愛犬に顔や手を舐められると、「かわいい!」「懐かれている!」と感じるかもしれません。
しかし、犬が飼い主を舐める理由は、飼い主に甘えたいからだけではありません。また、犬に舐められることで細菌が体内に侵入し、感染症にかかることがあります。
今回は、犬が飼い主を舐める理由と、注意したい感染症およびその対策についてご説明します。
この記事の目次
犬が飼い主にキスする理由
ごはんのおねだり
犬の先祖であるオオカミは、子供の離乳食として、胃で半分消化した肉を吐き出して与えます。
そのため、お腹が空いた子供のオオカミは、狩りから帰ってきた親の口から早くごはんをもらおうとして親の口周りをぺろぺろ舐めるのです。
この習性が犬にも残り、「早くごはんちょうだい!」という意味で口周りをぺろぺろ舐めることがあります。
愛情表現、コミュニケーション
犬は、飼い主に愛情を表現するときにも顔を舐めることがあります。
また、飼い主を舐めたときに何か反応を示してもらえたり、かまってもらえたりすると、犬は「舐めると褒めてもらえる、かまってもらえる。」と学習し、舐めるという行為を繰り返すようになります。この場合、たとえ飼い主が嫌がっていたとしても、何らかの反応をしてもらえればそれだけで「かまってもらえている」と感じて喜んでしまいます。
不安の表れ
愛情以外にも、犬自身が不安やストレスを感じているとき、飼い主を舐めることで心を落ち着かせようとしている可能性があります。
そわそわして落ち着きのない様子が続いたら、何かストレスを抱えているかもしれないので注意してみましょう。
また、初めて会う人に対して舐めるのも、歓迎の意味の他に、不安や警戒心から「嫌なことしないで!」という意味で舐めていることがあります。
匂いへの反応
犬はとても嗅覚が優れているので、飼い主が食べたもののちょっとした残りカスを嗅ぎつけて、「おいしそうな匂いがするぞ!」と感じて口周りを舐めることもあります。特に、飼い主が甘いものを食べたあとは、口の周りに甘い匂いと甘い食べ物のカスがついているでしょう。
また、食べ物だけでなく、日焼け止めや保湿クリーム、ハンドクリームなどの匂いに反応して舐める場合もあるようです。
人間と犬では口内細菌がこんなに違う
ヒトにも犬にも、口の中にはたくさんの「口内細菌」が住んでいます。その数は、見つかっているだけで400~500種類程度。
細菌の数としてはヒトも犬も同じ程度ですが、ここで注意したいのが、ヒトと犬で共通する細菌はわずか15%ということです。
犬に舐められると、ヒトの体にはなじみのない細菌が数百万も付着してしまう可能性があります。
犬のキスから感染する病気
犬に舐められることで病気を引き起こす細菌として、次のようなものが挙げられます。
パスツレラ菌
パスツレラ菌は、約70%の犬の口腔内に住み着く菌で、犬に口の周りを舐められたり、咬まれたり、犬の唾液などが飛んだりすることで感染します。
主な症状
皮膚の化膿、呼吸器系疾患、骨髄炎、敗血症
カプノサイトファーガ菌
こちらも約70%の犬の口腔内にいる細菌で、「カニモルサス」「カニス」「サイノデグミ」という3種類があります。
カプノサイトファーガ菌は、犬に咬まれたり、引っかかれたりすることで感染します。
主な症状
発熱、倦怠感、頭痛、敗血症、髄膜炎、播種性血管内凝固症候群
カプノサイトファーガ菌による感染症を発症することは少ないですが、日本でも実際に93件(1993年~2017年末)の感染が確認されています。
2019年には、アメリカ・オハイオ州に住む女性が、傷口を愛犬に舐められたことで「カプノサイトファーガ・カニモルサス」に感染し、両手両足を切断するという出来事もありました。
重篤化すると死に至る恐れもありますから、油断はできません。
犬のキスから感染症にかからないために
傷口は絶対に舐めさせない
ケガをしたとき、「唾を付けておけば治る」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。動物も、怪我をしたときに傷口を舐める習性があります。
しかし、先ほどもご説明した通り、犬の口腔内には人体に馴染みのない細菌がたくさんいます。
飼い主の傷口を積極的に探し、それを舐めに来ることはあまりありませんが、触れ合っている最中にたまたま飼い主の傷口を舐めてしまい、開いた傷口から細菌が侵入すれば、感染症にかかるリスクが高くなってしまいます。
怪我をしたときは、絆創膏やガーゼをあてるなどの工夫をし、傷口は絶対に舐めさせないようにしましょう。
咬まれた場合も同じ
飼い犬に咬まれてしまったり、他の犬に咬まれてしまった場合もこれは当てはまります。
咬まれることでできた飼い主の傷口から細菌が侵入する可能性がありますが、舐められたときよりも咬まれた時のほうが皮膚の内部に細菌が付着した歯が食い込んでいるため、細菌の侵入リスクは高くなります。
そのため、咬まれてしまった場合は必ず病院に行き、その事を説明して医師の診察を受けてください。一般的には、形成外科で診察を受けます。
注意
一般的に、犬や猫に咬まれた場合は形成外科にかかりますが、一部医療機関では整形外科でも診てもらえる場合があるようです。事前にお近くの医療機関に電話等で問い合わせると確実です。
免疫力が低下している人は特に注意して
標準的な免疫力を持っている人が、犬に顔や手を舐められたりしても、感染症にかかるリスクは高くないと考えられます。
しかし、何らかの理由で免疫力が低くなっているような場合があるため、注意が必要です。
特に注意が必要な人
高齢者、妊婦、持病がある人、アルコールをたくさん飲む人、乳幼児
これらの条件に自身が当てはならなくても、周りに免疫力が低い人がいる場合は、ペットと接した後に手をよく洗うなどの対策をとるとよいでしょう。
まとめ
今回は、犬のキスの裏にあるさまざまな理由と、注意したい感染症をご紹介しました。
ヒトと犬では口内細菌の種類が異なるため、怪我をしたときや、免疫力が低下している人は、犬のキスからの感染症に特に注意する必要があります。
また、ヒトから犬に感染症がうつる可能性もありますので、口移しで食べ物をあげるなどの行為はしないようにしましょう。
「かわいいから」と油断せず、自分自身だけでなく、愛犬や家族の健康も守れるよう、愛犬のキスには注意を払いたいですね。