ペットを取り巻く社会問題の一つとして、捨てられたり売れ残ってしまったりしたペットたちの殺処分が挙げられます。
東京都は犬の殺処分ゼロを2016年度に、猫は2018年度に達成し、目標としていた2019年度よりも早く実現しました。ただ、殺処分がゼロになったら、それで終わりなのでしょうか?
今回は殺処分ゼロを目指す日本について、ペット先進国と呼ばれるドイツと比較しながら整理していきます。今後みなさんが新しく家族を迎え入れる時の参考にしていただければ幸いです。
この記事の目次
ペット先進国のドイツでは?

はじめに、ペット先進国と言われるドイツで、殺処分を減らすためにどのような取り組みが行われているのかを見ていきましょう。
ドイツでは各地の動物保護協会(民間団体)が運営する「ティアハイム」が動物保護や里親への譲渡を行っています。全国に500ヶ所以上あり、ティアハイムから動物を譲渡するには飼育環境等の審査を受けなければなりません。
ペット「殺処分ゼロ」の国と呼ばれるドイツ
ドイツ動物保護連盟はティアハイムの運営方針において、基本的に殺処分をしてはならないと定めています。そのため、ペットの殺処分ゼロという言葉をたまに耳にするのでしょう。
しかし、これはティアハイムの話であり、ドイツという国のレベルで殺処分が行われていないということを示してはいません。
ドイツの「犬命令」
ドイツのティアハイムの話は有名ですが、ドイツでは殺処分を抑制するため、さらなる取り組みをしています。
それが2001年に施行され、その後複数回の改正を経ている「動物保護-犬に関する命令」です。動物保護の観点から、犬の飼い主等が守らなくてはならない飼育方法を以下(抜粋)のように具体的に規定しています。
- 屋外での十分な運動、飼育者との十分な接触(第2条第1項)
- 生後8週齢以下の子犬を母犬から引き離すことを禁止(第2条第4項)
- 商業的に繁殖する者は、繁殖犬5頭及びその子犬につき管理者1名を配置し、1名の管理者が同時に担当できる子犬連れの母犬は3頭までとする(第2条第5項)
- 犬の繋ぎ飼いを原則禁止(第7条第1項)
犬命令はペットショップにも適用されているため、ペットショップはこれらを厳守しなければなりません。
これらを厳守することは多大なコストがかかることに加え、そもそも生体を展示販売することへの厳しい法規制や社会的な批判があるため、ドイツではペットショップでの犬猫販売がほとんど行われていません。
犬税の導入や国民の意識、ティアハイム文化なども含め、複数の要因が組み合わさることで、殺処分の抑制につながっていると言われています。
ティアハイムでも殺処分するケースはある
ドイツのティアハイムでは殺処分をなしとする一方で、治る見込みがない病気やケガで動物が苦しんでいる場合には、動物福祉の観点から安楽死という形で殺処分が行われることもあるとしています。
そのため「殺処分をしてはならない」と言っても、ゼロではないのです。「殺処分はいかなる場合もしてはいけない」と考えるか、「動物が苦しんでいるのなら、むしろ安楽死をさせてあげるべき」と考えるかは、宗教的、倫理的な観点からも意見が分かれるところでしょう。
「狩猟動物保護」の目的で野良犬・野良猫を殺してもよい
さらに、ドイツ連邦狩猟法では狩猟動物保護の目的で野良犬・猫の駆除が認められており、狩猟者は合法的にこれらを殺すことができます。
ドイツ全体での駆除頭数を示す公的統計はありませんが、過去の調査では年間で猫が40万頭、犬が6万5000頭にまで達すると指摘する動物保護団体もありました。
近年は法改正によって、こうした駆除を厳しく制限・禁止する州が増えているものの、本来なら保護施設に救われるべき命が狩猟という形で失われている実態があります。
この現実は、私たちがイメージする「殺処分ゼロ」という言葉の定義について、改めて考えさせられます。
日本の殺処分の実態は

