犬の歴史が非常に長く奥深い国、イギリス。ジャパンケネルクラブ(以下JKC)には206の犬種が登録されていますが、その中でイギリス原産の犬は56種にものぼり、なんと全体の25%以上を占めています(2022年4月時点)。
今回は、そんなイギリス原産の犬たちと、その傾向を解説していきます。
この記事の目次
日本で人気のイギリス原産の犬
先述した通り、イギリス原産の犬はご紹介しきれないほど数多くいますので、ここからは日本で人気があるイギリス原産の犬たちをご紹介していきます。
カッコ内は2021年におけるジャパン・ケネル・クラブの登録頭数と順位を表します。
ウェルシュ・コーギー・ペンブローク(14位、4,654頭)
「ロイヤルドッグ」と呼ばれエリザベス2世の愛犬としても知られる、イギリスを代表する犬種です。
ウェルシュは「ウェールズ地方の」、コーギーは「小さい犬」という意味があります。1934年にそれまで同一犬種とされてきた「ウエルシュ・コーギー・カーディガン」と別犬種として登録されるようになりました。
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(19位、3,075頭)
「キャバリア」とは騎士という意味で、「キング・チャールズ・スパニエル」という犬種を改良して作られました。
キング・チャールズ・スパニエルは、スパニエルと短頭種の犬を交配して作られましたが、呼吸器疾患などにかかりやすいことが問題視されました。そこで、鼻の長い初期のタイプに戻すための交配をさせ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルが作られました。
ゴールデン・レトリーバー(11位、6,138頭)
ゴールデン・レトリーバーの起源は、イギリスのスコットランドにあります。猟で撃ち落とされた鳥を咥えて運ぶ、鳥猟犬として活躍しました。
かつては、イエロー・レトリーバーやゴールデン・レトリーバーと呼ばれていましたが、1920年にゴールデン・レトリーバーの名称に統一されました
シェットランド・シープドッグ(25位、2,508頭)
「シェルティ」の愛称で親しまれているシェットランド・シープドッグ。
イギリス最北端にあるシェットランド諸島の大型の牧羊犬が、ボーダー・コリーの祖先やラフ・コリーなどとの交配を経て、徐々に小型化されていったと伝えられています。
ジャック・ラッセル・テリア(16位、3,473頭)
ジョン・ラッセル牧師により、フォックス・テリアを改良して作られた犬種です。
その際、体高が高く、よりスクエアに近い体格のものが「パーソン・ラッセル・テリア」、体高が低くわずかに体長が長い体型の犬が「ジャック・ラッセル・テリア」に分けられました。
ビーグル(23位、2,862頭)
ビーグルは「スヌーピー」のモデルになったことでも知られる犬種です。
古代ギリシャ時代から優れた嗅覚を使ってウサギ狩りに使われていた犬が祖先だといわれていますが、イギリスを中心に品種改良が進んで現在のビーグルのが作られたため、原産国はイギリスになります。日本では空港の探知犬としても活躍しています。
ブルドッグ(30位、925頭)
イギリスの国犬であるブルドッグ。もともと闘犬としての古い歴史をもち、牛と戦う犬として人気を得ました。
しかし、動物虐待法の成立と共に競技が禁止されると、愛好家たちにより攻撃的な性格が取り除かれ、現在のような温和で穏やかなブルドッグになりました。
ボーダー・コリー(22位、2,994頭)
ボーダー・コリーの「ボーダー」とは国境という意味で、イングランドとスコットランドの国境付近で活躍したことからこの名がつきました。
牧羊犬としての作業能力のみが重視されていたため、牧場以外の都市部や海外に知られる機会がなく、純血種と認定されたのは1987年と、比較的新しい犬種です。
ラブラドール・レトリーバー(13位、5,294頭)
ラブラドール・レトリーバーの起源はカナダのニューファンドランド島だと言われています。漁師のアシストをする水中作業犬だった犬がイギリス貴族の目に留まり、イングランドで改良を重ねて、現在のラブラドール・レトリーバーが出来上がったとされています。
