人間でもしばしば耳にする疾患の一つに、誤嚥性肺炎があります。誤嚥性肺炎は肺炎と名の付く通り呼吸器に関係し、時に命に関わる危険な疾患です。
人間の場合は呼吸が苦しいと言葉で訴えることができますが、犬ではそうはいきません。気付いた時にはすでに肺炎が進行しているケースもあります。愛犬の体調の異変に気付くためには、病気に関する正しい知識が必要です。
今回は、見過ごすと非常に危険な犬の誤嚥性肺炎について解説します。
この記事の目次
誤嚥(ごえん)性肺炎とは

誤嚥性肺炎は「吸引性肺炎」とも呼ばれ、異物や食物などの誤嚥が原因となり、それらが肺内に停滞することによって引き起こされます。
通常、空気は肺に、食物や水は食道にそれぞれ送られますが、何らかの理由で正常な防御能が作用しない場合に食物などが肺に侵入します。これにより考えられる疾患としては、重度の衰弱による意識障害、嚥下障害、巨大食道症、嘔吐、中毒などが挙げられます。
また、衰弱時における食物の強制投与や投薬時の吸引など、人為的なものも誤嚥性肺炎の原因となり得ます。
好発犬種

誤嚥性肺炎が発生しやすい犬種として、以下が挙げられます。
- ダックスフント
- フレンチ・ブルドッグ
- パグ
- アイリッシュ・ウルフハウンド
- ラブラドール・レトリーバー
これらは、椎間板ヘルニアや短頭種気道症候群、喉頭麻痺が発生しやすい犬種です。
リスク因子となる基礎疾患
実際のところ、誤嚥性肺炎は特定の犬種で発生しやすいというより、特定の疾患を持つ犬で発生しやすいと言えます。
特に注意すべき疾患には、以下のようなものがあります。
- 喉頭疾患(喉頭麻痺、喉頭炎、輪状咽頭アカラシアなど)
- 食道疾患(巨大食道症など)
- 消化管疾患(嘔吐、炎症性腸疾患など)
- 神経疾患(椎間板ヘルニア、てんかん発作、重症筋無力症など)
- 鼻腔疾患(慢性鼻炎、歯牙疾患関連性鼻炎など)
嚥下能力の低下や寝たきりになるような疾患には注意が必要です。同様の理由で、高齢犬も食事や投薬の際には注意する必要があります。
症状

誤嚥性肺炎の症状として、まずは急性症状が、続いて亜急性や慢性症状が現れます。
急性症状
突然の咳き込みの後、数時間以内に呼吸困難が見られます。また、口腔内検査で異物が確認されることもあります。
亜急性・慢性症状
湿性の咳、呼吸困難、頻呼吸、頻脈、チアノーゼ、元気消失、運動不耐性、発熱などが見られます。
肺の広範囲に炎症や細菌感染を併発した場合では、重度な呼吸器症状やショック症状が認められることがあります。
診断

問診や身体検査で誤嚥性肺炎が疑われる場合、画像検査と血液検査を行います。
また、何が原因となったのか精査し、原因となり得る疾患についても鑑別していきます。
胸部X線検査
肺が白く映ることで、肺の炎症を検出します。誤嚥性肺炎では、肺の右中葉、右前葉、左前葉後部に炎症が起こりやすいと言われています。
また、肺水腫や肺腫瘍などの肺疾患がないかも確認します。
血液検査
白血球数やCRPなどの項目から、炎症の有無を確認します。
鑑別診断
誤嚥性肺炎と似た症状を示す疾患はいくつかあります。各種検査によってこれらの疾患を除外し、適切な治療につなげていきます。
鑑別疾患には以下のようなものがあります。
- 他の原因(ウイルス性やアレルギー性など)による肺炎
- 肺腫瘍
- 肺葉虚脱
- 肺梗塞
治療

誤嚥性肺炎が疑われる場合、多くは入院して集中治療を行う必要があります。呼吸の異常は命に直結するため、早期発見と早期治療がカギとなります。
呼吸管理
肺炎による低酸素状態を改善するため、酸素吸入を行います。
酸素室での入院が基本になりますが、検査などの際には酸素マスクを使用します。酸素化の不良による臓器障害の予防や、努力性呼吸による呼吸筋疲労の緩和に効果があります。
輸液
食欲や飲水量の低下、呼吸回数の増加による脱水を改善し、水和状態および循環状態の維持のために静脈輸液を行います。一方で、過剰な輸液は肺水腫を引き起こすため注意が必要です。
抗菌薬
誤嚥性肺炎の病態として、二次性の細菌感染が挙げられます。幅広い細菌に効果がある抗菌薬を数週間程度投与します。
予後
吸引した物質の量と成分、吸引前の全身状態、吸引を起こした原因によって異なりますが、一般的に予後は良いとされています。
予防

誤嚥性肺炎を起こしやすい疾患を抱えている場合には、食事管理や投薬の際に細心の注意を払いましょう。
食事環境
食事の誤嚥を防ぐためにも、食事環境の見直しは重要です。
- 食器の高さは愛犬の肩の高さに合わせる
- 早食い防止用の食器を使う
- 食事は少量ずつ頻回に分けて与える
- 食後の急激な飲水をさせない
- 子犬のミルクや、高齢犬の流動食などはゆっくり与える
まとめ

誤嚥性肺炎は、理由もなく突然かかる疾患ではありません。そこには何か原因があり、それが誤嚥性肺炎の可能性に気付くきっかけになることもあります。
愛犬の身体のことをしっかりと理解し、病気のリスクなどを把握することで、早期発見や早期治療につながります。






































