人間でもたびたび耳にする疾患の一つに、椎間板ヘルニアがあります。
犬の腰部椎間板ヘルニアは胴長の犬種で多いとされていますが、この椎間板ヘルニアが実は緊急疾患であることはご存じでしょうか。
今回は、犬の椎間板ヘルニアについて解説します。ぜひ最後まで読んでいただき、いざという時に慌てずに行動できるようにしてください。
この記事の目次
椎間板ヘルニアとは
犬の背骨（脊柱）は、頚椎（7個）、胸椎（13個）、腰椎（7個）、仙椎（3個）、尾椎（5個）という小さな骨（椎骨）が連なって構成されています。この椎骨と椎骨の間には、圧力や衝撃を和らげるクッションの役割を持つ椎間板があります。
また、脊柱には脊柱管という管状の構造があり、その中を脊髄が通っています。椎間板が何らかの原因で脊柱管内の脊髄を圧迫することで、神経症状が引き起こされます。
椎間板ヘルニアの2つの型
椎間板は、中央部分の髄核と、その周りを囲む線維輪からなります。
椎間板ヘルニアは、髄核が飛び出して脊髄を圧迫するHansen-Ⅰ型と、線維輪が肥厚・変性して背側へ突出するHansen-Ⅱ型に分けられます。
好発犬種
Hansen-Ⅰ型は、軟骨異栄養型と呼ばれる犬種で好発します。
このタイプは、比較的若い年齢で突然発症することが多いとされています。
- ダックスフント
- コーギー
- ビーグル
- プードル
- ペキニーズ
また、Hansen-Ⅱ型はその他の犬種で見られることが多いという報告があります。
こちらは比較的高齢（5歳以上）での発症が多いとされています。
- ラブラドール・レトリーバー
- ジャーマン・シェパード
など
他にも椎間板ヘルニアのリスク因子として、肥満、激しい動き、滑りやすい床などが挙げられます。
症状
椎間板ヘルニアの症状は、発生部位と突出の程度によって大きく異なります。獣医学では、頚部椎間板ヘルニアと胸腰部椎間板ヘルニアに分けて考えます。
頚部椎間板ヘルニアの症状
頚椎に椎間板ヘルニアが発生した場合、首の痛みや前肢および後肢の麻痺が起こります。ここで無理に首を動かそうとすると非常に危険ですので、何か変わったことがあれば安静にして動物病院で相談しましょう。
- 頚部の疼痛
- 歩様異常
- 首を持ち上げない
- 食欲低下
- 震え
- 四肢の麻痺
胸腰部椎間板ヘルニアの症状
胸椎や腰椎に椎間板ヘルニアが起こった場合、後肢の麻痺や排尿障害が起こります。突然、腰付近を痛がる様子が見られることによって気付くパターンが多いようです。
- 腰背部疼痛
- 歩様異常
- 後肢の不全/完全麻痺
- 排尿制御失調
胸腰部椎間板ヘルニアのグレード分類
胸腰部椎間板ヘルニアでは、脊髄障害の重症度を評価するためにグレード分類が行われています。このグレード分類によって、治療方針の検討も行われます。
- グレード1：症状は痛みのみで、麻痺や歩様異常を伴わない
- グレード2：自力で歩行可能だが、後肢のふらつきや感覚異常を認める
- グレード3：自力での歩行が不可能だが、後肢の感覚（痛覚）は残っている状態
- グレード4：歩行不可能、後肢の完全麻痺、深部痛覚のみ残っている状態
- グレード5：歩行不可能、後肢の完全麻痺、深部痛覚の消失
脊髄軟化症
椎間板ヘルニアで注意しなければならないのが、続発症である進行性脊髄軟化症です。前述のグレード分類において、グレード4および5の脊髄障害症例の約5％で発生すると言われています。
これは急性脊髄障害に続発する脊髄の自己破壊現象であり、治療法はなく、最終的には短期間のうちに呼吸筋麻痺によって死亡します。
診断
椎間板ヘルニアの診断には、主に画像検査が用いられます。他にも神経学的検査といった、病変部の特定や麻痺の程度を評価する検査も行っていきます。
身体検査
触診によって痛点を確認します。また、膀胱の触診によって排尿障害の有無を推測していきます。
神経学的検査
前肢および後肢の反射/反応を観察します。動物病院での緊張によって反応が悪くなることもありますが、それも踏まえて四肢に麻痺があるのかどうかを確認します。
単純X線検査
X線検査では脊髄の様子を確認することはできませんが、四肢に神経症状を呈する他の疾患を除外することができます。また、椎体間の狭小化や脊柱管内の石灰化病変など、疑わしい所見が得られる場合があります。
CT検査
石灰化した椎間板物質が脊髄を圧迫する様子が確認できます。石灰化が乏しい病変の場合は、脊髄造影を行うこともあります。
MRI検査
脊髄の状態（浮腫、炎症など）を評価し、病変の部位を確認します。CT検査およびMRI検査は全身麻酔が必要な検査となるので、検査前には全身状態の確認が必要です。
治療
脊髄障害のグレード分類を元に治療方針を決定します。一般的にグレードが進むほど内科療法のみでの治療は難しいと考えられています。
内科療法
症状が痛みのみのときなど、軽度の椎間板ヘルニアでは内科的な保存療法が選択される場合があります。内科療法では安静を保ち、痛み止めを用いて神経の修復を待ちます。
注意しなければならないのは、痛み止めを用いて元気になったとしても、それは薬の作用で痛みが消えているだけで、神経の障害自体は消えていないということです。
最低でも2週間ほどは絶対安静を保つ必要があります。
外科療法
外科手術によって脊髄を圧迫している椎間板物質を除去する治療法です。痛みの強いグレード1〜2やグレード3以上の症例では外科療法が適用となります。
一般的に、重症例ほど歩行機能の回復まで時間がかかり、また回復率も低下します。特に排尿に異常が残ることが多く、膀胱圧迫による排尿補助などが必要になることがあります。
リハビリテーション
外科手術後は積極的なリハビリにて神経機能の回復を図ります。四肢への刺激（しっかり足の裏を着肢させる、水中で歩かせるなど）、ストレッチ、マッサージなどを時間をかけて行っていきます。
予防
椎間板ヘルニアのリスクを低減させるためには、どんな方法があるのでしょうか。
- 体重管理（肥満の防止）
- 足裏の毛を伸ばしすぎない/爪を伸ばしすぎない
- 床にマットを敷くなど、滑りにくい対策
椎間板ヘルニアを完全に予防することは難しいですが、上記のような背骨に負担をかけない対策が必要です。これらは関節炎などの骨関節疾患の予防にもなるので、取り組む価値は十分にあるでしょう。
まとめ
椎間板ヘルニアはQOLを低下させる可能性のある疾患です。また脊髄軟化症という恐ろしい疾患が続発する可能性があります。
早期発見と早期治療によって、愛犬の健康を守っていきましょう。
