「犬の眼がいつもより赤く見える」「涙や目ヤニが出ている」。その犬の眼の異常、もしかしたら危険な病気のサインかもしれません。
犬の眼の周りの異常は珍しい症状ではありませんが、一方で日常から注意しておかないと見落としやすい症状でもあります。
眼の異常はたとえ小さな症状であっても、犬にとっては大きなストレスとなっている可能性があります。
今回は犬の眼の異常について、考えられる疾患や治療方法を獣医師が詳しく解説していきます。
この記事の目次
犬の眼の異常のタイプ
一口に「眼の異常」と言っても、その症状は様々です。まずは、獣医師である筆者がよく遭遇する眼の症状について紹介します。
結膜充血(けつまくじゅうけつ)
結膜にある血管の拡張によって赤く見える状態です。
結膜は、白目の部分に起こる「眼球結膜」と、まぶたの裏などに起こる「眼瞼(がんけん)結膜」の2つに分けられます。
眼球結膜の充血はわかりやすいですが、眼瞼結膜の充血は外見上わかりにくい場合があります。
流涙(りゅうるい)
いつもより涙が多い状態です。
通常涙腺で産生された涙は眼の他に、鼻涙管を通って鼻にも流れていきます。何らかの原因で鼻涙管が閉塞すると、眼に流れる涙の量が増加します。
また、眼の痛みや刺激、副鼻腔の疾患、鼻粘膜の刺激によっても涙量は増加します。
眼脂(がんし)
いわゆる目ヤニのことです。
寝起きなどに見られる生理的なものの範疇を超えて、透明~黄色の目ヤニが見られる場合は異常です。
羞明(しゅうめい)
眩しいものを見るときのように、眼を細めている状態です。
ヒトも目が痛いときにはまぶたを開けていられませんよね。
瞬きが多い、眼がショボショボしているなどの表現も羞明に当たります。
混濁(こんだく)
眼が濁って見える状態です。
眼のどの部分(角膜、前眼房、水晶体)が濁っているのか、検査をしながら診断を進めていきます。
眼の異常によって考えられる疾患
愛犬の眼周りに異常が現れたら、次のような疾患が疑われます。
- 睫毛異常
- チェリーアイ(第三眼瞼腺脱出)
- 乾性角結膜炎
- 結膜炎
- 角膜潰瘍
- ぶどう膜炎
- 前眼房出血
- 緑内障
- 白内障
- 水晶体脱臼
- コリー眼異常
- 進行性網膜萎縮
- 網膜剥離
それでは、それぞれの疾患について詳しく見ていきましょう。
睫毛異常(しょうもういじょう)
いわゆる「逆さ睫毛」のことで、眼の周りの毛が眼に当たっている状態です。
犬はヒトと比べて、眼の感覚は鈍感なように思います。自身の毛が眼に入っていても平然としていることも多いです。
しかし、長期間にわたって慢性的な刺激が角膜に加わると炎症が起こり、眼の痛みなどに繋がります。睫毛が逆さにカールして眼に当たっているというよりは、まぶたの内側に本来あるはずのない毛が生えていることで症状が現れます。
チェリーアイ(第三眼瞼腺脱出)
犬には目頭の近くに「瞬膜(第三眼瞼)」というものがあります。
瞬膜は外からの異物から眼を保護するためのもので、みなさんも犬が眼を半開きにして寝ている時、薄い瞬膜を見たことがあるかもしれません。
その瞬膜の内側には「第三眼瞼腺」があり、チェリーアイとはこの「第三眼瞼腺」が飛び出している状態のことを言います。
突然目頭に赤いものが見えるようになった場合は、この疾患である可能性が高いです。
乾性角結膜炎(かんせいかくけつまくえん)
ドライアイのことです。
犬のドライアイは、何らかの原因で涙の量が少ない時や、神経の麻痺などによって瞬きが出来ない時などに起こります。
放置すると角膜に傷が付き、角膜潰瘍や角膜穿孔に進行することがあるので注意が必要です。
結膜炎(けつまくえん)
微生物の感染やアレルギーによって、充血や眼脂が見られます。
