みなさんは、「いびき」に対してどんなイメージがありますか?
睡眠時無呼吸症候群などの疾患が各種メディアでも話題になっていることもあり、いびきは良くないものだと思っている方もいらっしゃるでしょう。
それでは、犬のいびきはどうなのでしょうか。愛犬がいびきをかいているとき、そのいびきが異常かどうか判断できますか?
本記事では、犬におけるいびきについて獣医師が詳しく解説していきます。
この記事の目次
そもそもいびきって何?
いびきとは、何らかの原因で気道が狭くなり、呼吸の際に出入りする空気が軟口蓋(なんこうがい)や舌根(ぜっこん)を振動させて出る音のことを言います。
いびきは鼻腔だけでなく、咽頭や喉頭が原因であるものもあります。
「生理的ないびき」と「病的ないびき」
「生理的ないびき」は通常、睡眠中に生じる呼吸雑音で、睡眠によって気道の筋肉の緊張が低下することで、気道が圧迫されて狭窄(幅が狭くなること)します。
しかし、「病的ないびき」では、各種疾患によって気道が閉塞もしくは狭窄することで呼吸により出入りする空気が振動して音を出します。病的な原因がある場合は、起きているときもいびきのような呼吸音が聞こえることがあります。
犬のいびきで受診する前にチェックしておくこと
いびきが生理的なものなのか、病的なものなのかを判断する上で、問診は非常に重要です。
犬のいびきが気になって動物病院を受診する前には、前もって次のようなポイントを抑えておきましょう。
- いつから: 先天的か後天的か、急性か慢性かなど
- ワクチン接種歴: ケンネルコフの除外
- 外傷の有無: 外傷による鼻腔や口腔内の裂傷の可能性
- 呼吸様式: 息苦しそうか、呼吸器疾患の可能性
- 呼吸数:安静時の呼吸数による呼吸器疾患の判定
呼吸数は、1分間当たり何回呼吸したかを計測します。
しかし、1分間ずっと観察するのは大変なので、15秒間の呼吸数を4倍しておおよそ1分間の呼吸数を算出してもよいでしょう。
通常は1分間に15〜20回程ですが、呼吸器に異常がある場合は40回/分以上になることもあります。
犬のいびきで考えられる疾患
疾患の診断は、身体検査や画像検査などによって行います。
いびきが見られた際に考えられる疾患にはどんなものがあるのか、紹介していきます。
鼻炎
細菌、ウイルス、真菌、寄生虫、アレルギーなど様々な原因によって鼻腔内に炎症が起こると、鼻粘膜が腫れて気道が狭くなります。
鼻汁やくしゃみなどの症状が伴うことが多いです。
鼻腔内腫瘍
鼻腔内に腫瘍が形成されることで、気道が狭くなります。中高齢の、マズルが長い犬種に多く発生する傾向にあります。
鼻汁やくしゃみの他に、鼻出血や顔面の変形が見られることがあります。
鼻腔内異物
植物の種などの異物が鼻腔内に入り込むことによって、物理的に気道が狭くなります。
それと同時に、異物によって炎症が起こるため、さらに気道は狭窄します。
画像検査でも異物の存在は確認が困難であることも多く、難治性の鼻炎に苦しむ子も多くいます。
外鼻孔狭窄
生まれつき鼻の穴が小さく、空気の取り込み口が狭い状態です。この状態はパグ、ペキニーズ、シーズーなどの短頭種に多く見られます。
特にこれらの犬種では、「短頭種気道症候群」と呼ばれる一連の疾患群(外鼻孔狭窄、軟口蓋過長症、気管低形成、気管虚脱)が発生しやすく、吸気性呼吸困難が引き起こされます。
外科的に狭窄している外鼻孔を拡張して治療します。
軟口蓋過長症
軟口蓋は、飲食時に食べ物が鼻腔に入らないようにするための蓋です。
呼吸時には収納されていますが、この軟口蓋が長いことで呼吸が妨げられる疾患を「軟口蓋過長症」と言います。
いびきの他にもパンティング、吸気時の喘鳴音、呼吸困難、嚥下困難などが見られます。また、成長とともに軟口蓋が伸びることで発症する場合もあるため、経過の観察が必要です。
口蓋裂
口蓋(口腔の上側)が欠損し、鼻腔と口腔が貫通している疾患です。
先天的、または後天的にも外傷によって発生します。先天的な場合、多くは口蓋の真ん中付近に欠損部が存在します。
飲食の後に鼻汁が多いなどの症状が見られる場合にはこの疾患を疑います。
また、鼻腔に入り込んだ飲食物を誤嚥することによって誤嚥性肺炎を併発するおそれがあるため、早期の治療が必要です。
伝染性気管気管支炎(ケンネルコフ)
「犬アデノウイルスⅡ型」や「犬パラインフルエンザウイルス」などの感染による感染症です。
免疫力の弱い子犬の時期に多く発生します。
いびきの他にも発咳、発熱、鼻汁、眼脂などの症状も見られます。
犬のいびきで注意すること
いびきが見られた際に注意したいことは、「甘く見ないこと」です。
しかし、正常かどうかの判断は困難であるため、一度専門家の指示を仰いでみましょう。
動画の撮影
寝ている時の様子や、家での安静時の様子などは動物病院では見ることができません。
いびきの原因を知るために呼吸様式などを知る必要がある場合もあるので、変わったことがあれば動画で撮影するクセをつけておきましょう。
まとめ
呼吸の際に音が鳴るのは正常ではありません。
特に短頭種では、いびきなどの呼吸障害によって命が危険に晒されることもあります。
愛犬に異常が見られた際には、気軽に獣医師に相談してみてください。