※ラブラドール・レトリーバーについては、カナダ原産とされることもありますが、今回はJKCの犬種情報に合わせてイギリス原産としています。
ヨークシャー・テリア(8位、9,690頭)
「ヨーキー」の愛称で呼ばれ、美しい絹のような毛質から「動く宝石」とも称されるヨークシャー・テリア。
優雅な雰囲気とは裏腹に、19世紀の中頃はヨークシャー地方の工業地帯で、家屋に生息していたネズミを捕らえるために活躍してきました。その後は愛玩犬として、主に富裕層から愛されてきた歴史があります。
イギリス原産の犬の傾向
前項でご紹介した犬たちは日本でもよく知られている犬種ですが、その他のイギリス原産の犬たちを調べてみると、また違った角度からイギリスの犬の傾向が見えてきます。
1. テリアがすごく多い
「テリア」とはキツネ、ネズミ、アナグマなどの小動物を狩る犬です。端的に「農家の害獣駆除犬」などと言われることもあります。
JKCに登録されているテリア犬種は32種。そのうち原産国がイギリスの犬は23種です。これはテリアに分類される犬種の70%近くが、イギリス原産だと言えます。
イギリスでは都市部でも地方でも関係なく、どこでもテリアが見られるそうです。そして、誰もが毛並みの美しい「ヨークシャー・テリア」や、純白の被毛の「ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア」を連れているわけではなく、ボサボサの毛をした素朴なテリアやテリア系の雑種も良く見られるようです。
これは日本で例えると、柴犬や日本犬系の雑種が全国各地にいるのと同じ感覚なのかもしれません。
2. 牧羊犬や猟犬として現役で活躍する犬も多い
JKCに登録されている牧羊犬種のうち、イギリス原産の犬種は約30%を占め、イギリスの牧羊の歴史を感じさせられます。
現在でも地方の牧場では多くの牧羊犬が活躍しています。イギリスにはプロの牧羊犬訓練士がおり、訓練士により予めトレーニングされた牧羊犬たちが牧場に買われていきます。
また、スパニエルやレトリーバーといった、「ガンドッグ」と呼ばれる猟犬もイギリス原産の犬種が圧倒的に多くいます。犬種として昔から馴染みがあり一般家庭で飼われている場合もありますが、現役の猟犬として活躍している犬が多いのも興味深い点です。
3. 愛玩犬が意外と少ない
イギリス原産で愛玩犬として登録されている犬種は「キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル」と、その元となった「キング・チャールズ・スパニエル」の2種類のみ。両方ともイギリス王室で長らく愛されてきた犬種です。
愛玩犬種の少なさから、元々イギリスの人々にとっては、犬はただ可愛がるペットという感覚より、仕事を共にするパートナーという感覚のほうが近かったのかもしれません。
王室や上流階級以外では動物を家族のように可愛がる風潮はありませんでしたが、17世紀頃から都市部の中流階級を中心にペットを飼う文化が始まりました。
4. プリミティブタイプ(原始的な犬)がいない
日本とイギリスで対照的な点がこのプリミティブタイプの犬種の有無です。プリミティブタイプとは、あまり人の手が入っておらず本来の犬らしさを色濃く残している犬種のことであり、柴犬、秋田犬などの日本犬やシベリアンハスキーなどが該当します。
日本原産の犬は半数以上がこのプリミティブタイプに該当しますが、イギリス原産の犬にはプリミティブタイプがいません。このことから、イギリスがいかに犬の品種改良に積極的だったかがわかります。
最後に
今回ご紹介したイギリスは、原産犬種の数や歴史の長さだけではなく、「ペット先進国」とも呼ばれ、動物福祉が充実しています。
しかし、イギリスの歴史を紐解いてみると、牛に犬をけしかけて、その命を奪う様子を楽しむ「ブルベインディング」や、猟犬が獲物を仕留める光景を馬上から見て楽しむ「キツネ狩り」が盛んに行われていた時代がありました。
その後、そういった残酷な娯楽を批判する風潮が高まり、法律により禁止されていくわけですが、現在のイギリスの充実した動物福祉があるのは、発展した犬の文化があることはもちろん、その様な悔い改められた過去があることも関係があるのかもしれません。
とはいえ、素晴らしい犬の文化を持つイギリス。見習いたい点も多い、素敵な国ですね。