散歩をしないと罰則!?ペットを「知覚・感情を持つもの」として扱ったオーストラリアの新法律

2024.04.23
散歩をしないと罰則!?ペットを「知覚・感情を持つもの」として扱ったオーストラリアの新法律

2019年9月、オーストラリアの首都キャンベラとその周辺地域で、ペットに関する新しい法律が発効されました。

新法はオーストラリアで初めて、公式にペットを「知覚や感情がある生き物」として扱い、その権利を守るために生まれたものです。具体的には、1日最低1回の犬の散歩義務や、動物のケガや病気に対する人間の責任などを明示しています。

本記事では、新法の内容とその経緯、そして散歩が犬にとって重要な理由を解説していきます。

この記事の目次

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ACTの新法が定めたこと

カンガルー
今回ご紹介する新法はACT(Australian Capital Territory)と呼ばれるオーストラリア首都特別地域で発効されたもので、オーストラリアの全地域で効力を持つものではありません。ACTは、オーストラリアの首都キャンベラとその周辺を含む連邦の直轄領(準州)のことを言い、オーストラリアで最も都市化が進んでいる地域です。

犬の散歩義務化

「犬の散歩などを怠り、運動を24時間以上させないでいた場合、飼い主は犬に2時間の運動をさせるか、さもなくば罰金最高4000豪州ドル(約29万2000円)を科す」

犬の散歩を法律で義務付けることに驚いた方もいらっしゃるかもしれませんが、犬の散歩義務化を定めたのはACTが初めてではありません。例えばイタリアのトリノでは、条例で犬の散歩を1日3回以上することが義務付けられており、違反すると500ユーロ(約6万円)の罰金が科されます。

車の中に閉じ込めるのもNG

「動物を車の中に閉じ込めた場合には、1年以下の懲役または罰金$16000(約118万8000円)、またはその両方を科す」

特に夏の時期は、車内の温度は急激に上がります。たとえ健康被害なく済んだとしても、閉じ込められた動物は暑さに耐え苦しまなければなりません。飼い主以外にも、車内に動物が閉じ込められているのを発見した場合は、直ちに関係機関に通報するよう呼びかけています。

動物のケガや病気への責任

新法は、適切な食事や清潔な生活空間、必要なお手入れや治療を行わなかった場合にも罰則を科しています。例えば、伸びすぎた毛が原因で患った目の感染症や、ノミが原因の皮膚病を放置していた場合も罰則の対象になります。

また、動物(カンガルーを含む)をケガさせてそれを通報をしなかった場合も同じです。

新法のベースになったのは「動物にも感情がある」こと

感情
今回の新法発効においてACTは、オーストラリアの連邦管轄領で初めて、動物を”sentient being” 「知覚、感情を持つもの」として扱いました。ACTは、動物は「同情と共に扱われるに値し」「人間にはペットの心と体の健康をケアする義務がある」としています。

ACT政府のクリス・スティール内閣大臣は、「動物に意識・感覚があることは科学的に証明されている」「ペットの飼い主なら、彼らが感情を持っていることを知っているはず」と話しました。

感情ある生き物への人間の責任

「知覚、感情を持つ生き物」は、散歩にいけないとストレスを感じますし、ケガや病気をすれば苦しみます。また、散歩をしないことや病気やケガを放置しておくことは、ペットの肉体的な意味でも、精神的な意味でも健康を害します。

ペットの生活は飼い主によってコントロールされているため、心や体の健康状態は飼い主次第と言えます。まさに、ACTの新法は、人間が担う「知覚、感情を持つ生き物」に対する心身の健康管理を定めたものと言えるでしょう。

犬にとって散歩が大事な理由

散歩
犬の散歩は新法で義務化されましたが、そもそもなぜ散歩は犬にとって大事なのでしょうか?「心」と「体」の健康という視点から考えてみましょう。

運動不足によるストレスを防ぐ

犬は先天的に、運動への欲求が高い生き物です。犬は「感情を持つ生き物」ですから、欲求が満たされなければ当然ストレスが溜まります。これまでに数々の研究で、散歩が犬のストレス解消になることが証明されています。

日光浴や外の世界とのつながり作りも

犬は人間と同じように、日光を浴びることでセロトニンの分泌が促進されます。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、これが不足すると自律神経が乱れてしまいます。自律神経が乱れると、ストレスが溜まりやすくなったり、攻撃的になったりします。

また、室内の運動だけでなく、刺激の多い屋外を散歩することで、「外の世界を見たい(嗅ぎたい)!」「他の犬や人とコミュニケーションをとりたい!」といった犬の欲求を満たすことができます。

体力・体型維持

人間と同じように、犬も運動不足が原因で肥満になります。肥満になると、ただ見た目がぽっちゃりして見えるだけでなく、人間と同様にさまざまな病気のリスクも高まります。また、足腰に負担がかかりやすくなるためヘルニアのリスクも高まります。

終日室内で寝て過ごし、あまり筋力を使わないでいると、老犬になってから思うように動けなくなり、ひどい場合は寝たきりになってしまいます。運動ができなくなれば、犬はストレスを感じてしまいます。犬は走ったり、何かの仕事をすることに喜びを感じる動物でもあります。

犬の運動不足のサイン

犬の運動不足のサインには次のようなものがあります。

  • 家の中で走り回る
  • 常にソワソワしている
  • 攻撃的になる
  • 体中を舐め回す

日本では散歩をしなくても罰せられることはありませんが、散歩が犬にとって重要であることに変わりはありません。犬が上のような行動をとっていたら、散歩が足りていないサインかもしれません。散歩時間を見直すことを考えましょう。

とあるドッグトレーナーは「犬が起こすトラブルの多くは、運動不足が原因で生じたものである」という意見を述べています。それほど犬にとっての運動不足は精神的な苦痛なのかもしれません。犬の運動不足についてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事もご参照ください。

大切なのはペットへの理解

compassion
今回は、オーストラリアACTで発効された、ペットに関する新法律をご紹介しました。

新法からは、動物を「知覚、感情のある生き物」として受け止めることで彼らの権利を守ろうというACTの積極性がうかがえます。一方、飼い主が散歩に行っていないことやケガを放置していることは、誰にも気づかれなければ罰せられませんから、実質的にはこの新法はザル法と言えるかもしれません。しかし、法律で積極的にペットの権利を守ろうという姿勢は、ペットに対する人々の理解を深めるのに役立つのではないでしょうか。

日本には散歩義務などの法律はありませんが、海外の法律成立の経緯を知ることはペットのことをもっと理解するきっかけになります。もちろん、法律を作るべきか否かという議論も大切ではありますが、もっと大事なことは、ペットの飼い主それぞれがペットのことをよく理解し、ペットへの責任を果たすことです。

「知覚、感情のある生き物」であるペットたちが、人間のよきパートナーとしていつも幸せを感じられますように。

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