「動物の愛護及び管理に関する法律(以下、略称=動物愛護法)」には、施行後5年を目安に見直しをすることを定めた規定があります。現行法の段階的な施行が開始されてから3年以上が経過し、2025年の法改正を目指して多くの人々が現行法の問題点を洗い出し、議論や検討作業を行っています。
この記事では、現行法の問題点や動物を守るために心血を注いでいる方々の訴えを取り上げていきます。より多くの方に、動物たちが直面している問題について考えていただければ幸いです。
この記事の目次
命の危機にある動物に緊急一時保護を!
次の法改正に向けて、最も議論されているのは動物の緊急一時保護です。前回の法改正で動物虐待が厳罰化し、検挙数が増えたにもかかわらず、実際には虐待やネグレクトを受けている動物を発見しても保護できない現状があります。
例えば、次のような事案が挙げられます。
【高円寺北車中犬閉じ込め事件】
2021年3月、東京・杉並区の駐車場に停められている車の中に犬2頭が3日前から閉じ込められ、餌や水も与えられていないような状態だということで、心配した市民がSNSで発信。動物愛護団体のスタッフや一般市民が現場に集まり、Evaのスタッフも現地に赴き、駆けつけた警察官に「保護して欲しい」と伝えたが、「生活安全課が対応中」というような回答で事態は一向に動かず、結局、犬が保護されたのは、訴えてから5時間後、夜の21時頃だった。
この事例では、3月であったためか、置き去りにされていた犬たちは2頭とも無事だったそうです。しかし、夏にこのように時間のかかる対応をしていた場合、犬たちは命を落としていたかもしれません。
もし、見かねた誰かが車の窓を割って犬を助け出したりすれば、器物損壊や窃盗罪に問われかねません。かと言って、犬や車の所有者がすぐに見つからない場合もあるでしょうし、犬が一刻を争うような危険な状態に置かれていたとしても、見ているしかないのです。
そのため、緊急を要する場合にはすぐに一時保護ができる法律の必要性が挙げられています。
動物虐待をした飼い主には所有権の喪失を!
もし、動物を虐待していた飼い主を罪に問うことができた場合、虐待された動物は「証拠品」として一時的に保護されます。しかし、動物虐待の罪で飼い主が有罪になったとしても、飼い主が動物の所有権を放棄しなければ、結局その動物は飼い主の元へ返されてしまいます。
次の動画は、そのような無情な現状をわかりやすく表現しています。
動物虐待の事案だけでなく、多頭飼育崩壊の場合も多くの飼い主は所有権放棄を拒否する傾向があり、これが問題視されています。また、劣悪な環境で動物たちを飼育するブリーダーや動物保護団体と称する人たちも、所有権を理由に動物たちを手放そうとはしません。
そのため、適切な飼育がなされていない場合は、その動物の所有権の喪失がなされるような強い権限を持った法律の制定が求められています。
動物愛護管理センターで保管する義務を!
「緊急一時保護」や「所有権の喪失」が実現した場合、他の問題が浮かび上がります。それは、動物たちを保護する施設の問題です。現行法では、一時保護された動物の行政(動物愛護管理センター)による保護は具体的に規定されておらず、各行政の判断に委ねられています。
そのため、多頭飼育崩壊の現場からレスキューされた動物の多くは、保護団体やボランティアの元で保護されていますが、キャパシティの問題は常に付きまとい、人手不足や資金不足が深刻化しているケースも少なくありません。
この現状を改善するために、原則として行政が保護し、一度に多数の動物の保護が必要になるなどで収容可能な頭数を超える場合は、民間に委託することを法律で規定するべきだという声が上がっています。
動物取扱業の規制強化を!
2021年11月、長野県のブリーダーが、劣悪な環境で多数の犬を飼育していたとして動物愛護法違反の疑いで逮捕されました。犬など約940頭もの動物を劣悪な環境で飼育し、20年もの間無資格で犬に帝王切開していたことが発覚し、この事件は大きなニュースとなりました。
また、2023年2月には京都府のブリーダーも無資格でマイクロチップの挿入や帝王切開をしていた事件が発覚しています。
さらに、2023年8月には大手ペットショップにおいて、自社の繁殖場がひどい飼育環境であることや、命を扱う倫理観より利益の追求を重視している企業体制などが元従業員によってメディアにリークされました。
悪徳な業者が存在し続ける理由には、いくつかの要件を満たせば、誰でも容易に動物取扱業を営める現在の登録制度にあるという考え方もあります。現行の登録制度では動物に関する専門知識や命に対する倫理観などが問われないため、悪質な行為が絶えない理由の一つになっています。
そのため、動物取扱業を登録制から免許制にするなどの規制の強化が求められています。
最後に
今回、取り上げた声は主にペットとして飼育される動物に対する意見であり、それもごく一部です。他にも産業動物や実験動物が直面している問題など、動物愛護法の問題点はまだまだ山積しています。
確かに、完璧な法律は存在しないのかもしれません。ただ、私たちにできることは、動物の保護に尽力している人々の訴えに耳を傾け、どのような世の中になれば動物も人間も幸せに暮らせるかを考え続けることなのではないでしょうか。