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いぬ健康

【獣医師が教えるワクチン接種必須の感染症】犬伝染性肝炎

相澤 啓介 獣医師

犬の混合ワクチンで予防できる感染症に、犬伝染性肝炎があります。実際に動物病院の現場で遭遇することは少ない疾患ですが、実は怖い病気であることを知っていますか?

本記事では、日常生活であまり聞かない、犬伝染性肝炎について解説していきます。

犬伝染性肝炎って何?


犬伝染性肝炎は犬アデノウイルス1型によって引き起こされるイヌ科動物のウイルス性肝炎です。かつては犬ジステンパーと混同されていました。

現在、発生は減少していますが、1歳以下の幼犬で特に重篤な症状を示すことが多く、その死亡率は10〜30%といわれています。

犬伝染性肝炎の症状


潜伏期間は2〜8日程度です。
4〜6日持続する40〜41℃の高熱、水様鼻汁、流涙、腹痛、嘔吐、下痢、口腔粘膜の点状出血、歯肉炎、皮下浮腫、腹水貯留、黄疸、虚脱、頻脈、呼吸数増加、低血糖、発作、昏睡など、症状は多岐にわたります。

犬伝染性肝炎は、症状の経過によって5つの型に分類できます。

犬伝染性肝炎の症状①甚急性型

突然虚脱状態を呈し、12〜24時間で死亡します。
体温は41℃以上になることもあり、中枢神経症状や播種性血管内凝固(DIC)も見られます。

犬伝染性肝炎の症状②急性型

発病後24時間は、41℃以上となる高体温や、前述のような症状が認められます。
この初めの24時間を耐過し、十分な抗体価の上昇があれば4〜10日程度で回復します。

回復期の初期もしくは感染後7日程度して角結膜炎を起こし、2〜8日持続する角膜浮腫が見られます。これをブルーアイと呼びます。

犬伝染性肝炎の症状③軽症型

症状は軽度で、回復期にブルーアイを認めることがあります。
また狂騒状態を呈したり、落ち着きなく走り回ったりすることがあります。

犬伝染性肝炎の症状④不顕性型

症状は見られませんが、検査にて特異抗体が認められます。

犬伝染性肝炎の症状⑤慢性活動性肝炎型

急性症状を呈した後、抗体価が十分に上昇しなかった場合です。
このときウイルスは持続的な肝感染を起こし、慢性肝炎になります。

犬伝染性肝炎の感染経路


感染様式は経口・経鼻伝播です。
口と鼻から侵入したウイルスは扁桃で増殖し、血流を介して全身臓器に広がります。主な標的組織・標的細胞は肝臓、眼、腎臓、血管内皮細胞で、それぞれで細胞の破壊・変性を起こします。

感染後10〜14日程度でウイルスは多くの組織から排除されますが、腎臓には長期間局在して6〜9カ月の間、尿中にウイルスを排出します。

動物病院での診断法


症状やワクチン接種歴から推定しますが、他の検査を組み合わせて総合的に診断します。

血液検査

初期には好中球やリンパ球の減少、後期には逆に好中球性白血球増加症が見られます。

また、肝細胞の傷害を表すALTやAST、肝機能障害の指標であるALPやGGTが上昇します。嘔吐や下痢による電解質の喪失(ナトリウム低下、カリウム低下)も見られるかもしれません。

他にも、低血糖や播種性血管内凝固による凝固障害(血小板数の減少、FDPの増加、フィブリノーゲンの低下)が認められます。

尿検査

肝障害によるビリルビン尿や、糸球体腎炎による蛋白尿などを認めます。
尿中のウイルスを検出するために検査会社に検査を依頼することもあります。

画像検査

腹部単純X線検査や腹部超音波検査にて、肝臓の腫大が認められます。
また炎症によって、超音波で肝臓が白っぽく見えます。

犬伝染性肝炎の治療法


犬伝染性肝炎に対する特効薬はありません

各症状に対する対症療法を行っていきます。

抗菌薬および輸液療法

細菌の二次感染を予防するために肝臓に分布しやすい抗菌薬を使用します。
また下痢や嘔吐による水分や電解質の補給のため、静脈点滴も行っていきます。

肝性脳症を呈する場合

肝臓ではアミノ酸の分解や合成を行い、その過程で産出される大量の窒素から尿素を作っています。肝障害によって尿素合成が滞ると窒素はアンモニアとなり、中枢神経系にダメージを与え、発作などを引き起こします。これが肝性脳症です。

肝性脳症を呈する場合は、脳圧を下げるためにラクツロースの投与を行います。同時に、蛋白含有量の少ない食事に変更します。

播種性血管内凝固がある場合

血栓を溶解するためにヘパリンを投与します。
また、血小板数を補うために新鮮血漿を投与することもあります。

予後は良い?悪い?

甚急性症例では予後は非常に悪くなります
急性例では免疫応答が十分であれば予後良好ですが、免疫応答が不十分である場合には予後に注意する必要があります。

犬伝染性肝炎の予防


慢性肝炎を抱えたり、最悪の場合命を落としてしまう犬伝染性肝炎ですが、予防できます。できるだけ感染しないように対策しましょう。

混合ワクチンの接種

犬伝染性肝炎は犬のコアウイルス病に指定されています。
ケンネルコフの原因の一つである犬アデノウイルス2型と同様、4種以上の混合ワクチンの接種によって予防が可能です。

他の感染症と同じように、移行抗体の影響を考えて生後18週以降に最後のワクチン接種を行うように予定を組みましょう。

コアウイルス病とは
重篤な病態、もしくは感染力が強く特に重要とされるウイルス病のこと

犬アデノウイルス2型との交差免疫

混合ワクチンに犬アデノウイルス1型の株を用いると、ブルーアイや腎炎を引き起こすことがありました。

よって現在では、ケンネルコフの原因の一つである犬アデノウイルス2型のワクチン株を用いています。これらはウイルス学的に近縁で、1つの株で2つの病気を予防できるのです。

ワクチン証明書にどんなワクチンを使ったかわかるシールが貼ってある場合にはよく見てみましょう。6種混合ワクチンなら5種類のワクチン株、8種混合なら7種類というように、使用されているワクチン株が少ないはずです。

感染動物の隔離

犬伝染性肝炎の急性期にはすべての分泌物と糞便に、回復期では尿中にウイルスが長期間排出されます。

ウイルスは通常の消毒薬では効果が期待できず、靴や衣服、外部寄生虫などによって広がる危険性があります。犬伝染性肝炎と診断された場合は速やかに感染犬を隔離する必要があります。

環境の清浄化

ウイルスの不活化にはヨード剤や塩素系漂白剤を水で薄めたものを用います。

また、ウイルス量が多い場合には60℃で1時間加熱しても完全に死滅させることはできませんので注意が必要です。

まとめ


混合ワクチンに含まれる他の感染症と比較して発生数の少ない犬伝染性肝炎ですが、一度感染すると非常に厄介で、最悪の場合、死に至る可能性もあります。

愛犬を苦しませないためにも、定期的なワクチン接種を欠かさないようにしていきましょう

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