猫は腎臓病にかかりやすいことが知られており、死亡原因の上位を占めています。食事や生活週間などを気をつけていても腎臓病にかかってしまうことも多く、今のところ治療法はありません。
しかし、もし猫の腎臓病が「治せる病気」になれば、猫の寿命が30歳になるのも夢ではないと言われています。
本記事では、猫の寿命が30年になるとされる最新の研究についてわかりやすく解説していきます。
この記事の目次
猫の腎臓病
7歳以上の70%の猫が患っているという報告もある腎臓病。腎組織は一度破壊されると回復することはなく、進行を遅らせることはできても、治療する方法はまだありません。
腎臓病の原因は、塩分の過剰摂取だけでなく、タンパク質の過剰摂取や排泄の我慢、ストレスなども考えられます。猫の飼い主の多くは、これらの原因を取り除き、健康的に生きられるよう気をつけています。
しかし、腎臓の60%以上が壊れるか、機能が低下しないと症状が現れないため、気付いたときにはすでに進行してしまっています。腎臓病を早期に発見するためには、定期的な血液検査や尿検査が大切です。
宮崎徹教授のプロフィール
現在東京大学大学院の研究センターに籍を置いている宮崎教授は、もともと臨床医で、救急科や内科で研修を行っていました。しかし、医学が進歩したのにも関わらず、「治らない病気」が存在する現状を何とか打開したいと考えたため、研究分野へとシフトしました。
その後、自己免疫疾患の研究を行い、人間の血液中に含まれる「AIM」というタンパク質を発見しました。AIMを中心としたさまざまな病気について研究を続けている際に、獣医師との出会いからAIMと猫の腎臓病の関連に気付いたそうです。
AIMと猫の関連
AIMは「Apoptosis Inhibitor of Macrophage」という言葉の略で、「マクロファージを死ににくくする、元気にする」という意味があります。
マクロファージとは
マクロファージは白血球の一種で、全身の組織に広く分布しています。
体内に病原菌やウイルスなどの異物が侵入すると、マクロファージが食べて消化・殺菌することで感染を防いでいます。さらに、異物の情報をT細胞に伝え、より強力な免疫を獲得します。
病気の多くは、体内に本来存在しない物質がたまることが原因です。例えば腎臓病であれば、腎臓に死んだ細胞などのゴミがたまり、腎臓が壊れて機能が低下します。
AIMはゴミがたまっていることをマクロファージなどに知らせる働きがあり、情報を受け取ったマクロファージや他の細胞がゴミを除去するという仕組みがあります。AIMの働きが関与しているとされるのが、肥満や肝がん、そして腎臓病です。
猫のAIMは正常に機能していない
AIMはIgMというタンパク質に付着しています。本来は体内に異物が侵入するとAIMがIgMから離れて機能しますが、猫の場合はIgMとの結びつきが強固で離れられず、AIMがあるにも関わらず、欠損しているのと同じ状態であるといえます。
予防と治療が可能に
機能するAIMを猫の体内に注入することで、腎臓病を予防するだけでなく、腎機能が低下した猫にも効果があると見込んでいます。
副作用は見つかっていませんが、抗体ができると効きにくくなる可能性も考えられ、今後も研究が進められます。
現在の研究段階と今後の展望
宮崎教授は、(株)レミアというベンチャー企業を設立し、治療薬を開発しました。
すでに治験が行われおり、腎臓病の猫にAIMを投与すると腎臓の数値が改善していくことが確認されています。今後は薬事申請に必要な臨床試験を行い、2022年までの実用化を目指しています。
猫以外にも…
薬が実用化されればネコ科の動物だけでなく、犬にも効果があると考えられます。犬の飼い主さんもぜひ希望を持ちましょう!
人間の医療でも研究が進んでおり、人間の腎臓病に対応できる薬も開発中です。さらに、アルツハイマー型の認知症への応用も可能と考えられています。
実際に寿命が30年になるかは不明
宮崎教授の研究が進み治療薬が開発されれば、腎臓病で亡くなる猫が減少し、確実に寿命は伸びると考えられます。
しかし、加齢による体の衰えは止められませんので、今後は癌や心臓病などの他の病気で亡くなる猫が多くなるかもしれません。「猫の寿命が倍に」「猫が30年生きられるようになる」という言葉が一人歩きしていますが、必ずしもそうではないことを念頭に入れておきましょう。
それでも、腎臓病で苦しむ猫が少しでも減るのであれば、猫を飼っている飼い主さんにとっては夢のある研究であることは間違いないでしょう。
研究への寄付が急増
猫の飼い主にとって救世主とも言えるこの研究ですが、新型コロナウイルスの影響で経済的な打撃を受けたことから、現在はプロジェクトがストップしている状態です。
しかし、ウェブニュースに取り上げられたことをきっかけに、一気に注目が集まり寄付が増加しました。多くは猫の飼育経験がある人で、「うちの子は間に合わないけど、今後のために頑張ってください!」というコメントもたくさん寄せられています。
研究に協力したいと思った方は、以下のページから寄付ができます。1,000円程度の小額から寄付可能で、クレジットカードやインターネットバンキングで支払いができます。
東京大学基金
https://payment.utf.u-tokyo.ac.jp/tokyo/entry.php
寄付目的で「支援プロジェクトを指定する」を選択後、支援プロジェクトの一覧から「宮崎徹教授の猫の腎臓病治療薬研究」を選択してください。
また、この研究についてわかりやすく説明した宮崎教授の本も出版されたばかりです。こちらも、興味があればぜひ手にとってみてください。
まとめ
生きているものには必ず死が訪れます。これに抗うことはできません。しかし、愛猫の苦痛が軽減され、少しでも長生きしてくれるのであれば、飼い主として幸せなことでしょう。
多くの飼い主を悩ませてきた猫の腎臓病が「予防できる病気」や「治療できる病気」になるのは目前です。ぜひ、今後の宮崎教授の研究に注目していきましょう!