動物にとって物を齧る行為は非常に一般的です。猫においては獲物を狩る本能により、小さなボタンは小動物に、長い紐は獲物の尻尾に見えるかもしれません。それらを口に入れ、誤って飲み込んだとしても猫に悪気はありません。
では、愛猫が食べ物でないものを飲み込んだとき、あなたはどうしますか?
本記事では猫の消化管内異物について解説します。
この記事の目次
消化管内異物とは
消化管内異物とは、プラスチックやゴムなど、動物が消化できない異物のことです。消化できないために消化管(食道、胃、小腸、大腸など)に留まり続け、炎症や出血を起こすことがあります。
さらに、異物の大きさや種類によっては消化管閉塞や消化管穿孔を起こすこともあり、時に命に関わる重篤な問題となります。
注意すべき異物
基本的に誤飲した異物は、消化管閉塞や消化管穿孔、消化管の炎症、潰瘍、出血などのリスクを伴います。その中でも、特に危険だと思われる消化管内異物の原因となるものをいくつか紹介します。
ひも状異物
紐、糸、布、ナイロンストッキングなどは、一部が舌根部や胃幽門部などに引っ掛かり、残りは小腸に存在することがあります。すると、小腸の蠕動運動(ぜんどううんどう:食べ物を腸の出口に送る動き)によって結果的に小腸が手繰り寄せられ、穿孔を起こすことがあります。
磁石
複数個の磁石を誤飲した場合、折りたたまれた腸を通過する時にお互いが腸を巻き込んでくっつき、穿孔を起こすことがあります。
先端の尖ったもの
竹串や動物の骨など、鋭利なものは消化管を傷つけます。
そこそこ大きいもの
小さい異物なら便とともに排泄される可能性が高く、逆に大きい異物なら胃から排出されない可能性があります。胃から排出できるが小腸の狭い部位は通過できないような大きさの異物は腸閉塞を起こす危険があります。
ペットシーツなどの吸水性ポリマー
吸水して膨らむ性質を持っているため胃の中で何倍にも大きくなり、閉塞を起こす危険があります。
症状
異物により消化管の粘膜が損傷し、びらんや潰瘍を起こすことによって、以下のような症状が発現します。
- 嘔吐/吐血
- 食欲不振
- 元気消失
- 下痢
診断
消化管内に存在する異物を確認することで確定診断となりますが、そのためにはどんな検査が必要なのでしょうか。
問診
前触れのない急激な嘔吐や食欲不振がないか、家の中でなくなったものはないか、イタズラの痕跡がないかなどを聴取します。
時間の経過によって異物は胃から腸に流れるため、誤飲をしたと疑われるおよその時間も重要となります。
X線検査
胃から腸まで消化管全体を把握するためには単純X線検査を行います。
誤飲した異物が金属や骨であれば、ここで検出できます。一方で、プラスチックや布、ビニールなどはX線画像に描出されません。
また、異物の影響であると考えられる異常な消化管内ガス貯留を確認します。さらに、バリウムやヨウ素系の造影剤を用いた造影X線検査によって異物や消化管の閉塞の有無を確認することもあります。
腹部超音波検査
消化管の動きをリアルタイムで観察することが可能で、X線検査での見落としがないかチェックします。
血液検査
消化管内の出血、穿孔による腹膜炎が起きていないかを確認することがあります。
治療
消化管内異物の治療は、異物の除去および損傷した消化管粘膜の保護を行います。異物の除去にはいくつか方法がありますが、代表的なものを紹介します。
内視鏡による摘出
異物が胃内もしくは食道に留まっており、先端が鋭利でない(摘出時に胃や食道を傷つけるおそれのない)場合には内視鏡が選択されます。しかし、実際に内視鏡を入れてみたものの、異物の形状や大きさによっては内視鏡で摘出できないこともあり、その場合は開腹手術に切り替えることもあります。
治療の前には獣医師としっかり相談しましょう。また人間の内視鏡と異なり、動物の内視鏡は全身麻酔が必要となります。
開腹手術による摘出
異物が腸に達している場合、閉塞や穿孔を起こしている場合、異物の形状や大きさによっては外科的に消化管を切開し、異物を摘出する必要があります。
また、閉塞している場合には腸の一部が壊死していることもあるので、必要であれば腸部分切除も同時に行います。
特に消化管閉塞や消化管穿孔の場合には、早急に手術が必要となることも珍しくありません。こちらも内視鏡と同様に全身麻酔が必要となります。
自然に排泄されるのを待つ
異物が腸管を通過できるほど小さく、消化管粘膜を損傷する危険が少ない場合には便中に排泄されるのを待ちます。
経過観察中は便中に、飲み込んだと思われる異物が含まれていないかを確認します。通常は異物誤飲から1~3日で便の中に出てきます。
万が一、閉塞が疑われるような症状(嘔吐や食欲廃絶など)や黒色便、下血などが見られた際にはすぐに動物病院に相談しましょう。
催吐処置
胃に異物がある場合、催吐処置を行うことがあります。これは嘔吐を誘発する薬剤を投与し、胃の中のものを吐き出させることです。
しかし、嘔吐を誘発しても胃の中のものを全て吐き出すわけではないため、異物が残ってしまう可能性もあります。また、吐き出させる際に異物が食道に閉塞しないか、吐物を誤嚥しないかなどの注意が必要で、処置には時間がかかります。
インターネットで検索すると、自宅でできる催吐方法などが掲載されていますが、何かあった時に対処できないため個人の判断で絶対に行わないでください。
いずれの場合にも、異物誤飲によって少なからず消化管粘膜にはダメージがあると考えられるため、必要に応じて輸液や抗H2受容体拮抗薬、胃粘膜保護剤などを投与します。
予防
愛猫の手の届く範囲に、誤飲のおそれのあるものを置かないことが最大の予防となります。しかし、猫は高い場所にも登れますし、引き出しを開けてしまう賢い子もいます。
すべての危険を完全に排除することは難しいかもしれませんが、飲み込んだらマズイものを意識して片づけることで、異物誤飲の可能性は大きく減らせるかもしれません。
まとめ
異物の誤飲は、愛猫の好奇心によって引き起こされてしまいます。そして異物を誤飲してしまうと最悪、手術が必要となることもあり、もっと言ってしまえば命に関わるかもしれません。
愛猫がのびのび暮らせるように、もう一度生活環境を考えてみてはいかがでしょうか。そして何か食べてしまった可能性があれば、すぐに動物病院を受診するようにしましょう。