特にアレルギー性のものはアトピーにも関連があると言われており、皮膚疾患の有無も診断の重要なポイントです。
角膜潰瘍(かくまくかいよう)
眼の一番表面の部分である「角膜」に傷が付いた状態です。
散歩中に草むらに顔を突っ込んだ後や、他の犬とケンカした後に眼に異常が見られる場合には角膜潰瘍が強く疑われます。
さらに角膜の傷が深くなると、角膜に穴が開く「角膜穿孔」などに進行する恐れがあるため、速やかに治療が必要となります。
ぶどう膜炎(ぶどうまくえん)
「ぶどう膜」は、瞳孔の大きさを決める虹彩や毛様体、眼に栄養を送る脈絡膜という組織の総称です。
感染、角膜潰瘍、外傷、糖尿病、免疫介在性疾患、白内障、腫瘍など多くの疾患に続発して起こることが多いです。
逆に、ぶどう膜炎から白内障や緑内障を続発する場合もあり、放置は禁物です。
前眼房出血(ぜんがんぼうしゅっけつ)
眼の表面である「角膜」と、レンズの役割を担う「水晶体」の間の隙間を「前眼房」と呼びます。
外傷や腫瘍、その他の眼疾患などによって虹彩に出血が起こることによって見られます。
見た目には、黒目の上に血液が浮いているように見えます。
緑内障(りょくないしょう)
眼球は、内側からの圧力「眼圧」によって、球体の形を保っています。
眼圧が低いと眼が潰れてしまいますが、逆に眼圧が高すぎても問題があります。緑内障は眼圧が高いことが原因のひとつで、強い痛みを伴って眼球がパンパンになる上、放置すれば失明することもあります。
見た目にはわかりづらいことも多いので、顔周りを触られることを嫌がったり、頭を振るような仕草が見られたら動物病院を受診しましょう。
白内障(はくないしょう)
ヒトでも多く見られる眼疾患の一つです。
水晶体が白く濁る疾患ですが、加齢とともに起こる生理的変化である「核硬化症」との鑑別が重要です。
糖尿病などの基礎疾患があると白内障にかかりやすい傾向にあるので、定期検診が必要です。
水晶体脱臼(すいしょうたいだっきゅう)
レンズである水晶体が外れてしまう状態です。
緑内障やぶどう膜炎を併発しやすいため、見つけたらすぐに治療を行います。
コリー眼異常(こりーがんいじょう)
コリーやシェルティーといった犬種は、先天的に脈絡膜に異常が見られることが多い傾向にあります。
子犬の時期(4〜8週齢)での検査によって診断を行い、今後の方針を決めていきます。
進行性網膜萎縮(しんこうせいもうまくいしゅく)
網膜に異常が起こることで徐々に視覚障害が現れる疾患です。
通常、視覚障害が現れても犬は家具の位置などを記憶しているので、生活に支障が出ることはあまりありません。
もし、いつもとイスや机の位置を変えて、家具にぶつかりやすくなるようであれば見えにくくなっている可能性があります。
網膜剥離(もうまくはくり)
高血圧や腫瘍疾患によって網膜が剥がれる疾患です。
突然の失明によって発覚することが多く、緑内障や白内障を併発することも多い疾患です。
眼の異常が見られた時に病院で聞かれること
涙や眼脂などとは異なり、視覚障害は客観的な評価が難しく、診断を進める上では家での様子を聴取することも重要です。
動物病院に行く前に、次のようなポイントを確認しておくと診断がスムーズに進みます。
- いつから: 急性か慢性か、進行は速いかなど
- ケンカなどの有無: 外傷歴
- 昼と夜で様子は違うか: 活動性など
まとめ
犬は眼に異常を感じていても、自ら言葉で症状を訴えることができません。普段からじっくり観察していないと、ちょっとした眼の異常は見落としてしまいがちです。
普段から愛犬とスキンシップを取りながら、愛犬の眼の異常にいち早く気付けるようにしておきましょう。