近年、異常気象によって、豪雨による被害が深刻化しています。
大雨による洪水被害や浸水被害も怖いですが、大雨・洪水の後に危険性が高まる、「レプトスピラ症」という感染症をご存知でしょうか。
レプトスピラ症は犬にもヒトにも感染し、最悪の場合、死に至ることもある怖い感染症です。
今回の記事では、そんなレプトスピラ症が大雨・洪水の後に危険性を増す理由や、主な症状、予防方法についてご紹介します。
この記事の目次
レプトスピラ症の感染状況
レプトスピラ症とは、「レプトスピラ菌」という細菌によって感染する感染症です。犬だけでなく、ヒトにも感染する「人獣共通感染症(ズーノーシス)」として知られています。
全世界で感染が確認されていますが、とくに熱帯・亜熱帯地域に多い傾向にあります。
ヒトのレプトスピラ症の感染状況
日本では、1970年代前半までは年間で50人以上がレプトスピラ症によって死亡していましたが、近年は衛生環境の向上によって感染例は減少しています。
しかし、狂犬病のように感染例が全くなくなったわけではなく、2007年~2016年の間の国内感染例が258例と、毎年15~42例ほど報告されています。水辺でのレジャーや農作業、ネズミとの接触での感染が多く、沖縄県での感染例が半分以上を占めています。
参考資料
国立感染症研究所「レプトスピラ症 2007年1月~2016年4月」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/leptospirosis-m/leptospirosis-iasrtpc/6518-436t.html
犬のレプトスピラ症の感染状況
日本国内で報告されている犬のレプトスピラ症の発生状況は、平成30年で22頭、令和元年で26頭です。
ただ、診断が下りる前に死亡した例など、実際には報告数よりも感染頭数は多いのではないかと考えられます。
参考資料
農林水産省「監視伝染病発生年報」
https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/kansi_densen/attach/pdf/kansi_densen-165.pdf
大雨・洪水後は特に注意!
レプトスピラの感染経路
レプトスピラは、ネズミなどのげっ歯類が保菌していることが多く、尿から細菌が排出されると、土壌や水などの環境を汚染します。
保菌動物や汚染された土壌、水と接触した際に、体内に細菌が侵入することで感染します。
湿気の多い環境を好む細菌
レプトスピラは、湿気の多い環境を好みます。そのため、ネズミなどの尿で汚染された下水、池、水田、河川、泥などには注意が必要です。
また、暖かくて雨量の多い夏から初秋にかけての季節に感染が増える傾向にあります。
特に大雨や洪水の後は水や土壌が汚染されていることが多く、ネズミと接触する機会も増えるため、レプトスピラへの感染の危険性がより高くなります。
都会でも油断はできない!
都会に住んでいる方は、「身近に水田や池はないから自分には関係ない」と思うかもしれません。実際、ヒトの場合は、稲作や畜産業にかかわる人に感染例が多いのは事実です。
しかし、最近では都心でもネズミが増えており、特に水害が起こった後にレプトスピラ症が地域単位で流行する可能性があります。
犬の場合は、都会であっても散歩中に河川や側溝に近づいてしまうことがあるため、飼い主さんが注意してあげなければなりません。
レプトスピラ症の症状
レプトスピラに感染しても、すべての犬がレプトスピラ症を発症するわけではありません。
しかし、発症すると、特に肝臓や腎臓に症状が現れ、最悪の場合は数時間で死に至ることもある危険な感染症です。
レプトスピラ症の症状を、4つのレベルごとに簡単に見ていきましょう。
レベル1.慢性
多飲多尿、腹水など進行性の肝不全。
症状は緩やかで、長期間にわたり継続する。
レベル2. 亜急性
腎炎による急激な腎不全。進行は比較的緩やか。
急性の肝不全や腎不全、またはその両方が認められる。突然発症して早く進行し、死亡率は高い。
レベル3. 急性
嘔吐、脱水、脱力、呼吸困難、口腔内の粘膜の壊死など。
急性の肝不全や腎不全、またはその両方が認められる。突然発症して早く進行し、死亡率は高い。
レベル4. 甚急性
発熱、震え、脱力、口腔内の粘膜の出血。鼻出血、黒いタール便などが見られることも。
肝不全や腎不全が現れる前に、数時間から数日で死に至る。
レプトスピラ症の予防方法
ワクチン接種
混合ワクチンであれば、7種以上のものでレプトスピラが含まれています。「5種混合ワクチンしか打ってないけど、犬と一緒にキャンプに出かけたい」などというときには、レプトスピラ症のみ予防できるワクチンを追加接種しましょう。
ただし、レプトスピラには多くの血清型が存在していますが、ワクチンに含まれている血清以外は感染を防ぐことができません。
実際、2017年に大阪で犬のレプトスピラ症が集団発生したときには、死亡した9頭の犬のうち、6頭はレプトスピラワクチンを接種していました。
大雨・洪水後の散歩に注意!
大雨や洪水の後は、汚染された土壌や水に接触する危険性が多いので、散歩をする際には、なるべく水や泥が溜まっているところに近づかないようにしましょう。
また、特にレプトスピラ症が発生した地域では、公園やドッグランなどで他の犬と接触することも避けましょう。
まとめ
今回は、レプトスピラ症の感染経路や症状、予防方法をご紹介しました。
レプトスピラ症は、保菌動物の尿で汚染された水や泥を介して感染するため、大雨や洪水の後など、環境が汚染されやすい期間には特に注意が必要です。
ワクチンだけで完全に予防をすることはできないので、特に大雨の後に犬の散歩をする際は、なるべく汚い水や泥のあるところには近寄らせないようにしましょう。