突然ですが、犬の寿命を10年伸ばしたと言われるのはどこの国の研究者か知っていますか?正解は、ノーベル賞も受賞した日本の研究者なのです。
ノーベル賞がすごい賞だということは知っているけど、難しそうだし自分には関係ないと敬遠しがちな方も多いのではないでしょうか。
今回はそんな方にも興味を持っていただけるよう、ペットに関わる研究を厳選してご紹介します!今では当たり前のようなことでも、偉大な研究者の努力により救われた命もたくさんありました。
この記事の目次
ノーベル賞
ノーベル賞はアルフレッド・ノーベルの遺言により1901年から始まった賞で、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、経済学の6部門で顕著な功績を残した人物に贈られます。
毎年10月に受賞者が決定し、ノーベルの命日である12月10日に授賞式が行われます。受賞者には、賞金約1億円、賞状、メダルが贈られます。
ノーベル賞①「パブロフの犬」で古典的条件づけを提唱
1904年 ノーベル医学生理学賞 イワン・パブロフ
ソ連の生理学者イワン・パブロフは犬の唾液腺の研究をしており、飼育員の足音で犬が唾液を分泌していることを発見し、条件反射の研究を始めました。
餌を見だだけで唾液を出す犬に、ブザー音を聞かせてから餌を与えるようにすると、犬はブザーの音を聞いただけでも唾液を分泌するようになりました。
「パブロフの犬」という言葉を聞いたことはありますか?これは古典的条件付けと呼ばれる”学習”のひとつです。もともと動物には「反射」という無意識に特定の刺激に対して反応する性質を持ちます。パブロフはこの反射を訓練して身につけることができることを発見したのです。
ノーベル賞②刷り込みを研究し、動物行動学の基礎を築いた
1973年 ノーベル医学生理学賞 コンラート・ローレンツ
オーストリアの動物行動学者のコンラート・ローレンツは鳥類の「刷り込み」を研究しました。
「刷り込み」といえばアヒルやヒヨコなどの鳥類を想像するかもしれませんが、犬や猫でも起こると主張する科学者もいます。生後13週齢頃までは「社会化期」と呼ばれ、この時期は子犬の健全な成長にとって非常に重要な期間とされています。この期間に刷り込みが起こり、さまざまな学習をしていることも考えられます。
ちなみに、ローレンツはハイイロガンという鳥のヒナに母親と間違えられた経験があり、彼を親だと思い込んだヒナはその後も追い続け、一緒に寝たり、庭で散歩したり、池に入って泳ぎを覚えたりしたそうです。
同年に受賞した2人の動物行動学者
ローレンツと同じ年に受賞したカール・フォン・フリッシュはミツバチの8の字ダンスの意味を解読、ニコ・ティンバーゲンはイトヨという魚の縄張り行動の研究と、動物行動学に大きな功績を残しました。
ノーベル賞③犬の寿命を10年伸ばした日本人研究者
2015年 ノーベル医学生理学賞 大村智
大村智教授が1979年に発見した「イベルメクチン」が、犬の寿命を伸ばすのに大きく貢献しています。
イベルメクチンなんて聞いたことがないという方がほとんどだと思いますが、「フィラリアの薬」と聞けば犬の飼い主さんはピンとくるでしょう。
1980年の犬の平均寿命は3歳程度で、死亡原因の上位をフィラリア症が占めていました。しかし、フィラリア予防薬の定期的な投与によりフィラリア症で亡くなる犬が激減し、最近では13歳〜14歳と犬の寿命がおよそ10年伸びています。
また、フィラリアによく似たヒトの疾患にも効果があり、多くのヒトと動物の命を救ってきました。さらに、現在は新型コロナウイルスの治療薬候補として治験が実施されています。
イグノーベル賞
イグノーベル賞は1991年にアメリカの雑誌編集長マーク・エイブラハムズにより創設された、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して贈られる賞です。なんと、2020年現在、日本人が14年連続で受賞しています。
ノーベル賞では扱わないような分野にも着目し、興味深いが脚光が当たらない研究業績を広め賞賛することを目的としています。また、時には皮肉を込めて贈られることもあります。
なお、ノーベル賞とは異なり賞金はなく(もしくはほぼ価値のない賞金)、賞状もモノクロインクで印刷された白いコピー用紙に審査員のサインが書かれたものが渡されます。
イグノーベル賞①犬の翻訳機「バウリンガル」の発明
2002年 イグノーベル平和賞 佐藤慶太ら
タカラ(現・タカラトミー)から販売され大ヒットした「バウリンガル」は、犬の鳴き声をリアルタイムに6つの感情(自己表現、楽しい、悲しい、要求、威嚇、フラストレーション)で分析する犬とのコミュニケーションツールです。名前くらいは聞いたことのある人も多いのではないでしょうか?
