カラスは私たち日本人にとって、なじみのある鳥です。しかし、あらためて考えると、どのような鳥かよくわからないこともあるのではないでしょうか。
カラスは『古事記』にもすでに記述があるほど、人との関係にも歴史があります。神の使いとされた一方で、不吉な鳥ともいわれるのもカラスの特徴です。
今回は、カラスがどういう鳥なのか、日本人との関係の歴史を紐解きながら考察します。
この記事の目次
カラスはどんな鳥?

カラスは社会性があり、知能が高い鳥です。カラスは一見みな同じように見えますが、日本には主に5種のカラスがいるといわれています。
日本には5種類のカラスがいる
日本で見られるのは次の5種です。
- ハシボソガラス
- ハシブトガラス
- ミヤマガラス
- コクマルガラス
- ワタリガラス
上記のうち、ハシボソガラスとハシブトガラスは、ほぼ全国に分布して、人々の近くで暮らしています。ゴミをあさったり、電柱で鳴いていたりとなじみのあるカラスたちです。
残りのミヤマガラス、コクマルガラス、ワタリガラスは季節によって渡ってくるカラスで、普段はあまり見かけることはないでしょう。
この記事では、主にハシボソガラスとハシブトガラスについて解説します。
ハシボソガラスとハシブトガラスの違いは?
一見似ているハシボソガラスとハシブトガラス、よく見るとさまざまな違いがあります。
| ハシボソガラス | ハシブトガラス | |
|---|---|---|
| くちばし | 細く小さい | 太くて大きい |
| おでこ | なめらか | 盛り上がる |
| 鳴き声 | があがあ(濁る) | かあかあ(澄んでいる) |
| 歩き方 | 交互に足を出す | 飛び跳ねる |
| 生息地 | 主に郊外(農耕地など) | 都市部、海岸、森など |
どちらも雑食性ですが、ハシボソガラスのほうがトウモロコシなどを食べる植物寄り、ハシブトガラスが昆虫や小動物などを食べる肉食に近い特徴があります。
ハシブトガラスは本来、森などに生息する鳥です。しかし、近年は都心部にも増えています。都市部はビルや電柱などの人工物があるため、ハシブトガラスにとっては木が多い森と構造が似ているのです。
本来はハシボソガラスが人里近くに多く生息していましたが、都市化によってハシブトガラスが多くなったことで、ハシボソガラスは個体数を減らしています。
脳が発達しているカラス
カラスは知能の高さでも注目を集めており、なんと人間の6歳児程度の知能があるともいわれています。
他の鳥に比べて、脳が発達しているのもわかっています。宇都宮大学名誉教授の杉田昭栄先生の寄稿によると、実際、カラスの脳の重さは体重650~800gに対しておよそ10g。体の重さの割に脳が大きく、特に大脳が大きい点が特徴です。
ちなみにニワトリの脳のうち大脳が占める割合は50%、一方カラスは80%と他の鳥に比べても大脳が発達していると述べています。
カラスの賢さがよくわかる例として、固いクルミの実を車にひかせて割って食べるという行動は有名です。カラスは記憶力も優れており、エサを貯めた場所をちゃんと覚えています。そのため、エサが乏しい冬場も困らないようです。
人の顔を覚えている
なんと顔を覚える能力もあります。人から見ればカラスは同じ顔に見えますが、カラス同士、個体を識別できるそうです。さらに、人間の顔も区別して覚えていると考えられています。
実際、筆者もカラスに顔を覚えられていたのだろうという経験があります。犬の散歩中、カラスのひなが草むらの中にいるのを見つけました。好奇心からのぞき込んだところ、怒った親ガラス2羽に家の前まで追いかけられてしまったのです。
犬には一切攻撃せず、飛行しながらひたすら筆者の頭をつついてきました。やっとの思いで家に入りましたが、大変怖かったのを覚えています。
その後、しばらくは筆者が仕事で家を出る時間になると、カラスが待ち構えていたように近くの木に止まっていました。そして、合図のように大声で鳴くと、あちこちからカラスが集まってくるのです。
おかげで、しばらくはカラス恐怖症になってしまいました。カラス仲間の間では、ひなを襲う悪い人と認識されていたのかもしれません。
いたずらをする・道具を使う
カラスの知恵の高さがわかる動画がYouTubeにはアップされています。ここでは「万引き」と「道具を使う」カラスを紹介します。いずれも、カラスが日ごろから人の様子や行動をよく観察していることがわかります。
万引きするカラス
食べ物がある場所を認識しているらしく、店先からお菓子を持ち去るカラスの動画があります。これは、食べ物であるとパッケージからわかっているということ。人の目を盗んで様子をうかがいながら盗っていく姿を見ると、知能が高いといわれるのもうなずけます。
道具を使うカラス
さらに驚くのは、くちばしで水道の栓をひねって飲むカラスがいることです。人間の行動を観察したうえで、真似していると推測されています。水浴びのために水量を自分で調整しているのも、驚きです。ただ、さすがに蛇口を締めるまではできないようですね。
社会性がある
カラスは、仲間と鳴き声でコミュニケーションを取っています。鳴き方を変えることで、仲間に警戒を伝えたり、なわばりを主張したりしているのですね。
繁殖するカラスは、一夫一妻制である点も特徴です。巣作りから卵がふ化するまで夫婦で過ごし、幼鳥が巣立つまでは家族単位で暮らしています。
つまり筆者がカラスに追いかけられたのは、ひなを見守っていた夫婦を刺激してしまったということです。
繁殖しない個体は、別途群れを作ってエサを探しながら過ごしています。幼鳥は、巣立つと繁殖しない群れの仲間になります。
カラスと人の歴史

