「子どもが生まれたら犬を飼いなさい」という言葉を聞いたことはありますか?
犬には人間の心を癒す力があると考えられており、セラピー犬として活躍している犬もたくさんいます。しかし、実際に犬の飼育経験が思春期の児童に対してどのような影響を与えるのかは分かっていませんでした。
今回、東京大学などが実施したプロジェクトと麻布大学との共同研究により、犬を飼うことで思春期の児童の幸福度が向上することが分かりました。子どもが生まれたら犬を飼うのは理に適っていたということでしょう。
この記事では、今回報告された研究について詳しく解説していきます。
この記事の目次
研究概要
これまでの研究では、犬と見つめ合うことでオキシトシンが分泌され、ヒトの心身に良い影響を与えることが分かっています。
オキシトシンは「幸せホルモン」とも呼ばれており、スキンシップなどで幸せを感じたときに分泌されるホルモンです。ストレスの解消や痛みの緩和、ダイエットや美肌など、さまざまな効果が知られています。
しかし、犬の飼育がヒトの健康、特に思春期の子どもたちに対してどのような効果があるかは明らかになっていませんでした。
今回は東京大学・総合研究大学院大学・東京都医学総合研究所の3つの機関が連携して行う研究プロジェクト、「青春期の健康・ 発達コホート研究(TokyoTeen Cohort project,TTC)」に参加している思春期の子どもを対象にアンケートを実施し、10歳と12歳のときの幸福度を調査しました。
調査対象
TTCに参加している3自治体(調布、三鷹、世田谷)在住の10歳の子どもを持つ家庭を無作為に抽出し、3171世帯を調査対象としました。そして2年後の12歳の時点で再びアンケートを実施し、最終的に2584名の子どもを対象に、10歳と12歳の時の幸福度を比較し分析しました。
それぞれの対象者に、家にペットがいるかをたずね、以下の3グループに分類します。
- 犬も猫も飼育していない
- 犬を飼育している
- 猫を飼育している
なお、犬も猫も両方飼育している家庭は、統計的に正しいデータを取れるほど多くなかったため、除外されています(n=9)。
WHOが定義する「健康」とは
今回の研究では、WHO(世界保健機関)が定義しているWell-being(ウェルビーイング)というスコアで幸福度を評価しています。
WHOはWell-beingについて、「健康とは、身体面、精神面、社会面における、すべての well-being(良好性)の状況を指し、単に病気・病弱でない事とは意味しない」とし、身体だけでなく、精神面や社会面も含めた健康を意味しています。
今回のアンケートでは、最近2週間のうち、「明るく、楽しい気分で過ごした」「落ち着いた、リラックスした気分で過ごした」などの項目を6段階で評価しています。
結果
このグラフに描画されている線は、それぞれ以下の結果を示しています。そして、10歳と12歳のときの幸福度を数値化しています。
- 青→犬も猫も飼育していない
- 緑→犬を飼育している
- 赤→猫を飼育している
結果、犬と猫の飼育経験は、思春期の子どもに対し、それぞれ異なった影響を与えることが分かりました。
犬を飼育している家庭
犬も猫も飼育していない家庭と犬を飼育している家庭を比べたところ、犬を飼育している家庭では幸福度がほとんど低下しないという結果が出ました。
一般的にヒトの幸福度は思春期から35歳くらいまでは徐々に低下していく傾向があるため、犬の飼育は思春期の子供の幸福度に好影響を与えていることが分かります。
猫を飼育している家庭
一方で、犬も猫も飼育していない家庭と、猫を飼育している家庭を比較したところ、幸福度の低下が見られました。
犬を飼育している場合は散歩により身体活動時間が7〜8%増加することから、子どもの肥満防止の効果が幸福度にもつながっていると考えられるのに対し、猫を飼っていても基本的には外へ散歩に行くことはありません。これにより、子どもの身体活動時間に差が出てきます。
また、妊婦にも影響を与えるトキソプラズマは猫に寄生することが多いということも、幸福度を低下させた要因と考えられています。
トキソプラズマが人間に与える影響
トキソプラズマは人間にも感染する感染症です。人間に感染したとしても、妊婦が感染しなければ、風邪のような症状が出る程度とされています。しかし、一部の研究では、感染者は統合失調症を発症しやすくなると指摘されていたり、交通事故に遭う確率が2倍以上高まるとも言われています。
なお、今回の結果からは、あくまで「犬の飼育経験がある家庭と比べると幸福度が低下する」ということが分かっただけで、決して「猫を飼育すると不幸になる」というわけではありませんので注意しましょう。
さらに、猫は犬に比べて研究が進んでいないのも事実です。今後は、猫の飼育がヒトにどのような影響が与えるか調査が進んでいくでしょう。
犬の存在
今回の研究結果から、犬の飼育経験が心身の健康をもたらすことが分かりました。
これにより、思春期の子どもに見られる、不登校やいじめ、拒食症などの問題に対して、犬が介在することで何かしら良い影響をもたらす可能性も見いだされました。
今後は、具体的に犬の飼育のどのような経験が人間の心身に影響を与えるのか、明らかにされていくことでしょう。
よい影響を与え合える関係性に
私たちは愛するペットに、精神的な健康や日々の生活の中の楽しさなど、たくさんのことを与えてもらっています。
私たち人間がペットの世話をしていると思っているかもしれませんが、実は私たちの方がペットに精神的なお世話をしてもらっているのかもしれません。
そんなペットに対し、私たち人間は何を与えられているでしょうか?この機会にそんなことを考えてみるのも良いかもしれません。お互いがお互いに良い影響を与えつつ、素敵な関係性を築いていきたいですね。