【獣医師監修】犬が嘔吐した!動物病院に行く前のチェックリスト

2024.07.30
【獣医師監修】犬が嘔吐した!動物病院に行く前のチェックリスト

犬の嘔吐は決して珍しいものではありません。犬を飼っていれば、誰しもが一度は犬の嘔吐に遭遇するでしょう。

犬が吐いてしまったとき、動物病院に連れて行くべきか迷う方もいるかもしれません。

犬の嘔吐は、怖い病気が原因の可能性も、病気以外の原因がある可能性もあります。突然の嘔吐に焦らないように、犬の嘔吐について獣医師と一緒に学んでおきましょう。

この記事の目次

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嘔吐って何?

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嘔吐とは、一度胃の中に入った食べ物などが逆流し、口から出る現象です。これは、延髄にある嘔吐中枢が興奮することで起こり、「悪心」(気持ち悪さ)と「空嘔吐」(横隔膜と腹壁を動かす連続的な動き、吐く兆候)を伴います。

嘔吐は消化器疾患以外にも、大脳や小脳といった中枢、またはさまざまな末梢からの刺激によっても誘発されます。

吐出との違い

同じように口からものを吐き出す症状には「吐出」という、嘔吐によく似たものがあります。

簡単に言うと嘔吐は胃から内容物を吐き出すのに対し、吐出は咽頭や胸部食道から内容物を吐き出すことをいいます。

実際に、嘔吐と吐出では考えられる疾患は全く異なるので、区別はしっかりする必要があります。しかし、吐物を見ただけでは両者の鑑別は難しく、「気付いたら吐き戻した痕跡があった」という証言だけでは何とも言えません。

嘔吐と吐出を見分けるには、吐物のpH(嘔吐は胃液が含まれるので酸性)を調べる、吐き戻し前の動作を確認するなどの方法があります。

動物病院で聞かれること

嘔吐を主訴に動物病院を受診した場合、問診では以下のことを聞かれることが多いです。

これらの質問に答えられるように、予め様子を把握しておくことで診断がスムーズに進められるかもしれません。

  • いつから:急性嘔吐(嘔吐発現してから1週間以内)と慢性嘔吐(1週間以上)の鑑別
  • 吐物の性状:色、臭い、内容物
  • 頻度:一日どのくらい吐くのか
  • 食事との関連性:食後どのくらいの時間か、食事の変更の有無
  • 年齢、既往歴など:内臓疾患、異物の誤飲などの予測

嘔吐によって考えられる疾患

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嘔吐の裏には、何かの疾患が隠れている可能性があります。

嘔吐以外の徴候や、各種検査結果によって診断が進められていきますが、中には怖い病気もあります。ここでは、嘔吐が見られた際に考えられる疾患について簡単に紹介します。

1.急性胃腸炎

急性胃腸炎は、何らかの原因によって消化管に炎症が生じている状態です。
一方で、原因がよくわからないことも多く、治療を行ってみて反応を見ることもあります。

2.感染性胃腸炎

感染性胃腸炎は、ウイルス(犬パルボウイルス、犬ジステンパーなど)、細菌、寄生虫などの病原微生物の感染による胃腸炎です。
嘔吐の他に下痢を起こすことも多く、ワクチン接種歴や糞便検査などによって診断を行います。

3.炎症性腸疾患(IBD)

炎症性腸疾患(IBD)は、小腸または大腸の粘膜に炎症細胞浸潤が起こる、原因不明の慢性腸障害です。こちらも下痢を伴うことが多くあります。確定診断には内視鏡による腸組織の生検が必要となり、厄介な疾患です。

4.消化管内異物

消化管内異物は、布、鶏や魚の骨、プラスチック片、金属など消化が難しいものを飲み込んだ時、それらが胃の粘膜を刺激することで炎症が起き、嘔吐が誘発されます。
また、大きなものは胃の出口(幽門部)や小腸に閉塞することがあり、その際にも嘔吐が引き起こされます。
好奇心が旺盛な若い子犬や、散歩中に拾い食いの癖があるような子では注意が必要です。

5.食物アレルギー

食物アレルギーは、体に合わないものを食べてからあまり時間が経たないうちに嘔吐します。
普段食べないものを食べた後に嘔吐した場合は、食物アレルギーが疑われます。

6.腸閉塞・腸捻転・腸重積

異物、腫瘍、捻転、重積などが原因となり、物理的に腸内容物の通過が障害された状態を、「腸閉塞」といいます。
また、神経や血管の傷害によって腸の動きが悪くなり、機能的な腸閉塞が起こることもあります。いずれの場合も激しい嘔吐が見られ、速やかに閉塞を解除する必要があります。

