「ADHD」という言葉自体は近年多くのメディアでも取り上げられているため、聞いたことがある人も多いでしょう。
ADHD当事者の方や、家族や知り合いに当事者がいる方も少なくないのではないでしょうか。
そんな身近になりつつあるADHDですが、犬でも発症し得ることをご存知でしょうか?
今回の記事では、犬のADHDについて、特徴や飼育環境の見直しポイント、接し方について詳しく解説します。
この記事の目次
そもそもADHDとは?
特徴
ADHDとは、「注意欠如・多動性障害」とも呼ばれ、いわゆる発達障害のひとつに分類されています。
主に、「不注意」、「多動性(じっとしていられない)」、「衝動性(思いつきで行動してしまう)」などの症状が見られます。
ADHDと一口に言っても、特徴や程度は人によって異なりますが、例えば次のような行動が見られます。
- 忘れ物が多い
- 部屋を片付けられない
- 外からの刺激で気が逸らされやすい
- 時間が守れない
- じっとしているのが苦手で、授業中に歩き回る
- 何かに夢中になると、話しかけられても気づかない
- 朝起きられない、過眠
原因
ADHDの原因ははっきりとは分かっていませんが、生まれつき脳の機能がADHD以外の人と異なり、ドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質に偏りが生じることが原因だと考えられています。
ADHDの75%程度が遺伝によるもので、児童期には全体の5~10%程度がADHDであると言われています。
対処の仕方によっては不注意や多動性、衝動性などを緩和することができますが、脳の機能が原因であることから、完全に治すことはできないとされています。
大人になってから初めてADHDと診断されることもありますが、これは後天的にADHDになったのではなく、これまで気づかずに生きてきたのだと考えられます。
犬のADHDの特徴
どのような行動があらわれる?
犬のADHDの場合も、人間と同じく、「不注意」「多動性」「衝動性」が見られます。
- 他の犬と接するとき、興奮しすぎて怪我をするほど強い力で咬みついてしまう。
- 時間を問わず吠え続ける。
- そわそわと休みなく動き続ける。
- 好きなこと(遊びなど)に対しても集中できない。
- 成犬になっても極端に活発で、一度興奮するとなかなか冷静になれない。
- しつけのトレーニングを根気強く行ってもなかなかできるようにならない。
どの犬でも多少はこのような特性を持ちますが、トレーニングをしっかりして、飼育環境を整えているにもかかわらず、こうした行動が顕著に見られる場合は、ADHDの可能性があります。
ADHDになりやすい犬がいる?
フィンランドにおける犬のADHDの研究では、犬の飼い主を対象に行ったアンケート調査を行い、2015年から3年半かけて約1万1千匹分のデータが集まりました。
調査の結果、恐怖、攻撃性、注意の欠如、多動性、衝動性などの行動特性には遺伝的傾向が強いことや、オス犬でより顕著であることなどが分かり、人間のADHDの特徴と類似していることが分かりました。
また、一人ぼっちで留守番をしていることの多い犬は、そうでない犬に比べて多動性や衝動性が高いことも分かりました。
ADHDのような行動が見られても、先天的にそのような特性を持つ場合もあれば、環境によってADHDに似た行動が出やすくなっている場合もあるのです。
ADHDを疑う前に、飼育環境の見直しを
先述した通り、先天的にADHDの犬もいれば、飼育環境が原因でADHDに似た行動が出る犬もいます。
多動性などがあるからと言って、「うちの犬はADHDに違いない」と決めつけるのではなく、一度飼育環境を見直してみましょう。
1. 社会化は十分にできている?
