瓜実条虫(うりざねじょうちゅう)は世界中で発生が見られ、日本でもよく遭遇する寄生虫です。
「愛犬の糞便中に動く白ゴマのようなものがある」という飼い主さんからの報告によって瓜実条虫の感染に気付くケースが多いのですが、瓜実条虫について知らないと、大変驚き、不安になる方が多くいます。
本記事を最後まで読んで頂き、万が一感染してもびっくりしないように、瓜実条虫について理解を深めて頂ければと思います。
この記事の目次
瓜実条虫(うりざねじょうちゅう)って何?
条虫は一般的に「サナダムシ」と呼ばれ、1個の頭(頭節)とそれに連なる数個~数千の片節から形成されます。
瓜実条虫は、この片節が「瓜の種」のような形をして連なっていることから、このような名前が付けられました。頭節から遠い片節は「成熟片節」や「受胎片節」と呼ばれ、受胎片節内には虫卵が多数入った卵嚢が見られます。
瓜実条虫は世界中の犬や猫の小腸に普通に見られる条虫で、ヒトにも感染します。
瓜実条虫の感染経路と生活環
瓜実条虫はその生活環にノミやハジラミといった中間宿主を取ります。中間宿主とは、寄生虫が成虫になる過程で通過すべきチェックポイントと考えてください。
犬や猫の糞便中に排出された受胎片節は、破れて虫卵をばらまき、それがノミの幼虫またはハジラミの成虫に捕食されます。そして、これら中間宿主の体内で虫卵から幼虫が孵化し、成長していきます。
やがて成長した瓜実条虫が中間宿主であるノミやハジラミとともに犬、猫、ヒトなどに飲み込まれると小腸内で成虫になります。
ペットの場合は、グルーミングによってノミが口の中に入ってしまうと考えられます。
瓜実条虫症の症状
寄生している数による違い
少ししか寄生していない場合は、肛門付近に痒みを起こす程度で、ほとんど症状はありません。
一方、多数で寄生している場合では、削痩、嘔吐、下痢、食欲亢進などが見られます。
成虫は小腸壁に咬みつく
成虫は小腸壁に嘴額(がくし)と呼ばれる牙で咬みついて、宿主動物から離れないようにします。その際に、小腸粘膜から出血が見られ、出血性下痢や貧血を起こすこともあります。
特に子犬では、持続的な食欲廃絶や腹痛、下痢によって命を落とすこともあります。
ヒトの瓜実条虫症
瓜実条虫症は人獣共通感染症でもあります。
ヒトに感染した場合にも犬の症状と同じように、下痢や腹痛を起こすことがあります。
直接ノミなどを口にはしないと思いますが、床にいるノミを何らかの拍子に潰してしまい、瓜実条虫が手に付いた状態で物を食べるといったケースが考えられます。
瓜実条虫症の診断と治療
診断
糞便中に排出された受胎片節は白いゴマのように見え、活発に動き回ります。あまりに動くので他の寄生虫と勘違いするかもしれませんが、顕微鏡で片節の特徴的な形や片節内の卵嚢を観察することで容易に診断できます。
また、便がなくても、肛門周囲にセロハンテープを当てることによって受胎片節や虫卵が検出できることもあります。
治療
「プラジカンテル」という成分の入った駆虫薬の投与によって、比較的簡単に治療が可能です。下痢や栄養障害を起こしている場合には、輸液によって水分や電解質を補正します。
ただし、ノミなどが環境中にいる限り再感染を起こすので、治療と同時に外部寄生虫の予防を行うことが必須となります。
瓜実条虫症の予防
前述したように、瓜実条虫症はノミやハジラミといった外部寄生虫の予防が重要です。ヒトにも感染する恐れがあるので、予防は徹底的に行いましょう。
外部寄生虫の予防
外部寄生虫の予防薬として、各製薬会社で様々な薬剤が販売されています。
基本的に1ヵ月に1回の投薬、または首の後ろの皮膚に薬剤を滴下することで予防が可能です。
ノミとハジラミの両方に効果があるもの、ノミだけに効果が保障されているものなどの種類がありますので、愛犬に使用している薬剤の効果を把握しておきましょう。
フィラリア薬でも予防可能
フィラリア予防薬の中にも、瓜実条虫に対する駆虫効果があるものがあります。
外部寄生虫の予防薬と併用すれば、瓜実条虫への予防は完璧になりますね。
環境を清潔に保つ
ノミやハジラミの繁殖を抑えるために、寝床を中心に掃除を徹底します。
特に、ノミの卵が付着している可能性のあるタオルやマットなどは、煮沸消毒をしてよく洗うことをおすすめします。
瓜実条虫症の発生状況
人獣共通感染症である瓜実条虫症は、自治体によっては発生動向をモニタリングしているところもあります。
東京都においては、平成21年度から30年度までの都内の20か所の動物病院で調査を行っています。その結果、10年間で82頭の犬が瓜実条虫症と診断されました(参考:動物病院における動物由来感染症モニタリング調査2)。
これを多いと見るか少ないと見るかは人それぞれですが、都内においても毎年のように瓜実条虫症が報告されているという事実があります。
まとめ
症状がそれ程重くない瓜実条虫症ですが、糞便中にうごめく片節を見るのは決して気分のいいものではありません。犬にとっても肛門の掻痒感はストレスとなりますし、ヒトにも感染する可能性があります。
瓜実条虫は薬で簡単に予防できますので、愛犬の健康を維持するためにもしっかり対策しましょう!