「動物と会話できたらいいな」という社長の夢から始まった企画で、愛犬家向けのコミュニケーションツールとして約200通りの「面白い犬語」にまとめられています。
イグノーベル賞②犬が用を足す時は南北方向に体を向ける?
2014年 イグノーベル生物学賞 ヴラスティミル・ハルトら
愛犬がトイレをする前に、その場でぐるぐる回転するのを見たことはありますか?ウシやシカなどの哺乳類には磁気を感じる能力が備わっており、この犬の行動が磁場と関係しているのではないかと考えた研究者がいました。
2年間で犬種37種70匹のうんち1893回分とおしっこ5582回分のデータを集めた結果、磁場が強いほど犬は南北の軸に体を沿わせて用を足す傾向が強くなることがわかりました。また、磁場の強弱に関係なく東西に体を向けて用を足すのを明らかに避ける様子も見られました。
なお、今回の調査では、犬が用を足すときに南北に向けるということははっきり分かりましたが、犬が意図的にやっているのか、無意識なのかは分からないそうです。いずれにせよ、愛犬が用を足す時に、少し意識してみると面白いかもしれませんね。
イグノーベル賞③猫は固体かつ液体の両方になれるのか?
2017年 物理学賞 マーク・アントワン・ファルダン
ファルダンは『猫の流動学について』という論文の中で、液体とは「体積は一定であるものの形は容器に合わせて変化するもの」と定義したならば、グラスや瓶に入り込んだり、箱の形状に合わせて広がったりできる猫は液体の特性を持っていると主張しました。そして物理学的に分析した結果、子猫より老猫の方が流動性が高いことが判明しました。
確かにSNSなどでは意外な場所にハマっている猫の写真を見かけることがありますが、あれは液化した猫の姿だったのでしょうか…?
番外編:絵本界のノーベル賞を受賞した『僕は犬や』
“絵本界のノーベル賞”と言われる「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」。『長くつ下のピッピ』などの童話で知られるスウェーデンを代表する作家の名が冠されており、児童文学や青少年向けの文学作品に授与される賞です。
2020年に受賞したのがペク・ヒナさんの『ぼくは犬や』という絵本。前作の『あめだま』に登場する「グズリ」という名の犬の視点で、人間家族との生活や絆を描いた、心温まるストーリーです。
翻訳を担当した長谷川義史さんが、グズリの気持ちが大阪弁で表現しています。犬を飼っている人にとっては思わずクスッと笑ってしまうこと間違いなしです!
まとめ
毎年発表されるノーベル賞やイグノーベル賞。あまりなじみのない人には少し難しい話題かもしれませんが、ペットに関する研究だけを取り上げてみると意外と興味深いものも多かったのではないでしょうか。
特に大村智教授が発見したイベルメクチンにより、多くの犬やヒトの命を救われたばかりか、今なお世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスの治療薬となる可能性もあり、日本人として誇らしく感じます。
多くの人にとってノーベル賞やイグノーベル賞は他人ごとと思うかもしれません。しかし、これらの研究は意外にも身近な物事に関連することばかりなのです。せっかくの機会に、少し興味を持って調べてみると新たな発見があるかもしれませんね。