生後4ヶ月齢くらいまでの「社会化期」に、できるだけ多くの犬や人間、環境や生活音などの刺激に触れさせることが重要です。
この時期にあまり刺激を与えないと、成犬になってからずっと、知らない犬や人、音などを過剰に怖がったり、威嚇したりするようになります。
社会化は社会化期に行うことが望ましいですが、成犬になってからでも不可能ではありませんし、社会化トレーニングを行った場合であっても引き続き継続して行うべきと言われています。
もし、社会化ができていない、足りていないと感じたら、少しずつトレーニングをしていきましょう。
2. 運動不足、刺激不足の可能性も
特に、牧羊犬や猟犬などは、もともと激しい運動をすることができ、時には周囲からの刺激に対して強く反応を示す犬です。
こうした犬に対して、十分に運動をさせてあげなかったり、刺激を与えていなかったりすると、ふとした時に制御できないくらい走り回ったり、刺激に対して過剰に威嚇することがあります。
このような行動は衝動性があるようにも見えてしまいますが、犬種の特性を理解し、適切な運動量や刺激量を与えれば、行動が落ち着く場合があります。
3. 犬にストレスがたまりやすい環境になっていないか
適切な運動量もそうですが、家の中の犬の飼育環境はどうでしょうか?
ひとりぼっちの時間が長すぎるのが良くないのはもちろんですが、逆に子供が走り回ったりテレビがつけっぱなしだったりして、犬が落ち着ける時間が少ないのも良くありません。
1日中ケージの中に閉じ込めたり、鎖に繋いだりして行動の自由を制限しすぎることも、犬にとってストレスがかかることです。
犬とのコミュニケーションは適度にとり、犬が落ち着いて過ごせる飼育環境を整えましょう。
ADHDの犬との接し方
飼育環境を整えても犬の多動性や衝動性などが落ち着かない場合は、ADHDの可能性があるかもしれません。
その場合、しつけを厳しくしてもそのような特性がなくなるわけではないので、そのことを理解した上で犬と接する必要があります。
診断を受けて投薬が可能な場合も
動物病院によっては、犬のADHDの検査・診断ができるところがあります。
そこでADHDと診断されれば、人間と同じように投薬によって行動を緩和させることもできますし、投薬をせずに問題行動を抑える方法を相談することもできるでしょう。
特性を理解して接しよう
ADHDの特性を持つ犬を飼う際、しつけがうまくいかなかったり、他の犬に攻撃をしてしまうなど、何かと大変なことも多いでしょう。ですが、それは犬が悪いわけではありません。
飼い主さんが犬の特性を理解して接してあげることで、犬のストレスを減らしたり、トラブルを未然に防ぐことができます。
人間同様、ADHDと一口に言っても犬によって特性が異なるので、それぞれの犬に合った接し方をする必要がありますが、具体的には次のようなポイントを意識しましょう。
①多動性を抑えずにストレスを解消させる
- 運動量が少ないとストレスがたまりやすいので、外で思い切り走って遊ばせる時間を作る。
- 雨が続いて外に行けない時期は、家の中でたくさん遊んであげる。
- 拘束されるのを嫌うので、ケージの中に閉じ込めたり鎖で繋いだりしない。
②散歩中のトラブルを防ぐ
- 他の犬に怪我をさせてしまわないよう、適度な距離をコントロールする。
- 急に道路に飛び出したりしないよう、リードは短く持つ。
③家の中でできること
- 衝動的にいたずらをしてしまうことがあるので、壊されたくないものや危険なものは犬の届くところに置かない。
- トイレ以外のところで粗相してしまう可能性を考えて、布団など洗いにくいものは犬の行動範囲に置かない。
- しつけは厳しくせず、おすわりだけでもできたらたくさん褒めてあげる。
- 外からの刺激に気が散りやすいので、刺激が少なく落ち着ける環境を整える。
まとめ
ADHDは犬でも発症する可能性があり、適切に対応しないと犬にも飼い主にもストレスがかかってしまいます。
ADHDのような行動が見られても、実は社会化がうまくいっていないことや、飼育環境のストレスが原因になっていることもあり、この場合はトレーニングや飼育環境の見直しで改善することができます。
それでもなかなか緩和できない場合、「もしかしたらADHDかもしれない」と考え、犬の特性に合った接し方を考える必要があります。
ひとりで対処するのが難しければ、獣医師やドッグトレーナーに相談することも考えましょう。