犬や猫と暮らしていると「顔を舐められても平気かな」「一緒に寝ても大丈夫かな」と、ふと気になることはないでしょうか。妊婦さんや小さなお子さんがいるご家庭なら、なおさらかもしれません。
人と動物の間でうつる病気を人獣共通感染症といいます。名前は少し怖い印象ですが、仕組みと予防のポイントを知っておけば必要以上に怖がることはありません。
この記事では、家畜由来・ペット由来それぞれの注意点と、今年も感染が広がっているSFTSについて、犬や猫、人への影響も含めて整理します。
この記事の目次
人獣共通感染症とはどんな病気か

人獣共通感染症(ズーノーシス)とは、人と動物のどちらもかかる病気のことです。世界保健機関(WHO)は「動物と人の間で自然にうつる病気や感染」と定義しています。
動物から人へのうつり方はひとつではなく、次のような経路があります。
- 動物に咬まれたり引っかかれたりしたとき
- 感染動物の便や尿などの排泄物に触れたとき
- 加熱の足りない肉や卵を食べたとき
- 病原体を持っているマダニや蚊に刺されたとき
逆に、人から動物にうつる病気もあります。
一般的によく知られている人獣共通感染症には次のようなものがあります。
- 狂犬病
- 鳥インフルエンザ
- エボラ出血熱
- 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
- 猫ひっかき病
- トキソプラズマ症
家畜由来の感染症と家庭での予防法

家畜の生産現場では、動物の間だけで流行する感染症だけでなく、人獣共通感染症を防ぐための検査や指導が日常的に行われています。私が9年間携わっていたのも、この段階の仕事です。
ただ、そこが厳重に管理されていても、家庭での食べ物やペットの扱い方によっては感染症が発生することもあります。
家庭で発生しやすい食中毒菌のうち、上位を占めるカンピロバクターやサルモネラは動物由来の菌です。鶏や牛が保有していて、食肉や卵に付着することがあります。
汚染そのものをゼロにすることは難しいため、家庭では「広げない」「加熱する」の2つで対応します。
- 肉とそれ以外のまな板と包丁を分ける
- 冷蔵庫や買い物袋の中で、生肉の汁が漏れないよう気をつける
- しっかり加熱してから食べる
生肉を扱ったあとは石けんを使った手洗いも忘れないでください。
ペット由来の感染症と家庭での予防法

犬や猫と暮らすうえで知っておきたい感染症をまとめます。
猫ひっかき病・パスツレラ症
猫ひっかき病とパスツレラ症は、どちらも細菌が原因の感染症です。これらの原因菌は、健康なペットでも口腔内などに生息しており、ペットにはほとんど影響はありません。
しかし、ペットに咬まれたりひっかかれたりして人が感染すると、皮膚に炎症を起こしたり、発熱やリンパ節が腫れたりといった病気を起こします。
もしもペットに咬まれたり引っかかれたりしたら石けんを使って大量の水で流しましょう。その後傷の周りが赤く腫れて痛むときは、早めに医療機関を受診してください。
特に猫による咬み傷は深くなりやすく、外から見た傷が小さくても内部で炎症が進むことがあるので気をつけましょう。
トキソプラズマ症
猫の便と一緒に排出されるオーシスト(寄生虫の卵のようなもの)から感染することがある寄生虫症です。
健康な人であればほとんど症状が出ませんが、妊娠中に初めて感染すると、おなかの赤ちゃんに影響が出る可能性があるため、妊婦さんは特に注意が必要とされています。
ただ、便の中のオーシストは、排出されてから1日以上たたないと感染力を持ちません。そのため、猫が便をしたら早く片づけていれば、感染のリスクはかなり下がります。妊娠中の方は、可能であれば掃除を家族に代わってもらうのが安心です。
トキソプラズマ症の感染源は猫だけではなく、加熱が不十分な食肉からうつることもあります。自分が注意するとともに、猫にも生肉をあげないようにしてください。
皮膚糸状菌症
カビ(真菌)による皮膚の病気で、感染力が強く周りのペットや飼い主さんに広がりやすい病気です。人では赤い輪のような特徴的な形の発疹が出ます。症状が見られたら、皮膚科を受診してください。
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
今年もSFTSに感染した方のニュースがたくさん報じられています。SFTSはマダニが媒介するウイルス感染症で、人が感染すると発熱や全身のだるさ、嘔吐や下痢などの消化器症状が出て、重症化すると命に関わります。
元々は西日本を中心とした病気でしたが、ここ2,3年で東日本にも広がり、患者数は年々増えています。
SFTSは犬や猫にとっても重い病気
犬や猫が感染した症例も増えてきています。発症した場合の致死率は猫で60%前後、犬でも40%以上とされています。
ペットに見られる症状は
- 高熱
- 元気や食欲の低下
- 嘔吐や下痢
などがあります。マダニは草むらや畑など、私たちの身近にもたくさん潜んでいます。外に出る猫が急に元気をなくしたときは、早めに動物病院を受診してください。
その際、事前に電話で症状とマダニに咬まれた心当たりの有無を伝えておくと、病院側も感染対策を取ったうえで迎えられます。
人にうつるのはどんな場面か
発症した犬や猫の血液、唾液や涙、尿や便、嘔吐物には、ウイルスが大量に含まれます。飼っているペットから感染した例だけでなく、動物の診療やケアを通じて感染したと推定される獣医療従事者の報告もあります。
SFTSの感染からペットと自分を守るには
ペットと自分を守るべきポイントは、「愛犬・愛猫にマダニをつけないこと」と「その子が体調を崩したときの接し方」の2つです。
- 動物病院で処方されるマダニの予防薬をつける
- 猫は完全室内飼育にする
- 犬の散歩では草むらややぶに入らない
- 散歩や外出のあとは体を触って、マダニが付いていないか確認する
- マダニがついていた場合は無理に引き抜かず動物病院で取ってもらう
家庭でできる基本の予防

これまでたくさんの病気を紹介してきましたが、次の点を意識するだけで人獣共通感染症にかかるリスクはかなり下がります。
- 肉や卵、乳などの衛生管理に特に気をつける
- 口移しで食べ物を与えない
- 顔や口を舐めさせない
- 動物に触れたあとは石けんと流水で手を洗う
- 排泄物の処理は素手で行わず、処理後に手を洗う
- ノミ・マダニ・回虫などの寄生虫予防を続ける
小さなお子さんがいるご家庭では、動物に触ったら手を洗うことを習慣づけるのがいちばん確実です。
大切なのは、動物との適切な距離感を保つことです。キスや食べ物の口移しといった濃厚接触は普段から気をつけるべきですが、スキンシップなどの触れ合いを減らす必要まではありません。
触れ合ったあとの手洗いや、排泄物の正しい処理を習慣にするなど、意識で十分に予防できます。
まとめ

人獣共通感染症は種類こそ多いものの、家庭で気をつけることは大きく2つに整理できます。
一つ目は家畜由来のもので、肉や卵はしっかり加熱し、生肉はほかの食品と分けて扱うこと。もう一つはペット由来のもので、過度な接触を避け、触れたあとは石けんと流水で手を洗うことです。
今年も、人とペットの両方でSFTSの感染が多数報告されています。この病気は人だけでなく犬や猫の命にも関わります。ペットには適切にノミ、マダニなど寄生虫の予防薬を使用し、まずはSFTSに感染させないようにすることが大切です。
この記事が、ご家庭で動物とより気持ちよく過ごすきっかけになれば幸いです。
































