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いぬ健康

【獣医師監修】甘くみないで!犬の尿漏れで考えられる病気とは

相澤 啓介
相澤 啓介 獣医師

「尿漏れ」と言ったらどんな症状を思い浮かべますか?尿漏れはポタポタと尿が垂れている状態はもちろん、広い意味ではトイレ以外での排泄も含まれます

ただの粗相と思うかもしれませんが、体調の変化によってこれら尿漏れの症状が現れることもあります。その原因は主に泌尿器系の異常ですが、中には神経や内分泌系の異常も尿漏れに関与している場合があります。

今回は犬の尿漏れで考えられる疾患について解説します。

犬の尿漏れで考えられる疾患

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犬の尿漏れの原因は、膀胱の疾患、尿道括約筋の異常、神経疾患、尿量増加によるトイレ以外での排尿などが考えられます。

膀胱の疾患

  • 細菌性膀胱炎
  • 結石性膀胱炎
  • 膀胱腫瘍
  • 異所性尿管

尿道括約筋の異常

  • ホルモン反応性尿失禁

神経疾患

  • 胸腰部椎間板ヘルニア
  • 馬尾症候群(変性性腰仙椎狭窄症)
  • 認知障害

尿量増加によるトイレ以外での排尿

  • 腎不全
  • 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
  • 糖尿病

それぞれどのような疾患なのか、詳しくみていきましょう。

膀胱の疾患

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犬の尿漏れで最初に考えられるのは膀胱の異常です。特に膀胱炎は、外来でも非常によく遭遇する疾患です。尿検査を行いたいところですが、これら疾患では頻尿が症状として現れていることも多く、検査に十分な尿を採取できないこともあります。

また、原因によって治療法や経過も異なるため、しっかり検査をして診断を行うことが重要です。

細菌性膀胱炎

【症状】
頻尿、血尿、腹痛、排尿痛、膿尿(濁った尿)など。
【原因】
膀胱内での細菌の増殖。尿道口から侵入した細菌が膀胱まで到達することによる。
【備考】
通常は定期的な排尿によって尿道の細菌は洗い流されるが、過剰な尿の我慢、免疫系のはたらきの低下などによって細菌が膀胱に達することがある。特にメスは尿道が短いので細菌が侵入しやすい。

結石性膀胱炎

【症状】
頻尿、血尿、腹痛、排尿痛など。
【原因】
ストラバイト結石、シュウ酸カルシウム結石などが膀胱内にできることによる。
【備考】
これら結石は尿のpHの変化によって作られやすくなる。例えば細菌の増殖によって膀胱内の尿pHはアルカリ性となるが、それによってストラバイト結石が形成されやすくなる。

膀胱腫瘍

【症状】
血尿、頻尿、排尿困難など。
【原因】
膀胱内に腫瘍が発生することによる。なかでも移行上皮癌は膀胱三角と呼ばれる部位に発生しやすく、尿管閉塞や尿道閉塞を引き起こしやすい。
【備考】
症状が膀胱炎と類似しているため、外見でどちらかを判断することは難しい。尿管や尿道の閉塞が起こると急性腎不全に陥り、命に関わることもある。

異所性尿管

【症状】
失禁、排尿失敗、尿漏れなどと、それに伴う陰部の汚れや皮膚炎。
【原因】
先天的に尿管が膀胱ではなく、膣や尿道に開口することによる。好発犬種はトイプードル、コーギー、シベリアン・ハスキーなどで、オスよりメスでよく見られる。
【備考】
持続的に陰部から尿が垂れていると、そこから細菌感染を起こすこともある。先天疾患なので若齢(3~6ヵ月齢)で尿漏れが見られたら要注意。

尿道括約筋の異常

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排尿のコントロールには膀胱の収縮の他に、尿道括約筋が関与しています。この尿道括約筋が緩むことで、尿は尿道を通って排泄されます。つまり、尿道括約筋が何らかの原因で緩みっぱなしになってしまうと、膀胱から尿が流れ出てきてしまいます。

