動物病院では「猫が排便をしない」という相談をよく受けます。
人間でも、体調によっては排便のない日があるかもしれません。しかし、それが、3日、4日、1週間となるとどうでしょうか?
経験したことがある方はわかるかと思いますが、便秘は非常につらいです。
今回は、猫における便秘について、獣医師が詳しく解説していきます。
この記事の目次
そもそも便秘とは
便秘とは、便の排泄が困難になっている状態のことです。
排便の回数やタイミングはその子によって違うため、厳密に何日以上便が出ていないと便秘だという定義はありません。
日常生活の中で排便の頻度や量などの状態は常に気にかけてあげましょう。
また、便秘になる原因としては、骨盤骨折治癒後などの物理的な通過障害や、腸神経の異常による場合などがあります。
猫の便秘で動物病院を受診した際に聞かれること
猫は非常に神経質な動物であり、病気ではなく単にトイレを我慢しているだけのこともあります。
まずは、問診によって病気なのかを判断することも重要です。
猫の便秘で動物病院を受診する際は、次のようなポイントをチェックしておくとスムーズです。
- いつから: どのくらい便が滞留しているのかの予測、脱水の予測など
- 飼育環境: トイレの個数、同居猫との関係、自宅周辺の工事など環境の変化、食事の変更など
- 事故歴: 外での生活習慣があるか、ケガをしていないか、骨盤骨折の可能性
- 治療歴: 腸の運動を抑制する薬剤の服用
猫の便秘で考えられる疾患
猫の便秘が食事や環境が原因でない場合、原因を特定し治療を行う必要があります。
もちろん下剤や浣腸による便秘の解消も同時に行いますが、原因を根本的に治療しないとすぐに再発する可能性があります。
巨大結腸症
巨大結腸症が便秘の原因というよりは、便秘が巨大結腸症を引き起こします。
結腸は大腸の一部で、便の水分と電解質の吸収が行われます。
便が大量に滞留することで結腸壁の筋肉や神経の働きが低下し、ますます便が出にくくなります。
便秘が続くことで、元気消失、食欲低下、時には嘔吐が見られます。
消化管内異物
ゴムやプラスチック片などの消化できない異物が消化管に閉塞することで、便が通過しにくくなります。
おもちゃのかけらなどを誤飲した形跡があれば、それが消化管を塞いでいる可能性があります。
また、猫の場合は、グルーミング(毛づくろい)による毛玉の閉塞の可能性もあります。
完全に腸管が閉塞した場合は嘔吐などの劇的な症状が見られますが、部分的な閉塞の場合には排便量や排便回数の減少程度の症状しか見られないこともあります。
腫瘍疾患
消化管内の腫瘍による直接的な便の通過障害や、消化管周囲の腫瘤病変によって腸が圧迫されることによる腸管の狭小化が便秘の原因となることがあります。
腹部超音波検査によって、消化管の形態と腫瘤の関係について精査する必要があります。
馬尾症候群
猫の脊髄は脳から出て、背骨の穴を通って尻尾の方に走っています。しかし、腰の部分(第5-7腰椎間)で太い神経である脊髄は、枝分かれして無数の細い神経になり、後肢に分布していきます。
この枝分かれした神経が馬の尾のように見えることから、ここを「馬尾神経」と言います。
加齢などの原因で腰椎の変形が起きたり、椎間板疾患によって椎間板の突出が起こると、馬尾神経が圧迫され、後肢の麻痺や背中の痛みが生じます。排便の際、便はこの腰椎の近くを通過することになり、違和感や痛みを生じます。
すると排便の回数が減少し、便が硬化して便秘へと繋がります。
馬尾症候群は神経の障害に起因するため、発症すると動きたがらなくなり、排便時に痛くて鳴くようになります。
外傷
交通事故や高い場所からの落下などによって骨盤を骨折すると、便の通過障害を起こす場合があります。
また、手術による骨盤整復の後も、骨盤腔の狭小化が起こることによって便秘になりやすくなります。
そのため、手術後は、骨の治癒過程を観察しながら直腸検査の要領で骨盤腔を広げる処置を行っていきます。
猫の便秘の予防と対処
では便秘が発覚した時、あるいは便秘にならないためには何に気を付ければよいのでしょうか。予防と対処法を詳しくご紹介します。
猫に水を飲ませる
猫が脱水状態に陥っていると便が硬くなり、便秘になりやすくなります。
水飲み場は清潔に保ち、いつでも飲水できるようにしてあげましょう。
また、特に冬場は冷たい水を飲みたがらない猫も多いので、人肌くらいの温度の水を与えてみましょう。
それでも水を飲まない場合は、水飲み場の位置や器の素材を変える、ウェットフードを与えるなどの工夫をしましょう。
トイレを清潔に保つ
猫はきれい好きなので、トイレが汚れていると排泄をしない子もいます。
できるだけ早く排泄物を片付ける、それが難しいならトイレを複数個用意してあげるとよいかもしれません。
落ち着いて排泄できる環境を作ることが大切です。
ストレスを取り除く
猫は、ストレスが原因で便秘を起こすことがあります。
ストレスの原因は、引っ越しなどで住環境が変わったことや、工事や雷の音など様々です。
猫が落ち着いて過ごせるように、四方が覆われたドーム状のベッドなどを用意してあげるとよいでしょう。
また、飼い主さんからの愛情不足を感じていたり、逆にスキンシップの取りすぎがストレスの原因となることもあるので、猫とのコミュニケーションは適度に行いましょう。
運動不足が原因で便秘になっている可能性もあるので、コミュニケーションの一環として、おもちゃなどを使って思いっきり運動させてあげるとよいですね。
お腹のマッサージは有効?
動物病院では、便の排泄を促すために固くなって溜まった便を、お腹を揉むことで粉砕して小さくする処置を行います。
これは家でもできることですが、慣れていないと腸壁を傷つけてしまったり、猫が非常に嫌がることがあります。
そのため、自宅での強いマッサージは避けた方が無難です。
ただし、お腹を「のの字」に優しくさすってあげるのは簡単ですので、日常のスキンシップの中でやってみると効果が出るかもしれません。
まとめ
食欲や元気の有無と同じように、猫の排泄の有無は日頃からしっかりとチェックしておきたい項目です。
外飼いの習慣があって排泄の様子がわからない子もいると思いますが、その場合は家で確認できる食欲などのバロメーターを把握し、異常が見られたらすぐに動物病院を受診してください。