皆さんは日本原産の犬というと、どんな犬種を思い浮かべますか。多くの方は柴犬や秋田犬など精悍な外見の犬を思い浮かべるのではないでしょうか。
いわゆる「日本犬」はそのようなタイプの犬ですが、「日本原産の犬種」というと、また一味違った犬種もいます。
今回は、そんな奥深い日本の犬たちをご紹介していきます。
カッコ内は2021年におけるジャパン・ケネル・クラブ(JKC)の登録頭数と順位を表します。
この記事の目次
国の天然記念物「日本犬」とは
日本犬とは日本の在来犬種のことを指します。古代日本に存在した縄文犬や弥生犬の交配によって生まれたと言われており、他国の犬種の血が入っていません。
日本原産の犬種の中でも次の6犬種のみが日本犬で、全て国の天然記念物に指定されています。
柴犬(7位、9,958頭)
国内で飼育されている日本犬の8割を占めている人気犬種。海外でも人気がある日本犬です。
「柴」は小さなものを表す古語で、日本犬の中では小型犬に分類されますが、全犬種を含めた分類では中型犬とされることが多くあります。
秋田犬(32位、519頭)
「忠犬ハチ公」や、ブサかわ犬として人気だった「わさお」などが有名な秋田犬。
東北地方で、かつて熊の狩猟に使用されていた古代種「秋田マタギ犬」を祖先にもちます。
甲斐犬(67位、91頭)
山梨県の山岳地帯で狩猟犬として飼育されており、他の日本犬種よりもルーツが古いと言われています。
飼い主に強い忠誠心を持つ犬とされており、一人の飼い主に一生仕えるという意味の「一代一主」という言葉で形容されるほどです。
ちなみに、日本犬は「柴犬(しばいぬ)」など「◯◯犬(いぬ)」と呼ぶのが正しい呼び方ですが、この甲斐犬の場合は「かいいぬ」と読んでしまうと「飼い犬」と混同してしまうため、「かいけん」という呼称が使われています。
紀州犬(107位、9頭)
紀州地方の山岳地帯で、狩猟犬として活躍してきた紀州犬。
白い毛色が特徴的で全体の95%を占めますが、赤や胡麻といった毛色の犬も存在します。
北海道犬(86位、35頭)
北海道犬(Midori, CC BY 3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)
通信会社のCMの「お父さん」として有名になった北海道犬。
北海道の先住民族であるアイヌ人に狩猟犬として飼育されていた犬種です。アイヌ犬とも呼ばれています。
四国犬(82位、41頭)
四国犬(Bigsteeve (en.wikipedia), CC BY-SA 3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)
高知県を中心に、四国山脈の山間部で狩猟犬として飼育されていた四国犬。ワイルドな風貌で、日本犬のなかでは最もオオカミに外見が似ていると言われています。
かつては「土佐犬」と呼ばれていましたが、土佐闘犬と混同してしまうため「四国犬」と改称されました。
日本犬以外の日本原産の犬種とは
「日本犬」は日本のみで交配した上記の6犬種ですが、海外の犬との交配により日本で誕生した日本原産の犬種もいます。
狆(45位、259頭)
(画像:左が「狆(日本)」、右が「ペキニーズ(中国)」)
日本では珍しく、室内で飼育されてきた愛玩犬。犬公方と呼ばれ、生類憐れみの令で有名な徳川綱吉の愛犬だったとされています。
犬種の歴史は詳しくわかっていませんが、チベタン・スパニエルの系統だと言われ、中国原産の「ペキニーズ」とよく似た外見をしています。
日本スピッツ(27位、1,314頭)
純白で毛量の多い美しい毛が特徴の日本スピッツ。かつての日本では大変な人気犬種で最盛期の1950年後半には登録犬種の4割を占めていましたが、無駄吠えが多く人気は下火になりました。
現在では室内飼育が増えたことや、吠えを改善するブリーディングにより、無駄吠えが少なくなったと言われ、人気が復活しつつあります。
ちなみにスピッツとはドイツ語で「尖った」という意味。口周りが尖って前に出ている様子を表しています。
アメリカン・アキタ(2021年は登録0頭)
第二次世界大戦後、アメリカ進駐兵が秋田犬を本国へ持ち帰り、シェパードなどと交配させ作られた犬種です。日本の秋田犬とは違う進化を遂げているため、別犬種とされています。
秋田犬よりも一回り大きく、毛色も様々な色が認められています。グレート・ジャパニーズ・ドッグとも呼ばれています。
日本テリア(74位、69頭)
日本テリア(Pleple2000, CC BY-SA 3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)
日本原産の犬種では唯一のテリア種。日本が鎖国をしていた18世紀に、オランダから長崎へ持ち込まれたスムース・フォックス・テリアと小型の在来犬を交配して作られました。
テリア(小動物を狩る猟犬)と名前がついていますが、日本では「抱き犬」として繁殖されており、甘えん坊で穏やかな性格と言われています。
土佐犬・土佐闘犬(2021年は登録0頭)
土佐闘犬(Lilly M, CC BY-SA 2.5, ウィキメディア・コモンズ経由で)
「四国犬」をルーツに持ち、闘犬用に獰猛な大型の洋犬と交配され作られました。
日本では「特定犬」として飼育に注意喚起をしている自治体があり、イギリスでは「危険犬種」として指定され、特別な事情がない限り繁殖や飼育が禁止されています。このことから、ペットとして飼うのはおすすめできない犬種と言えるでしょう。
地犬(じいぬ)とは
日本の特定の地域のみに以前から生息する犬を「地犬(じいぬ)」と呼びます。その土地で代々繁殖されてきた犬たちで、地域の特色を濃く受け継いでいるのが特徴です。
かつての日本には全国各地に多くの地犬がいましたが、絶滅した種も多く、現存する地犬は地域の愛好家たちによって独自の保存活動が行われています。
県の天然記念物として指定されている地犬
- 川上犬(長野県)
- 琉球犬(沖縄県)
その他現存している地犬
- 十石犬(群馬県、長野県)
- 美濃柴犬(岐阜県)
- 山陰柴犬(鳥取県、島根県)
- 肥後狼犬(熊本県)
- 岩手犬(岩手県)
- 三河犬(愛知県) など
最後に
ここまで日本の犬たちについてご紹介しましたが、第二次世界大戦末期には、物資の不足から多くのペットたちが国へ供出されるという悲しい歴史がありました。犬も例外ではなく、飼い主の元を離れ、毛皮や食肉として用いられていたのです。
「お国のために」と自ら犬を供出した人もいれば、泣く泣く手放した人、不憫に思い人目を盗んで犬を逃した人や、犬種を後世に残すため厳しい監視の目をかいくぐり、何とか犬を残すことに成功した人もいました。
こういった歴史を知ることで、今わたし達が目にする日本の犬に、戦時中の困難な状況下で犬種を残そうとした方々の強い思いを垣間見ることが出来ます。
また、純血種だけではなく、雑種や野犬の中にも必死で犬の命を守ろうとした人たちの愛犬の末裔がいるかもしれません。
そういった人たちの信念に思いを馳せると、改めて命の大切さを考えさせられますね。