ホルモン反応性尿失禁

【症状】
尿漏れ、失禁などと、それに伴う皮膚炎など。
【原因】
女性ホルモンや男性ホルモンが減少することで、尿道括約筋のはたらきが減少する。
【備考】
避妊/去勢後の高齢犬で多く見られる。似た症状にストレス性尿失禁があるが、こちらは検査で判断することが困難となる。

神経疾患

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前述したように、排尿には膀胱の収縮および尿道括約筋の弛緩が必要です。これらの働きは神経によって支配されており、脊髄などが侵されると正常な排尿が困難となります。神経が障害される部位によっては、逆に尿が出にくくなることもあります。

よって、以下の疾患では尿漏れではなく、排尿困難が認められることも少なくありません。

胸腰部椎間板ヘルニア

【症状】
跛行(足を引きずる)、四肢麻痺、排尿困難、背部痛など。
【原因】
遺伝(ダックスフント、コーギー、シーズーなど)、加齢が要因となる。
【備考】
背骨を走る脊髄が、突出した椎間板によって圧迫されることによって麻痺などが起こる。排尿異常が認められる場合には予後に関係するため早い対処が求められる。

馬尾症候群(変性性腰仙椎狭窄症)

【症状】
尿失禁、排便の失敗、腰部や尾部の痛み、ふらつき、跛行など。
【原因】
先天的な脊椎の形態異常や不安定症、または椎間板変性などにより馬尾神経(腰の部分の神経)が圧迫されることによる。
【備考】
大型犬の中高齢以降で多く見られるという報告がある。小型犬ではプードルが好発犬種と言われている。

認知障害

【症状】
見当識障害(うろつく、家具の後ろなどで身動きが取れなくなるなど)、睡眠障害、夜間に鳴く、活動量の低下、尿失禁、排便の失敗など。
【原因】
ヒトのアルツハイマー病や認知症と同様の変化が脳に起こっているという報告があるが、詳しい原因は解明されていない。
【備考】
犬の認知障害は近年になって注目され始めた分野であり、今後の研究が待たれる。

尿量増加によるトイレ以外での排尿

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尿量が増加するような疾患では、トイレが間に合わずに粗相をしてしまうことがあります。これら疾患では尿量の増加とともに、飲水量も増加します。

また、全身症状を伴うこともあり、速やかな診断と治療が求められます。最近何かおかしいなと感じたらすぐに動物病院を受診しましょう。

腎不全

【症状】
元気消失、食欲不振、嘔吐、脱水、多飲多尿、貧血など。重症例では乏尿、無尿、痙攣、尿毒症などが見られる。
【原因】
腎炎(細菌やウイルスの感染、自己免疫疾患など)、腎臓への血流の減少(心臓疾患やショックなど)、尿路結石、中毒など。
【備考】
高齢の犬ほど慢性腎不全のリスクは増加する。一方で急性腎不全は症状が激烈で、若齢の犬でも注意が必要。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)

【症状】
多飲多尿、食欲増加、腹部膨満、皮膚の菲薄化や石灰化、脱毛など。
【原因】
副腎腫瘍や下垂体腫瘍による副腎皮質ホルモンの分泌増加、ステロイド薬の過剰投与など。
【備考】
プードル、ボストンテリア、ダックスフントが発症しやすいと言われている。

糖尿病

【症状】
多飲多尿、体重減少、嘔吐、下痢、脱水、口臭、昏睡など。
【原因】
犬ではインスリンの分泌量が減少するⅠ型糖尿病が多い。原因ははっきりとはしていないが、発症には肥満、感染症、遺伝などが複合的に関与していると考えられている。
【備考】
合併症として白内障、副腎皮質機能亢進症、膀胱炎、膵炎、子宮蓄膿症などが挙げられる。

まとめ

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尿漏れが見られる疾患の中には、放置するとより重篤になるものもあります。尿漏れの原因がどこにあるのか、しっかりと診断して適切な処置を行う必要があります。

たかが尿漏れと思わずに、変わったことがあればお気軽に動物病院にご相談ください。

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