近年、犬や猫を始めとする小動物の分野においてもマイクロチップが普及しています。動物愛護法の改正にもマイクロチップの項目があり、ニュースで耳にしたことのある方も多いと思います。
しかし、実際にはどんなものなのかよくわからない方もいるのではないでしょうか。マイクロチップによって何ができるのか、危険性はないのかなど、疑問に思うことは多いでしょう。
そこで本記事では、小動物におけるマイクロチップについて詳しく解説します。
この記事の目次
そもそもマイクロチップって何?
マイクロチップは、直径2mm、長さは8〜12mm程度の円筒形をした電子タグです。それぞれに個体識別番号が割り振られており、注射器によって動物の皮下に埋め込みます。
迷子のペットが見つかったとき、この番号を動物保護センターや保健所、動物病院にあるリーダーで読み込み、登録情報から飼い主を特定します。
迷子札ではダメなの?
従来の迷子札は文字が消えてしまったり、首輪につけていたものが外れてしまったりといった問題がありました。
ところがマイクロチップは、体内に埋め込むので紛失の心配がなく、確実な身分証明になります。
海外に連れて行く際は要注意
また、海外渡航の際に到着空港の動物検疫所、および帰国の際に日本の動物検疫所で、マイクロチップの埋め込み証明書が必要になります。
手続きには時間がかかることもあるので、渡航先の検疫状況を予め確認しておきましょう。
マイクロチップのメリット
マイクロチップの埋め込みをすることには、一体どのようなメリットがあるのでしょうか。
ひとつずつ確認していきます。
脱走や誘拐時の身分証明
予期せぬ脱走や、飼っている猫が外に出ている間に他の家に飼われてしまったらどうしますか?
体の模様や顔つき、呼びかけたときの反応などの全てが我が子だと示していても、相手がそれを聞き入れてくれなければ諦めるしかありません。
しかし、マイクロチップが入っていれば、「個体識別番号」を照会することで、確実に我が子という証明ができます。
災害時にはぐれても帰ってくる可能性
脱走時もそうですが、個体識別番号と飼い主の情報を登録しておくことで、はぐれてしまっても戻ってくる可能性が高まります。
東日本大震災のときに、迷子札がついていた犬や猫は100%飼い主の元に戻ったのに対し、迷子札が付いていない場合で飼い主が判明したのは犬で0.5%、猫で0%だったという報告もあります。
確実に無くさない迷子札であるマイクロチップであれば、安心かもしれません。ただし、GPS機能が付いている訳ではないので、今どこにいるかがわかるわけではありません。
飼い主としての自覚の向上
これは飼い主として当然のことではありますが、寿命を全うするまで面倒を見るという意識が高まるでしょう。我が子がどこに行っても、我が子であったと記録が残っているからです。これにより、犬猫の殺処分の減少に一役買う可能性があります。
平成30年度における日本全国の動物保護センターでの犬猫の引き取り数は約92,000頭でした。年々減少傾向ではありますが、まだ少ないとは言い難い数字です。マイクロチップの普及によって、引き取られる犬猫の数がゼロに近づくことに期待します。
マイクロチップの現状
マイクロチップのメリットを挙げましたが、現在の状況はどうなのでしょうか。普及の状況など、日本と世界のマイクロチップ事情を比較していきます。
世界の動物マイクロチップ事情
動物福祉先進国と言われているドイツやイギリスを始め、フランス、ベルギー、スイス、オーストラリアなどの国では、犬のマイクロチップの装着が義務化されています。また、アメリカの一部の州では、保護施設に入った犬猫全てにマイクロチップの埋め込みを行っています。
世界的に見てもマイクロチップ装着は当たり前のことのようになりつつあります。
動物愛護法による義務化
では、日本はどうでしょう。
2019年6月に動物愛護法の改正案が国会を通過し、2020年6月1日より施行されました。その中で動物虐待の罰則強化の他に、マイクロチップ義務化の項目があるのをご存じでしょうか。
これにより、ペットショップやブリーダーといった動物取扱業者は、販売する犬猫に対してマイクロチップの埋め込みが義務となりました。
すなわち、ペットショップなどから犬や猫を買ってきた場合は、その後に登録の変更が必要になります。
業者以外は「努力義務」
一方、現在犬や猫を飼っている方や、知人から譲り受けたり、野良猫を保護した場合は、マイクロチップの装着は努力義務となります。
努力義務とは、法律上やった方がいいけれど、やるかやらないかの最終判断は飼い主に任せるというものです。動物愛護法の改正によって知らないうちに罰せられることはありませんが、この機会に装着を検討してみましょう。
改正動物愛護法について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
マイクロチップは安全なの?
マイクロチップの普及にあたり、飼い主の方がまず気になるのはその安全性でしょう。
マイクロチップには生体適合ガラスが使用されており、副作用はないとされています。
環境省によると、外部からの衝撃による破損事故も報告がないようなので、まず安全性は保障されていると言えるでしょう。
CT検査、MRI検査の障害になる可能性はある
しかし、マイクロチップ埋め込み部付近で、CTやMRI検査の画像が乱れることがあるそうです。マイクロチップは左右肩甲骨の間に埋め込むため、例えば頸部椎間板ヘルニアの際の頸部MRI検査時に障害になる可能性は否定できません。
そういった場合は、予め外科手術によってマイクロチップを取り除くこともできます。
マイクロチップ埋め込みは可哀想?
マイクロチップの埋め込みには痛みを伴うのではないか、と心配される方も多くいます。
注射器を使って埋め込むのですが、その針はやや太いと感じるかもしれません。これから埋め込みを検討している方は、避妊や去勢手術、歯石除去などで全身麻酔をかける際に一緒に行うことをおすすめします。
もちろん、麻酔無しでも処置は可能です。また、その際の痛みはワクチンや病気の治療で注射をする時と同程度だと考えられています。
住所が変わったら登録変更手続きを忘れずに
飼い主が変わったときや、ペットの住所が変わったときは、必ずマイクロチップの登録情報を更新しましょう。
せっかくマイクロチップが装着されていても、情報が古ければ意味がありません。
住所更新の重要性と手続きについては、こちらの記事をご参照ください。
まとめ
異物を体内に埋め込むことに抵抗がある方もいるかと思います。しかし、万が一、ペットと離れ離れになったらと考えてみてください。返還率を高めるため、殺処分数を減らすために、私たちが出来ることは何でしょうか。
すでにペットを飼っている場合や、知人からペットを譲り受けた場合のマイクロチップの装着は、現段階ではあくまで努力義務です。しかし、かけがえのない家族を失わないためにマイクロチップについて考えるきっかけにしていただければと思います。
ペットショップなどで、既にマイクロチップを装着済みの場合は、必ず住所や飼い主の情報を登録し、随時情報の更新も忘れないようにしましょう。