猫における多飲多尿は、動物病院ではよく目にする症状です。
猫はもともと砂漠の動物ということもあり飲水量は少なく、濃い尿を排泄します。そんな動物が水をガブガブ飲んで、大量に尿を出すのはやはり異常でしょう。しかし、これらの異常は、日常的にしっかりと愛猫を観察しないと見逃してしまわれがちです。
今回は猫の多飲多尿で考えられる疾患について解説します。
この記事の目次
多飲多尿とは
読んで字のごとく、たくさん水を飲んで、たくさん尿を出す状態のことです。
多飲と多尿のどちらが先に現れているのかはわかりません。たくさん飲むのでたくさん出すのか、たくさん出すのでたくさん飲むのかはわからないということです。
猫の場合、体重1kgあたり60ml以上の水を一日に飲むと多いと判断されます。また、尿量は体重1kgあたり50ml以上で多いと判断されます。
飲水量と尿量はどのように測るか
実際、家庭で飲水量および尿量を正確に測定するのは非常に困難です。特に尿量の測定は使用しているトイレの材質に左右され、猫砂や新聞紙を使用している場合の測定は不可能でしょう。よって、自宅では飲水量を大まかに測定します。
水を飲む器にあらかじめどのくらい水を入れたのか、そして一日の終わりにどのくらい残っているかを測ることで、大体の飲水量が測定できます。多頭飼いの場合、対象となる愛猫だけ別の部屋に隔離し、飲水量が多いかどうかを確認することもできます。
多飲が認められる場合には大抵多尿も認められます。尿量についてはいつもより多くなっていないか、色が薄くなっていないかを確認しましょう。
代謝性疾患
猫において多飲多尿が見られた際に、まず疑うのが腎臓の疾患です。年齢や猫種などを聴取し、検査を進めていきます。
また、腎不全の初期では多飲多尿以外の症状が見られないことも多く、やはりシニア期にさしかかる猫は定期的な健康診断によって早期発見に繋げたいところです。
腎不全
【症状】
多飲多尿、尿が薄くなる、食欲不振、体重減少など。慢性腎不全では進行するにつれ嘔吐、下痢、脱水、便秘、貧血、発作などの神経症状が現れる。急性腎不全ではショック状態となり命の危険がある。
【原因】
急性腎障害は尿路結石による閉塞や、腎毒性物質の摂取などによって引き起こされる。慢性腎不全は、糸球体腎炎や腎盂腎炎などの腎疾患、高カルシウム血症、腫瘍、腎虚血などが原因となり、慢性的に腎実質の病変が進行して発症する。
【備考】
猫と腎不全は切っても切れない関係なので、若いうちからの腎臓のケアや、病態の早期発見が重要となる。
肝不全
【症状】
元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢、黄疸、口臭、発作、ふらつきなど。
【原因】
胆管肝炎、肝リピドーシス、化膿性/非化膿性胆管炎、リンパ腫などによる肝機能障害。
【備考】
胆管肝炎、膵炎、炎症性腸疾患は猫の三臓器炎と呼ばれ、発生も多い。肝リピドーシスは肥満の猫が急に食欲不振となると起こる脂肪肝のことである。
内分泌疾患
体内で活躍する様々なホルモンを生成・分泌する器官を内分泌系といいます。
猫では甲状腺機能亢進症および糖尿病が多く見られ、多飲多尿が認められた際には腎不全と同時にこれらの存在も疑います。
甲状腺機能亢進症
【症状】
体重減少、脱毛、嘔吐、下痢、多飲多尿、甲状腺の腫大(頚部圧迫による咳)、活動性の亢進など。
【原因】
ホルモン分泌能を維持した甲状腺の過形成および腺腫。一方で甲状腺癌によるものは少ないとされている。
【備考】
高齢の猫における最も一般的な内分泌疾患とされる。良性の甲状腺腫大によるものが多いため、治療による予後は良い。
糖尿病
【症状】
多飲多尿、食欲増加、体重減少や肥満(インスリン依存性かによる)。尿中にケトン体が出現し、ケトアシドーシスとなると嘔吐、下痢、神経障害、昏睡など。
【原因】
膵炎やヒトのⅡ型糖尿病に相当する、いわゆるインスリン分泌能の低下によるものが多い。他にも悪性腫瘍、感染症、ストレスなどによってインスリン抵抗性となった結果、糖尿病となるケースもある。
【備考】
飲水量の増加が認められた場合、まずは尿検査で比重やケトン体の有無を確認する。動物病院受診によるストレスで猫の血糖値は一時的に上昇しやすいため、フルクトサミンなどの血糖マーカーを測定することもある。
その他
他にも多飲多尿が症状の一つとして見られるものがあります。心因性多飲は病気ではありませんが、神経質な性格の子で認められることがあります。
子宮蓄膿症
【症状】
多飲多尿、元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢、陰部からの膿の排出、発熱、腹部膨満など。
【原因】
子宮内における細菌の感染。
【備考】
猫は交尾排卵動物なので、子宮蓄膿症の発生は少ないとされている。しかし緊急疾患であるため、鑑別には入れておく。
心因性多飲
【症状】
多飲とそれに伴う多尿。
【原因】
ストレスによってコルチゾールが分泌されることによる。
【備考】
環境の変化(周辺の工事、人の出入り、フードの変更など)がないかを確認する。ストレスが関与する他の疾患として特発性膀胱炎(血尿、頻尿、排尿時疼痛)や舐性皮膚炎などが挙げられ、多飲多尿以外の症状がないかも確認する。
まとめ
水を飲む行為や排泄行為は、生きていく上で必要不可欠です。毎日行うからこそ、そこに現れる異常を見逃してはなりません。
全てを細かく管理する必要はありませんが、「おや?」と思ったら一度愛猫の健康状態に目を向けてみてはいかがでしょうか。