犬における眼の病気のうち、見逃してはならない疾患のひとつに緑内障があります。
緑内障はヒトでも見られる眼疾患ですが、聞いたことはあってもどんな疾患か詳しく知らない方もいるのではないでしょうか。
今回は、犬の緑内障について解説します。
この記事の目次
緑内障とは

緑内障は、「眼内圧の上昇に起因する永続的な眼障害または、その恐れがある状態で網膜神経節細胞とその神経軸索の壊死を特徴とする視神経症を示す疾患」と定義されています。
眼球を内側から押し、眼球の形を保とうとする力を眼内圧と言います。眼球は風船に例えることができますが、つまり「眼内圧の上昇」は、風船がパンパンに膨らんでいる状態と考えることができます。
犬においては、眼内圧25mmHg以上で緑内障と診断されます。さらに、眼内圧40~60mmHgが長く続くと急速に網膜や視神経が障害され、失明に至ります。
緑内障の病態生理

眼内圧の上昇にはいくつかの要因が重なっています。そのひとつに眼房水がありますが、これは眼球の形状を保ち、無血管組織(水晶体、角膜など)への栄養素の運搬や、無血管組織からの老廃物を除去するなどのはたらきがあります。
眼房水は隅角(ぐうかく)と呼ばれる部位から排泄されますが、この隅角の発生異常などによって眼房水のスムーズな排泄が滞ると眼房水が溜まり、内眼圧が上昇します。
また、眼内腫瘍や眼内出血、白内障、ぶどう膜炎など、他の疾患に起因する眼内圧上昇もあります。
緑内障の分類
緑内障は発症機序や経過によっていくつかに分類されます。
1. 原発緑内障
随伴する眼疾患がなく、品種依存的に両眼性の内眼圧上昇を認める緑内障です。
2. 続発緑内障
随伴する眼疾患もしくは眼疾患の既往歴症例に関連して引き起こされる緑内障で、通常は片側性です。
緑内障を引き起こす眼疾患としては、以下のようなものが知られています。
- ぶどう膜炎
- 水晶体脱臼
- 糖尿病に続発する膨張性白内障
- 前房出血
- 眼内腫瘍
- 眼内出血
- 網膜剥離
3. 先天緑内障
眼房水の排出路における発育異常による緑内障ですが、犬や猫では稀です。
好発犬種

犬で隅角発生異常を示す品種には以下が挙げられます。
- 秋田犬
- アラスカン・マラミュート
- アメリカン・コッカー・スパニエル
- グレート・デーン
- サモエド
- シベリアン・ハスキー
- トイ・プードル
- ラブラドール・レトリーバー
- ゴールデン・レトリーバー
- 柴犬
症状

緑内障の症状は、進行度や内眼圧上昇の程度、年齢および犬種を含む多くの要因に左右されます。便宜上、急性緑内障と慢性緑内障に分けられていますが、その判別は常にはっきりしているとは言えません。
急性緑内障の症状
- 疼痛(眼瞼痙攣、流涙量の増加など)
- 角膜浮腫
- 散瞳
- 上強膜血管の怒張
- 視覚消失
慢性緑内障の症状
慢性緑内障では、急性緑内障の症状に加えて以下の症状が認められます。
- 角膜血管新生/色素沈着
- 水晶体脱臼
- 白内障
- 眼内出血
- 虹彩萎縮
- 網膜萎縮/視神経頭萎縮
- 眼球勞
診断

緑内障の診断は迅速かつ正確に行われる必要があります。内眼圧上昇や視神経乳頭の状態を確認するために、以下の検査が行われます。
身体検査
眼瞼反射の有無、綿球落下試験、威嚇瞬き反射の有無などによって、視覚の有無を確認します。
眼圧測定
眼圧計という機器を用いて内眼圧を測定します。動物病院での緊張によって、値はやや高めに出ることが多いですが、左右の眼を測定することで明確な左右差があるかどうかを確認します。
眼底検査
緑内障では視神経乳頭や網膜の状態を観察します。
内眼圧上昇によって視神経乳頭の血管は数が減少します。また、内眼圧は上昇後に一時的に正常範囲に戻ることがあります。そのため、眼圧検査で異常が検出されない場合がありますが、視神経乳頭を見ると血管がうっ血して観察されます。
このように経過を観察することによって、眼圧検査では検出できない緑内障を見落とすことが減ります。
細隙灯顕微鏡検査(スリットランプ)
眼に細い光を当て、前眼部を観察します。
前房中のフィブリン塊や、虹彩後癒着などが観察される場合には、ぶどう膜炎が存在することが疑われます。また、水晶体を観察することで白内障の有無も確認します。
ぶどう膜炎や白内障が存在すると治療方針が変わるため、ここでしっかりとチェックします。
治療

緑内障の治療には、点眼薬による内科療法と外科手術による外科療法があります。
急性期の緑内障では視覚機能の保持と、そのための速やかな眼圧下降に治療の重点が置かれますが、慢性期では疼痛管理や続発疾患の予防が重要となります。
緑内障の進行度や重症度によって、治療法を決定します。
内科療法
種々の点眼薬によって房水の産生抑制、および房水の排泄能増加を狙います。
一般的に使用されるのはラタノプロストという点眼薬で、強力な眼圧低下作用を持ちます。一方で、炎症の誘発や縮瞳の副作用があるため、白内障やぶどう膜炎が存在する症例では使用されません。
また、愛犬の性格によっては定期的な点眼が困難なケースもあり、かかりつけの動物病院との連携が必要となることもあります。
外科療法
房水産生減少や房水流出増加の目的で、毛様体や虹彩に対して外科手術を行います。
また、疼痛管理が困難となった緑内障に対しては、眼球摘出術が適応となることもあります。
大きな外貌の変化が伴うことがあるため、外科手術の際にはメリットとデメリットを十分に理解した上で治療を行いましょう。
予防

緑内障の発症を完全に予防することは残念ながらできません。しかし、好発犬種では緑内障に対する正しい知識を持つことが大切です。
また、眼圧が高くなるような環境を作らないことも重要です。
- 【首を圧迫しない】:首輪やスカーフの着用を止め、ハーネスなどに切り替えます。
- 【真っ暗にしない】:暗い環境では瞳孔が開かれ、暗闇に眼を慣れさせようとします。瞳孔が開いた状態が続くと眼圧が上昇するため、部屋の中は眼が慣れなくても歩けるくらいの明るさにしてあげるといいでしょう。
まとめ

緑内障は放置すれば視覚に関わってくる疾患です。早期に診断し、早期に適切なコントロールを行うことで、愛犬の生涯のQOLが維持できるでしょう。
好発犬種に限らず、何かおかしいことがあれば動物病院で相談しましょう。







































