犬の混合ワクチンで予防できる感染症の一つに、犬コロナウイルス感染症があります。犬コロナウイルスは、アメリカなど、あまり重要視されていない国もありますが、どんな病気なのでしょうか。
本記事では、あまり知られていない犬コロナウイルス感染症について、獣医師が解説していきます。
ぜひ最後まで読んで頂き、混合ワクチン接種の際に選択の参考にしてください。
この記事の目次
犬コロナウイルス感染症って?
犬コロナウイルス感染症は、犬コロナウイルスによって引き起こされるウイルス性下痢症の一つです。
ウイルスの感受性に品種差や年齢差は見られませんが、幼弱な動物やストレスを受けている場合には発症の危険性があります。
COVID-19とは違う?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年から世界中で流行している感染症です。
2020年3月に香港で犬の新型コロナウイルスに対する感染が報告されましたが、本記事で紹介している犬コロナウイルス感染症とは全く別物です。
両感染症とも同じコロナウイルス科のウイルスによって引き起こされますが、それぞれはウイルス学的に異なる性状を示します。
犬コロナウイルス感染症のワクチンを接種したから新型コロナウイルス感染症を予防できる、という報告はありませんので注意してください。
また、本記事で紹介している犬コロナウイルスがヒトに感染することもありません。
犬コロナウイルス感染症の症状
潜伏期間は1〜5日程度で、腸絨毛の破壊によって様々な下痢を誘発します。
多くの場合不顕性ですが、若齢の子犬では長期間の激しい下痢を起こして死亡することもあります。
下痢便は黄緑色~橙色で、粘液や血液が混入して悪臭を放ちます。さらに、下痢が長期化すると、脱水症状を呈するようにもなります。
他にも元気消失、食欲不振、突発的な嘔吐も見られます。
犬パルボウイルスとの混合感染に注意
同じように犬に下痢を引き起こす感染症に、犬パルボウイルス感染症があります。
犬コロナウイルスは犬パルボウイルスに比較して軽症となることが多いですが、これらが混合感染すると致死率が著しく高まります。犬パルボウイルス感染症の予防も忘れずに行いましょう。
犬コロナウイルスの感染経路
感染様式は糞便を介した経口伝播で、ウイルスの感染部位は小腸の上部2/3とその所属リンパ節に限られています。
そのため、全身にウイルスが回って全身性疾患に発展することはありません。
ウイルスは特に小腸絨毛の尖端部の細胞に感染し、絨毛の破壊と萎縮を引き起こします。その際、絨毛の根元(陰窩部)の細胞は破壊されないので、絨毛の再生は短期間のうちに行われます。
犬コロナウイルス感染症の診断法
犬コロナウイルス感染症の診断は、症状から推定することがほとんどです。しかし、他の感染症である可能性を除外するために、種々の検査が行われる場合があります。
糞便検査
芽胞菌や原虫(コクシジウム、ジアルジアなど)、蠕虫類(犬回虫、犬鉤虫、犬鞭虫など)、下痢を引き起こす他の要因がないか確認します。
特に子犬で要注意となる犬パルボウイルスと犬ジステンパーは、簡易キットで感染の有無をしっかり確認しておきます。
血液検査
発症時と比較して発症3週間後の抗体価が4倍以上に上昇していれば、犬コロナウイルスの感染を強く示唆します。
脱水の有無や、下痢による電解質の不均衡を検出することも可能です。
画像検査
肝疾患や膵臓疾患など、他の下痢を引き起こす疾患を除外するために行うことがあります。
犬コロナウイルス感染症の治療および予後
ほとんどの場合は自然治癒します。
しかし、多頭飼育の場合は感染が拡大する可能性があるので、症状が現れたらすぐに動物病院に連絡の上、受診しましょう。
症状が持続する場合
下痢や嘔吐が続くと脱水状態となってしまうため、治療を行います。しかし犬コロナウイルスに対する直接的な治療法はなく、症状を緩和する対症療法に留まります。
具体的には脱水や電解質補正のための輸液、細菌の二次感染予防のための抗菌薬の投与を行います。また、症状の重さによっては制吐薬や止瀉薬を用いることもあります。
予後
犬パルボウイルスとの環濠感染など、重症の子犬を除いて予後は良好です。
発症後2〜3日で回復する症例が多いです。
犬コロナウイルス感染症の予防法
軽症例が多い犬コロナウイルス感染症ですが、重症化してしまうこともあります。リスクを減らすためにも、感染しないようにすることが大切です。
定期的な混合ワクチンの接種
6種または8種以上の混合ワクチンの接種によって予防できます。
子犬のうちは犬コロナウイルスが予防できるものを接種し、成長するにつれて含まないものに変更するなど、考えてみても良いかもしれません。かかりつけの獣医師としっかり相談しましょう。
環境の消毒
ウイルスが体外に排出される期間は2週間程度です。
またウイルスは消毒薬で容易に不活化されますので、部屋はもちろんのこと、食器や水飲みなども定期的に消毒するといいでしょう。
ストレスを避ける
不顕性感染が多い犬コロナウイルス感染症ですが、ストレスなどで免疫力が低下すると発症することがあります。
多頭飼育の場合には過密を避け、また温度管理もしっかり行いましょう。
まとめ
犬コロナウイルスは、対策せずに甘く見ていると、実は怖い感染症だということがわかっていただけたでしょうか。
感染しないよう、ワクチン等で飼い主さんがしっかり対策をし、愛犬の健康を守ってあげましょう。
犬のワクチン接種についてはこちらの記事もご覧ください。