では、カラスは人とどうかかわってきたのでしょうか。古事記では、八咫烏についての記録があります。「烏勧請(からすかんじょう)」という神事では、カラスが主役です。『枕草子』にもカラスは登場します。
神話に出てくるカラス「八咫烏(やたがらす)」
神の使いとされていたのが、古事記に登場する「八咫烏(やたがらす)」です。古事記で、「日向の国(宮崎県)から橿原神宮に向かう神武天皇が熊野山中で立ち往生しているとき、八咫烏が助け導いた」と記されています。
八咫は「大きい」という意味があり、三本足である点が特徴です。空想の生き物のようにも思えますが羽を広げる八咫烏の姿は、やはりカラスそっくりです。
八咫烏は「導きの神」とも呼ばれ、熊野三山の神使でもあります。サッカー日本代表のシンボルマークとしてもよく知られています。
吉兆を占うカラス「烏勧請(カラスカンジョウ)」
「烏勧請」は、日本各地に伝わるカラスを使う神事です。正月に、投げた餅をカラスが食べるかどうかでその年の収穫の吉兆を占います。餅のほかにも団子を与え、カラスの食べ方を見て豊作か不作を占う神事もあります。
熱田神宮や厳島神社、多賀大社では、カラスに神饌を供しその年を占う「御鳥喰神事(おとぐいのしんじ)」が有名です。
福井県の若狭町では、カラスを使った「神子の正月神事(みこのしょうがつしんじ)」という神事があります。烏勧請は「センジキ」と呼ばれ、カラスがお供えの膳をついばむと「センジキが上がった」と拍手をして万歳をするそうです。
センジキが上がった年は豊漁だといわれています。現在、無形民俗文化財に指定されている神事です。
清少納言が見たカラス
『枕草子』にもカラスは登場します。清少納言は次のようにカラスのことをつづりました。
秋は夕暮れ 夕日の差して山の端(は) いと近うなりたるに 烏(からす)の寝所(ねどころ)へ行くとて 三つ四つ二つ三つなど飛び急ぐさへ(え) あはれ(あわれ)なり
「あわれ」はかわいそうという意味ではなく、「ああ」という感動を表します。
夕方になって、カラスが3羽、4羽、あるいは2羽、3羽になってねぐらに帰る姿に、「秋の夕暮れ」をしみじみと感じたのですね。想像するだけでも、秋の寂しさや切なさが伝わってきます。
一方で、同じ『枕草子』に「にくきもの」として、カラスを嫌がる記述もあるのが面白いところです。
からすのあつまりてとびちがひ、さめき鳴きたる
つまり「カラスが集まって飛び交い、騒がしく鳴くのが嫌だわ」と清少納言は文句を言っているのです。遠くから眺める分には情緒を感じるのに、近くにいるとうるさいと思うのでしょう。
同じカラスに対しても状況によって印象が変わっているのは、現代を生きる私たちにも通じるものがあります。
卑怯で無能な鳥ともいわれた
古川のり子氏は、論文「カラス:屍肉食の媒介者」でカラスの食性に触れ、「なんでも食べる雑食性から自然界の清掃人として知られる」と述べています。つまり死骸なども食料としていたのです。
さらに、鷹のような攻撃力もなく、他の鳥のひななど弱い個体を狙うので「卑怯者」に見られて嫌われることも多かったと記されています。
鎌倉時代には、見かけが似ている「鵜(う)」に見立ててカラスを鵜飼に使おうとした記述が残っています。しかし、当然うまくいくはずもなく、「見かけだけで無能な者」というレッテルを貼られてしまいました。
ことわざ「鵜の真似をするカラス」は、まさにここからきています。とはいえ、水に潜れないカラスからすれば、勝手な汚名を着せられているようにも思えますね。
不吉な鳥?やさしい心を持つ鳥?
「カラスが鳴くと不吉」というイメージはないでしょうか。筆者が子どものころ「カラスが鳴くと人が亡くなる」「火事になる」といった話を聞いて、怖がった覚えがあります。
古川氏によれば、こういった言い伝えは全国にあるそうです。カラスが鳴くのと不吉な事柄を結び付けるのは、人の心情なのかもしれません。
一方で、童謡「七つの子」「夕焼け小焼け」などでは、カラスは親しみのある存在として歌われています。
「かわいい七つの子があるからよ」と子どもの元に帰る親ガラス。やさしさや親の愛を感じます。「夕焼け小焼け」では「山のお寺の鐘がなったからカラスと一緒に帰りましょう」と、カラスは子どもたちと一緒に家に帰る存在です。
不吉な印象を持ちながらも、山里でいつも見かけるカラスにどこかやさしさも感じていたのでしょう。実際カラスは子育てに時間をかけることでも知られています。子煩悩な様子を見た人々は、親としての愛を感じ取ったのかもしれません。
カラスの家族といえば、森のパン屋を営むカラスの夫婦と4羽の子どもたちが、みんなで工夫を凝らしたパンを焼く絵本「からすのパンやさん」が有名です。かわいいカラスたち、おいしそうなパンのさし絵が印象的でロングセラーとなっています。
現代人とカラス

