今年3月、自宅の庭で放し飼いされていた飼い犬が、生後11カ月の男の子の命を奪ってしまうというとても悲しい事故が起こりました。
犬の飼い主さんにとっては決して他人事ではない咬傷事故。どのような状況で起こってしまった事故なのかを知ることで、危険なシチュエーションを少しでも避け、事故の防止に取り組みましょう。
この記事の目次
飼い犬に咬まれて死亡した事故
飼い犬に咬まれ乳児が亡くなってしまった事故は、残念ながら今回だけではありません。その時の状況を詳しく見ていきましょう。
2020年3月の富山の事故
自宅の庭で生後11カ月の男の子が、飼い犬の2頭のグレートデンに咬まれて亡くなりました。
2頭はそれぞれ体長120cm、体重80kg程度の6歳のオスで、柵で囲った自宅の庭で放し飼いにされていたそうです。祖父が男の子を抱っこしながら犬のエサ皿を取りに行った際、男の子が襲われました。
2017年3月の八王子の事故
祖父母の家で生後10カ月の女の子が飼い犬のゴールンレトリバーに咬まれて亡くなりました。
ゴールンレトリバーは4歳のオスで体重は約37kg、屋内で放し飼いにされていたそうです。女の子はお母さんの実家におり、祖父母と居間で遊んでいた際に突然咬みつかれました。
この2つの事故以外にも、アメリカで49歳の女性が飼い犬のグレートデンに襲われて亡くなっています。我が家の犬は大丈夫だと思わず、危険は常に隣り合わせだということを意識しましょう。
事故の共通点
2つの事故とも詳細な状況がわからないため、確実なことは言えませんが、共通点としては、以下の3点が挙げられます。
1. 一緒に暮らしている犬ではない
どちらの事故も祖父母宅で起きており、自宅ではありません。アメリカの例は異なる状況ですが、日本の事例において共通しているのは、襲われてしまった子供とは常に一緒に暮らしているわけではないため、いつもより警戒心が強まっていた(信頼関係ができていなかった)可能性があります。
また、犬が本能的に守ろうとする「餌」や「おもちゃ」が近くにあった場合、より警戒心が強まっていた可能性があります。
2. 放し飼い
どちらの事故においても、犬が放し飼いにされていたということです。さまざまな事情で小さい子供を祖父母に預けることもあると思いますが、そのようなときは、犬は放し飼いにせず、子供を犬に近づかせないように気を付けなければいけません。
3. 大型なオスの成犬
オス犬はメス犬と比較して、体が大きく縄張り意識が強いため特に注意しましょう。ただ、去勢手術をしている場合や性格による違いが出てきますので、必ずしもそうとは言い切れない部分もあります。
危険犬種に指定されている犬がいる
今回事故を起こしてしまったグレートデンは、国や自治体によっては危険犬種に指定されています。なお、詳しくは後述しますが、危険犬種だから危ない、そうではないから大丈夫とは言えません。八王子のケースは、ゴールデン・レトリーバーであり、どの国でも危険犬種に指定されてはいないことからも、このことはわかります。
他にどのような犬が危険犬種に指定されているか、日本とイギリスを例に見ていきましょう。
日本
日本は法律で危険な犬種を飼育することを禁止していません。これは動物福祉だけでなく、規制の面でも日本が遅れている事を示しています。誰でも扱いの難しい闘犬や戦闘力の高い狩猟犬を飼うことができてしまうのですから。しかし、飼育の制限をしている自治体もあります。
例えば、茨城県では人に危害を加えるおそれがあるとして、以下の8犬種および体高60センチメートルかつ体長70センチメートル以上の犬を「特定犬」として指定しています。
- 秋田犬
- 紀州犬
- 土佐犬
- ジャーマン・シェパード
- ドーベルマン
- グレートデン
- セントバーナード
- アメリカン・スタッフォードシャー・テリア(アメリカン・ピット・ブル・テリア)
これらの特定犬はおりの中で飼うことと、特定犬である旨の標識を掲示することが義務付けられています。
茨城県 犬の咬傷事故・特定犬について
