前編では「アニマルウェルフェア」先進国のイギリスの状況を紹介しました。
後編の本記事では、「アニマルウェルフェア」後進国と言われる日本の現状を紹介します。少しでもアニマルウェルフェア実現に向けて前進するために、まずは現状を知ることが大切です。
日本の実情を知り、アニマルウェルフェアを考えるきっかけになればうれしいです。
この記事の目次
日本のアニマルウェルフェアに関する認知度
日本がアニマルウェルフェア後進国と言われる要因の一つに、知名度の低さが考えられます。
認定NPO法人アニマルライツセンターは、2016年から毎年「畜産動物に関する認知度調査アンケート」を実施しています。この調査では、毎回同じ10項目の質問を設け、回答者は「知っている」「聞いたことがある」「知らない」の3つから選択します。
質問項目
- 母豚の多くが、妊娠ストールという、方向転換できない狭い囲いの中に閉じこめられていることを知っていますか?
- 子豚の多くが、麻酔なしで去勢、歯・尾の切断をされていることを知っていますか?
- 卵用の鶏の多くが、バタリーケージという、狭い金網の中(一羽あたり22センチ×22センチほど)で飼育されていることを知っていますか?
- 卵用の鶏の多くが、麻酔なしでクチバシを切断されていることを知っていますか?
- 肉用の鶏(ブロイラー)が、早く成長するように品種改変されており、その結果、病気になりやすくなっていることを知っていますか?
- 乳牛の多くが、つながれた状態でほとんどの時間を過ごしていることを知っていますか?
- 牛の多くが、麻酔なしで去勢、角の切断をされていることを知っていますか?
- 「アニマルウェルフェア」、あるいは「動物福祉」という言葉を知っていますか?
- 平飼卵、あるいは放牧卵が、スーパーなどで販売されていることを知っていますか?
- ヨーロッパで禁止されている飼育方法が、日本で行われていることを知っていますか?
※質問5のみ2016年は未実施
結果
回答者全員の認知度
2022年は『「アニマルウェルフェア」、あるいは「動物福祉」という言葉を知っていますか?』という質問に対し、有効回答数1214のうち、81.5%が「知らない」と回答をしています。
81.5%という数字の多さに驚かれるかもしれませんが、2016年以降毎年実施している本調査で、「知らない」と答えた人の割合は2022年が一番低い結果です。
乳牛に関する質問の結果は前年との差はあまり見られませんでしたが、他の質問は前年よりもそれぞれ平均1.5%程認知度がアップしています。
しかしながら、全体の8割強が「知らない」と回答しています。
年齢別の認知度
上のグラフは2022年の結果です。10代から20代の認知度が高い傾向にあるのは毎年のことですが、2022年の結果の特徴としては、2021年と比べて、20代から40代にかけて特に認知度が上がっています。
低い年代から徐々に認知度が高まっており、今後も低い年代から認知度が上がっていくことが予想されています。
世界から見た日本
世界14か国に拠点を持つ国際的な動物保護団体、「世界動物保護協会(WAP)」が公表した 2020年版の動物保護指数(API)を紹介します。
評価対象は日本を含む50か国です。アニマルウェルフェアの法規制や政策に関する 10 項目に関して、最高レベルを指すAから最低レベルのGまで7段階評価で行われます。
日本は総合評価E、各項目も軒並み低い結果であり、日本のアニマルウェルフェアの対応の遅さを示す結果です。なお、本記事の前編でアニマルウェルフェア先進国として紹介したイギリスは総合評価Bでした。
<参考>10項目の内容と日本の評価
評価項目 | 評価 |
---|---|
動物の知覚は法律によって正式に認められているか | F |
動物に苦痛を与えることを禁止する法律があるか | D |
畜産動物の保護について | G |
管理下の動物の保護について(展示動物や毛皮産業など) | D |