現代の私たちとカラスの関係はどうでしょうか。どちらかというとあまりいい印象はないかもしれません。実際ゴミをあさる、農作物を食べてしまうといった被害も報告されています。
ゴミをあさる厄介者?
ゴミ集積場で、ゴミをあさるカラスに困っている人もいます。主にゴミをあさるのはハシブトガラスのようです。「黄色い袋が有効だ」「ゴミ集積所にはネットをかけるとよい」などいろいろな方法が試されています。
しかし、黄色い袋でも破りますし、おもしがついていないネットなどは簡単にめくるので、カラスの害は後を絶ちません。
実はカラスは、目がいいのです。「赤色のごみは肉類」「濡れているのは魚」など、ビニール袋越しであっても色で判別しています。なんと、本物と食品サンプルのエビフライを見分けることもできるそうです。
参考:
杉田 昭栄 「技術情報 カラスの生態と制御-カラスを知りカラスに向き合う-」畜産技術2016 巻 731-Apr. 号 p. 15-20
そのため、名古屋市では生ゴミは新聞紙などでくるみ、カラスに見えないように捨てる方法を推奨しています。
農作物を食べてしまうカラス
農作物を食べてしまうので、困っている農家も多くいます。農水省は令和6年度野生鳥獣による農作物被害状況データを発表しています。
データによると、カラスによる被害は「飼料作物が4,976トン」「野菜は2,601トン」「果樹が2,213トン」となっています。
特に鳥による飼料作物の総被害量は5,462トンなので、ほとんどがカラスの仕業ということになります。
果樹も鳥類ではカラスによる被害が最多で、獣類のイノシシ3,467トンと比べてもあまり差がありません。
対策としては、「銃器による捕獲に組み合わせたモデルガンによるカラスの追い払い」や「農作物の残さを放置しない」などが積極的に行われています。
高齢化や人手不足もあるため、捕獲確認アプリやGPS、ドローンなどを利用した「スマート鳥獣害対策」を推進しています。
知能が高いからこそ、ゴミ問題や農作物問題でも人間が頭を抱えるともいえますね。
動物の保護も大切ですが、食料である農作物の確保も重要です。カラスをはじめ、野生鳥獣との共存が課題になります。
カラスと人間のこれから

カラスと人は今後どう付き合っていけばいいのでしょうか。古来からカラスは神聖だったり不吉だったり、いろいろな顔を持っている鳥です。ずっと昔から人の近くにいる賢い鳥だからこそ、さまざまな印象を人々に与えるのでしょう。
実は、東京都ではカラスの数が減っています。平成13年度と比較すると約80%も減少しました。これは増えすぎてしまったカラス対策の成果なのです。
人間が出す栄養豊富な生ごみや農作物を食べることで繁殖率も上がり、個体数が増えていたのですね。ある意味人の生活向上とともに、カラスの生活スタイルも変わったのでしょう。
実際に深刻な被害もあるのも確かですが、カラスをゼロにするのは人間の勝手ともいえます。
ゴミの捨て方に配慮する、といった行動だけでもカラスの過剰な繁殖率を下げられるかもしれません。カラスの生態に理解を深めるのも、人との共存に役立つのではと筆者は考えています。
まとめ

カラスは『古事記』にも登場するほど、日本人にとって古くからなじみのある鳥です。特に八咫烏は、神武天皇を大和国に導いたとされ、今も熊野三山の神徒として大切にされています。サッカー日本代表のシンボルマークに採用されていることでも有名です。
平安時代には清少納言が『枕草子』の「秋は夕暮れ」の段で、カラスが山の端に飛んでいく姿を「あはれ」とつづりました。一方で「うるさく騒いで嫌だ」とも記しており、カラスに対してさまざまな感情を持っていたことがわかります。
農作物を荒らす鳥なのに、豊作を占う神事に使われるのも興味深いですね。
現代では、ゴミを荒らし農作物を食べるなど深刻な被害も出ています。水道の蛇口をひねって水を出すなどカラスの知能の高さゆえに起きるトラブルも多く、人との共存が課題だといえるでしょう。

