続いて、日本における殺処分数を見ていきましょう。
表向きは減ってきている殺処分
環境省の発表では2008年度に27万6000頭だった殺処分数は、2024年度には6830頭(犬1964頭・猫4866頭)まで減少しています。
動物愛護センターの職員さんの尽力はもちろんのこと、動物保護団体や個人のボランティアなど引き取り先となる里親を探している方々の努力もあり、統計上は殺処分数が減ってきています。
東京都では、病気やケガで回復が見込めない場合や攻撃性が著しい場合を除いて、犬が2016年度、猫が2018年度に殺処分ゼロを達成し、2024年度時点でも継続しています。
日本の犬はペットショップからの購入が主流
マーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティングが実施した2024年の調査によると、犬の入手経路は「ペットショップで購入」が50%と半数を占め、「ブリーダーから直接購入」21%、「友人・知人から譲り受けた」17%と続きます。
一方、猫は「拾った」が34%と最も多く、「友人・知人から譲り受けた」26%、「ペットショップで購入」16%という結果でした。
犬は依然としてペットショップでの購入が主流である一方、猫は野良猫を保護して迎えたり譲り受けるケースが目立つという、犬猫での違いも見えてきます。
売れ残ったペットたちの行く末
動物保護団体をはじめとするボランティアの尽力もあり、殺処分される数は減少してきています。
その一方で、ペットを購入する側の選択はさほど変化していないため、ペットショップに多くの犬や猫が並ぶ光景は、今後もすぐには変わらないかもしれません。
また、殺処分ゼロが注目されるなか、法改正により自治体はペット販売業者などからの引取りを拒否できるようになりました。
こうした流れの中で、売れ残ったペットの引き取りを請け負う「引き取り屋」と言われる存在が注目されるようになりました。引き取られたペットたちが劣悪な環境下で飼育され、そのまま命を落としてしまうという痛ましいケースも起きています。
殺処分ゼロという数字の観点から見ると、日本もドイツもまだゼロではありません。そして、抱えている問題点こそ違えど、両国とも様々な課題を抱えており、それが非常に難しいことを物語っています。
目指すべきゴールは殺処分ゼロだけではない

日本では、一部の都道府県で殺処分ゼロを達成することができましたが、それだけで必ずしもペットの権利を守れているとは言えません。人間も動物も、「生かされていればそれだけで幸せ」ということではないのです。
ペットの幸せを守る上で、殺処分ゼロ以外に、私たちが考えなくてはならないことはどのようなことなのでしょうか。
ペットの虐待ゼロ
飼い主がペットを殴る、ごはんを十分に与えないなど、ペットへの虐待は大きな社会問題となっています。
自分から他の人に訴えることのできないペットにとって、飼い主からの虐待はとても辛いものでしょう。また、それは保護された後も心の傷として残ることがあります。
ペットの権利を本当の意味で守るためには、飼い主ひとりひとりが、飼い主の役目は「ペットを生かしてあげること」ではなく、「ペットが幸せに生きられるようにしてあげること」という意識を持つことが求められるのではないでしょうか。
ペットが過ごしやすい環境
保護された犬や猫は、どのような環境で暮らしているのでしょうか。陽の当たらない狭いケージの中で一日を過ごす、というペットも、中にはいるでしょう。
ヨーロッパ最大級の保護施設「ティアハイム・ベルリン」は、東京ドーム数個分ともいわれる広大な敷地に、それぞれの動物に合った環境で保護されています。
ペットの権利を守るには、ペットが生きる環境も整えていく必要があります。引き取り屋に引き取られ、単に生かされているだけの犬や猫がいるという現実は、殺処分がゼロになっても、まだ多くの問題が残っているということを表しています。
私たちにできることは何か?

今回は、ペット先進国と呼ばれるドイツの殺処分の実情と日本の違いについて比較してみました。
宗教的にも文化的にも異なる国同士の比較のため、単純に比較することはできません。しかしながら、どちらの国にも現在の状況を変えていこうとする動きがあるという点は共通しています。
また、ドイツのティアハイムにしても日本の動物保護団体にしても、どちらも民間の団体です。日本もドイツも民間の力で状況を改善してきています。そして、国を動かし、新しい法律を作ることで、より良い制度を作り上げているのです。
その中で、私たち飼い主にできることは何でしょうか?
まずは愛情持って育て、終生飼養を行うこと。そして、新しく不幸な命を作らないこと。この2つに尽きるのではないでしょうか。

