7.咽喉頭の刺激

激しい咳き込みや、咽喉頭に異物があることで刺激され、嘔吐を誘発することがあります。

8.アジソン病

アジソン病は、副腎から分泌されるホルモンが低下する疾患です。
体内のナトリウム濃度とカリウム濃度のバランスが乱れることで、嘔吐を始め、下痢、徐脈、低体温といった命に関わる症状が現れます。見逃してはいけない疾患の一つです。

9.糖尿病

糖尿病は、インスリンの不足によって糖代謝、蛋白代謝、脂肪代謝が正常に行えなくなる疾患です。
特に脂肪代謝の異常は、体内に「ケトン体」と呼ばれる物質を増加させ、このケトン体が嘔吐を引き起こします。

10.腎不全

体内の尿毒素を排泄できないと、嘔吐が誘発されます。また、腎不全では消化管に潰瘍を形成することがあり、これも嘔吐に関与します。

11.肝不全

肝炎や肝硬変によって肝臓の機能が低下すると、窒素代謝の異常によって体内のアンモニア濃度が上昇し、脳へ障害が起こります。
また、肝臓に炎症が起こると、腹膜に炎症が生じる「腹膜炎」に進行し、それによっても嘔吐が誘発されることがあります。

12.膵炎

近年、犬の膵炎の診断感度は高くなり、よく見られる疾患となりました。
膵臓の炎症により、激しい嘔吐を始め、下痢、腹痛、食欲不振が見られます。急性膵炎では早期に治療を行わないと命に関わることもあるため、注意すべき疾患の一つです。

13.中枢神経系疾患

頭部挫傷や腫瘍などによって頭蓋内の圧力が上昇すると、嘔吐中枢が直接刺激されることがあります。

14.生殖器疾患

避妊/去勢をしていない犬では、生殖器系の疾患も視野に入れます。雄では前立腺疾患、雌では子宮疾患を鑑別に入れます。
特に雌の子宮蓄膿症は緊急疾患で、陰部から血膿のようなものが出る、またはお腹が張っているなどの症状が同時に見られた場合は注意が必要です。

15.腫瘍

消化管や周辺臓器腫瘍ができると、物理的に通過障害が起きて、嘔吐が引き起こされます。
また、肝臓などに発生した腫瘍が嘔吐を誘発することもあります。

病気ではないが嘔吐を示す状態

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以上のように、さまざまな疾患で嘔吐の症状は認められます。
一方で、病気ではないけど嘔吐が認められる場合もあります。

1.乗り物酔い

三半規管から小脳へ伝わった刺激が嘔吐中枢に投射されると考えられています。

2.食べ過ぎ

急激に多量の食事が胃の中に流れ込むことで嘔吐します。

3.薬の副作用

一部の薬剤は、副作用として嘔吐の症状が見られるものがあります。
代表例としては、ステロイド、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、抗腫瘍薬、一部の抗菌薬などがあります。

4.中毒

鉛、亜鉛、エチレングリコール(不凍液)といった中毒性物質の摂取も、嘔吐を引き起こします。

嘔吐で動物病院を受診すべきか?

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病的な嘔吐か、そうでないかは問診だけでは判断できません

血液検査や画像検査といった必要な検査を経て、診断を下さないことには「絶対に大丈夫」と太鼓判を捺すことはできません。

愛犬の現在の様子を見て、動物病院を受診すべきかを判断して頂ければと思います。
もちろん、病院に来ること自体が犬のストレスになることもあるので、全身状態が悪くなければ経過を見ることも選択肢の一つです。

その場合は、急に体調が悪くなった時のためにしっかり様子を観察してあげましょう。

嘔吐をしているときの注意点

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では、動物病院を受診する前や、犬に嘔吐の症状が見られた時に注意しておくことは何でしょうか。

受診には吐物を持参

何回も吐いているときに全ての吐物を持ってくる必要はありませんが、吐物の情報を正確に伝えるためには実物を持ってくるのが一番です。

持参が難しい場合には写真を撮ることもオススメです。

誤嚥性肺炎の防止

特に寝たきりの犬では、吐物が肺に侵入することで誤嚥性肺炎が起こる可能性があります。

犬が嘔吐をしようとしている際には上体を起こし、頭を下げるような姿勢がとれるように飼い主さんが補助してあげてください。

まとめ

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嘔吐は、見ている方にとっても、犬自身にとっても苦しいものです。

頻回の嘔吐は脱水や食道炎を続発し、体力の消耗も激しいため、速やかに治療を行う必要があります

犬が嘔吐をしたら、様子を見つつ、長く続いたり他に気になる症状が認められたときには、動物病院を受診してみてください。

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