近年、ヒトでマダニ媒介性の感染症が問題となった影響もあり、猫へのマダニ寄生も注目されるようになりました。しかし、実際に生活している中でマダニの存在を感じることは少ないのではないでしょうか。
マダニはどこにいるのか、何に注意すればよいのか、またマダニによってどのような不利益が生じるのか、疑問に思うことも多いかと思います。
そこで本記事では猫におけるマダニの病害を紹介していきます。最後まで読んで頂き、愛猫の外部寄生虫予防に繋げて頂ければ幸いです。
この記事の目次
マダニとは
マダニは2〜30mmに及ぶ大型のダニで、ハウスダストの原因となるコナダニなどの小型のダニとは異なります。
ヒトを含む各種哺乳類や鳥類、爬虫類などにも寄生し、虫卵を除く全てのライフステージで吸血を行います。この吸血の際に種々の病原体を媒介することがあり問題視されています。
猫におけるマダニの病害
マダニは宿主から吸血する際に、血液が固まらないようにするため、抗凝固成分が含まれる唾液を注入します。この唾液がアレルギー反応を引き起こすことがあり、激しい痒みによる情緒不安定や体力消耗、食欲不振が表れます。
また、多数のマダニに吸血されると、貧血が起こることもあります。さらに、ダニの種類によってはダニの唾液中の「末梢神経毒」による「ダニ麻痺」と呼ばれる症状が現れ、運動失調や呼吸麻痺などが認められます。
マダニが媒介するヒトの疾患
ヒトにおいて問題となるのはマダニによる間接的な影響、すなわち病原体の媒介です。
マダニの種類によって媒介される感染症は異なりますが、日本でも見られる主なマダニ媒介性疾患を紹介します。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
2013年に日本国内では初めての患者が報告された感染症です。現在までに有効な治療薬やワクチンもなく、ヒトでの致死率は6.3〜30%と言われています。
また、猫もSFTSにかかることがわかっており、猫からヒトへの感染も報告されています。猫での致命率は60%で、獣医学的にも公衆衛生学的にも重要な感染症です。
日本紅斑熱
太平洋側の比較的温暖な地域(千葉・三重・兵庫・徳島・高知・宮崎・鹿児島など)で多く発生しています。
発熱や関節痛、全身への紅斑が見られます。
野兎病
東北地方と関東の一部で多発しています。
発熱、悪寒、関節痛などのインフルエンザのような症状が見られます。
ライム病
本州中部以北、特に北海道と長野で見られます。
マダニ咬傷部を中心に囲むように紅斑が出現します。その後、皮膚炎や神経症状、関節炎を呈します。
Q熱
コクシエラという細菌によって引き起こされます。
発熱と呼吸器症状または肝炎が起こります。
極東ロシア脳炎
ダニ媒介脳炎の亜型として知られています。
北海道で中心的に発生しており、今後も注意が必要な疾患です。致死率が20%以上、後遺症も30〜40%と危険な感染症です。
マダニの生活環
マダニは、「虫卵→幼虫→若ダニ→成ダニ」という順に成長していきます。この中で、虫卵を除く全ての期間において宿主体表で吸血を行いますが、吸血期間は各世代で20日間程度で、それ以外の期間は地表などで生活しています。
マダニの吸血方法
環境中で生活するマダニは、宿主に寄生する際に草の先端などに身を潜め、近くを犬や猫が通過したときに飛び移ります。マダニの腕の先端には二酸化炭素を感知する器官が備わっているので、生物の接近を逃すことはありません。
またノミなどの外部寄生虫とは異なり、1回で限界まで吸血するため、吸血後のマダニは吸血前と比較して20倍ほど大きくなります。500円玉くらいになる種類もあるので、驚きですよね。
このように、宿主の体表で生活する期間と、環境中で生活する期間を繰り返し、吸血と産卵を行っていきます。
マダニの診断と治療
マダニの診断
皮膚表面に付着しているマダニを見つけることで診断します。しかし、見つけたマダニを手でつまんで引っ張るのはやめてください。
マダニは吸血するときに宿主から落ちないよう、口先の顎体部と呼ばれる部位を皮膚の奥に刺入します。無理にマダニを引っ張ってしまうと顎体部が外れ、宿主の体内に残ることになります。この残存した顎体部が炎症を引き起こし、細菌の二次感染も相まって化膿することがあります。
動物病院ではピンセットを用いて慎重に取り外しますが、吸血が終わるのを待って自然に皮膚から離れるのを待つのも手です。とにかく、マダニを発見しても慌てないようにしましょう。
マダニの治療
各種殺ダニ剤の滴下や噴霧によって、寄生したマダニを駆除します。
またアレルギー性皮膚炎にはステロイドの投与を、患部が化膿している場合には抗菌薬の投与も行います。
マダニの予防
寄生された猫だけでなく、一緒に暮らしている人間にも害を及ぼす可能性のあるマダニですが、月に1度の定期的な駆虫により予防が可能です。
猫では各製薬会社でダニを始めとした外部寄生虫の予防薬が販売されています。多くはお腹の寄生虫(猫回虫や猫鉤虫など)やノミ、フィラリアといった他の寄生虫の予防効果も持っているので、愛猫が使用している薬剤が何に効果があるのか把握しておきましょう。
市販薬は効果あり?
一般に市販されている外部寄生虫の予防薬は、動物病院で処方される薬剤と比較して効果が弱い、あるいは効果の持続期間が短いなどが考えられます。
そもそも、動物病院の薬は「動物用医薬品」、一般的に販売されているものは「医薬部外品」という違いがあります。費用と手間をかけるのであれば、しっかりと動物用医薬品で予防していきましょう。
まとめ
マダニはノミや蚊と同様に、猫にとってもヒトにとっても害虫です。
大切な愛猫とあなたの生活空間にマダニが持ち込まれないよう、定期的な予防を徹底しましょう。またスキンシップの際にも、皮膚に異常がないかどうか、日頃からチェックしてあげてください。