ペットが年を取ってからの時間こそが、「飼い主が責任を持って最期まで寄り添うこと」の証です。
また、シニア期には単に「一緒に暮らす」だけでなく、「動物がどんな環境で、どんな気持ちで生きているか」をより一層考えて寄り添うことが求められると感じました。
終生飼養は飼い主の責任
幼い頃に親に「生き物を飼いたい」とねだったとき、「最期まで責任を持って面倒を見るんだよ」と言われた経験がある方は多いのではないでしょうか。
「終生飼養(しゅうせいしよう)」とは、犬や猫などのペットをその命が尽きるまで責任を持って飼い続けることを意味します。これは、動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)の第7条にも明記されている考え方です。
犬を迎えるときには、子犬期のかわいさだけでなく、老犬になった姿まで想像してほしいと思います。15年後、20年後の自分と犬の未来を考えたうえで、「最期まで寄り添う」と決めて迎えることが、お互いにとって何よりの幸せにつながります。
これから老犬介護を迎える飼い主さんへ
老犬介護の経験から、これから愛犬が老犬期を迎える飼い主さんに、ぜひ伝えたいことがあります。
それは、「老犬が過ごしやすい環境、自分が介護しやすい環境を整えること」です。
- 滑りにくい床材に変える
- ステップやスロープを使って段差を減らす
など、ちょっとした工夫で犬の足腰への負担は減ります。
また、介護用グッズも今は多くの選択肢があります。介護する側の負担を減らすため、自分に合う商品を試してみてください。
犬の健康に若いときから気を配り、健康寿命を長くする
普段から、犬の健康管理には気を配り、少なくとも年に1度は動物病院で健康診断を受けて、異常や老いのサインに早く気づけるようにしましょう。
介護の心構え・サービスの把握をしておく
愛犬に対して愛情が深い方ほど、介護が始まると「自分が完璧にやらなければ」と自分を追い詰めてしまいがちですが、そう思わなくても大丈夫です。
現在は、老犬ホームや動物病院といった施設での一時預かりなどの介護サービスも増えてきています。一人で抱え込まず、頼れるところは頼りましょう。
まとめ
老犬介護は簡単なことではありません。夜鳴きや徘徊、排泄の介助など、大変なことは数え切れないほどあります。それでも、介護は決して「負担だけの時間」ではなく、飼い主にとって愛犬との絆をより深くしてくれます。
私は介護を通じ、そして懸命に介護をする家族の姿を見て、「老いとはどんなことか」、「困っている存在に手を差し伸べる姿勢」、「命に最後まで責任を持つこと」の大切さを心から実感しました。
どうか皆さんも、大切な存在と「最期まで寄り添う」ことの意味を感じながら、一緒の時間を大切に過ごしていただければと思います。