コンパニオンアニマルの保護について | D |
使役動物および娯楽に用いられる動物の保護について(サーカスや闘犬など) | G |
科学研究に用いられる動物の保護 (動物実験) | E |
野生動物福祉の保護 | E |
動物福祉における政府の責任 | F |
OIE動物福祉基準の遵守状況 | F |
日本の採卵鶏の飼育状況
アニマルウェルフェアの中でも、消費者という立場で多くの人に関わりがある家畜業界の現状を見ていきます。
日本人は国際鶏卵委員会(IEC)の調査では世界第2位と、卵の消費量が多い国です。年間でひとり当たり平均338個の卵を消費しているとされ、ほぼ1日1個は食べている計算になります。
この卵を産むために育てられているのが採卵鶏です。採卵鶏の飼育方法としては主に4つあります。
- 放牧
- 平飼い
- エンリッチドケージ
- バタリーケージ
※アニマルウェルフェアの実現度が高い順に記載
最もアニマルウェルフェアの実現度が低い、つまり動物(採卵鶏)への負担が大きいバタリーケージでの飼育が日本で最も多い飼育方法です。
2015年の「採卵鶏の飼養実態アンケート調査報告書」によると、日本の養鶏場の92%以上がバタリーケージを採用していました。バタリーケージは、B5サイズくらいの非常に小さなケージを何段にも積み重ねた飼育方法です。効率的かつ安定的に生産できるといった理由から、この飼育方法が日本では主流になっていると考えられます。
養豚(母豚)の飼育状況
養豚の飼育方法の中で、アニマルウェルフェアという観点から特に問題視されているのが「妊娠ストール」と呼ばれる、母豚を飼育する檻の使用です。妊娠をした母豚を、出産までの約4カ月間、方向転換もできないほど狭い檻に一頭一頭入れる飼育方法です。
日本において2018年に日本養豚協会が実施した「養豚農業実態調査」の調査では、91.6%が妊娠ストールを採用していました。
この調査は2007年、2014年と、2016年以降は毎年行われており、2007年の調査結果では妊娠ストールの採用率は83.1%でした。有効回答数にばらつきがあるものの、約10年日本では変化がほぼなく、大多数が妊娠ストールを採用し、母豚がアニマルウェルフェアからかけ離れた状況下で飼育されていることがわかります。
2018年時点でストールを採用していると回答したうちの10%が今後「群飼養を検討する」と回答しており、この点は期待ができますが、実現には国による法整備といった、具体的かつ強制力のある対応が必要であると考えられます。
母豚の辛い一生
子どもを産むために飼育される母豚は、生後8カ月程度で人工授精またはオスとの交配によって種付けされ、母豚となる豚たちは1頭1頭が妊娠ストールへ入れられます。ここで約4カ月間の妊娠期間を過ごし、出産前には分娩ストールへ移動されます。分娩ストールも妊娠ストール同様に狭く、方向転換はできません。ここでは約20日間過ごします。
その後、次の種付けのために他の母豚とともにフリーストールという、何頭かの豚を群飼いする囲いに入れられます。フリーストールも4〜8畳程度しかない広さですが、方向転換や歩くことはできます。しかし、フリーストールにいられる期間はわずかです。発情し種付けが行われるとすぐにまた妊娠ストールへ戻されます。
母豚たちはこのようなサイクルで平均1年に2.2産させられ、生後4-5年で屠殺されます。多くの時間を方向転換の出来ない空間で過ごし、その一生を終えることになります。
まとめ
日本のアニマルウェルフェアの実現度は国内で見ても、世界から見ても非常に低いことがおわかりいただけたのではないでしょうか。
今回紹介した家畜に関する現状はほんの一部です。知れば知るほど、辛く、心を痛めることもあるかもしれません。しかし、消費者という立場から、さらに深く多くの現状を知っていただきたいと思います。
次回の記事では、日本の取り組みや、私たちにできることをご紹介します。