https://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/doshise/hogo/kousyoutotokuteiken.html
イギリス
イギリスでは1991年に危険犬種法が制定され、以下の4犬種を危険犬種に指定しました。
- アメリカン・ピット・ブル・テリア
- 土佐犬
- ドゴ・アルヘンティーノ
- フィラ・ブラジレイロ
闘犬として知られる日本の土佐犬も、イギリスでは危険な犬として挙げられています。
イギリスではこれら4種について、繁殖、販売、交換等を禁じ、例外を除いては所有することも禁じています。
危険犬種だから悪というわけではない
日本においては、特定犬に指定されているからといって、その犬種だけが危険というわけではありません。指定されていない犬、例えば柴犬やトイプードルでも、今回の事故と同様に人に危害を加えることはありますし、特定犬であってもその全てが危険というわけでもありません。
例えば、グレートデンは巨体であり、大人の男性であっても、本気で引っ張られると抑えきれない力があります。その意味では注意が必要ですが、グレートデンは基本的にはおっとりとした性格でおとなしい犬です。
逆に、イギリスで危険犬種に指定されている犬種はいずれも闘犬や対象を追いかけて殺すことを目的とした狩猟犬であり、戦闘意欲がむき出しの犬種です。これは遺伝的にその性格が強化されてきたため、根本的に素人による飼育が難しいことを示しています。
つまり、決してグレートデンだから危ない、柴犬やトイプードルだから大丈夫、と言うことはできないのです。なぜ、その犬種が危険犬種や特定犬に指定されているのか、また指定される特徴を持っているのか、その背景を知ることが重要です。
事故を起こさないために飼い主が気をつけること
どんなに大人しく穏やかな犬でもその時の状況次第では人を襲い、命を奪ってしまう可能性があります。取り返しのつかないことにならないように、以下のことを徹底しましょう。
小さい子供と犬だけにしない
犬にとって小さい子供は、予測不能な行動をすることから恐怖を感じたりすることがあります。また、何も知らない子供は好奇心から犬を叩いたり、毛を引っ張ったりすることがあり、大人であってもその行動を予測することは難しいでしょう。
決して、犬が子供の面倒を見てくれることはありません。絶対に、放し飼いにした犬と子供を二人っきりにせず、犬と子供から目を離さないようにしましょう。
避妊・去勢手術をする
発情期になると犬は興奮しがちになります。避妊・去勢手術をすることで、過剰な興奮を抑え、攻撃的になることを予防できます。
また、普段の生活の中でも興奮を癖づけないようにすることが重要です。興奮させるまで遊ぶようなことを何度も繰り返していると、興奮するのが癖になっていきます。犬が興奮してきたら、一度ヒートダウンさせるように気をつけましょう。
咬傷事故を他人ごとと思わない
最新の平成28年度の情報によると、咬傷事故は4000件以上起こっています。飼い主が咬まれてしまった場合など、届けを出さない人やケースもあるため、実際にはさらに多くの咬傷事故が起こっているだろうことは推測に難くありません。犬を飼う以上は、責任を持って咬傷事故の防止に取り組まなければいけません。
咬傷事故についてはこちらの記事もあわせてご覧ください。
不幸な事故を起こさないために
犬による死亡事故はほぼ毎年起こっています。多くの飼い主さんは「まさかうちの子が…」と思うでしょう。しかし、今回の事故も少しの気の緩みが原因で起こってしまいました。
今回のような事故は、犬にとっても被害者やその家族にとっても非常に悲しい出来事です。場合によっては犬は殺処分されるかもしれませんし、被害を受けた子供は最悪の場合は死亡、そうでなくても一生消えない精神的、肉体的な傷を背負っていくことになります。
うちの子は大丈夫と思っていませんか?グレートデンだから、ゴールデン・レトリーバーだから、アメリカン・ピット・ブル・テリアだから危ないのではありません。どんなに大人しい犬であっても、100%咬まないということは誰にも言えません。
この悲しい事故をきっかけに、今一度、飼育環境を見直してみてはいかがでしょうか。