皆さんは「ウルフドッグ」をご存じでしょうか。狼犬やオオカミ犬などとも呼ばれるウルフドッグは、犬とオオカミが交雑した独特な存在であり、その独自の特性と野性的な美しさから、一部の愛好家からは非常に人気があります。
この記事では、交雑種であるウルフドッグや犬種として認められている2種のウルフドッグについて、また一般の家庭でウルフドッグを飼うことは可能なのかについても解説していきます。
この記事の目次
ウルフドッグとは
ウルフドッグは、家畜化されたオオカミとジャーマン・シェパード・ドッグ、シベリアン・ハスキー、アラスカン・マラミュートなどの犬種との交配によって生まれる混血犬の一種です。オオカミの血の濃さで区分があり、オオカミの血の割合が低い順から「ローコンテンツ」、「ミドル(ミッド)コンテンツ」、「ハイコンテンツ」と称されています。
その中でも、オオカミの血を75%以上引き継いだ「ハイコンテンツ(ハイパーセント)」は、外見がオオカミに近づくため、愛好家の間で非常に人気があります。
ただし、2020年6月1日に動物愛護管理法が改定され、それにより親がオオカミと犬の第1世代(F1)は「特定動物」とされ、愛玩目的での飼育ができなくなりました。しかし、交雑種同士の交配で生まれた第2世代(F2)以降については、原則的には特定動物ではなく、飼育が認められています。
環境省_特定動物(危険な動物)の飼養又は保管の許可について [動物の愛護と適切な管理]
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/danger.html
また、居住地域によってはウルフドッグが自治体の条例で遵守事項が定められている「特定犬」に該当する場合がありますので、飼育する場合は事前に確認する必要があります。
そんなウルフドッグですが、中にはFCI(国際畜犬連盟)やJKC(ジャパン・ケネル・クラブ)によって公認されている犬種も存在します。それが、次章から解説する「サールロース・ウルフドッグ」と「チェコスロバキアン・ウルフドッグ」です。
サールロース・ウルフドッグとは
オオカミと犬の混血種が犬種として認められたのは、「サールロース・ウルフドッグ」と、後述する「チェコスロバキアン・ウルフドッグ」の2犬種のみです。サールロース・ウルフドッグが先に誕生し、1975年に犬種として公認されました。
「サーロス・ウルフドッグ」や「サルース・ウルフドッグ」などとも表記されることがありますが、本記事ではJKCの標準に合わせて、「サールロース・ウルフドッグ」と表記します。
歴史
ジャーマン・シェパード・ドッグの愛好家であり、野生動物を深く愛するLeendert Saarloos氏が作出した犬種が、オランダ原産のサールロース・ウルフドッグです。Saarloos氏は、ジャーマン・シェパード・ドッグが人間性を帯びた犬になりすぎているとの懸念から、より優れたワーキング・ドッグを生み出すためにオオカミの血を入れることを思い立ちました。
しかし、実際に生まれてきたのはオオカミの野生特有の臆病さや、逃走したがる気質を持った犬であり、ワーキング・ドッグ向きではなく、犬種としてもなかなか認められませんでした。その後、他のブリーダーの尽力もあり、犬の本質に近い特性を持つ犬種として、ケネルクラブから公認を受けるに至りました。
身体的特徴
体高はオスが65cm~75cm、メスが60cm~70cmの大型犬です。一般的なドーベルマンと同程度の大きさです。毛色はウルフ・グレーとブラウンが認められています。夏毛と冬毛の違いが顕著で、特に冬になるとアンダーコートが豊かになります。
性格
家族に対しては非常に忠実で愛情深い一方で、オオカミ特有の群れへの執着心が強い傾向があり、家に一頭だけで留守番させることが難しいとされています。
非常に臆病なため社会化訓練は欠かせず、一般的な犬が生後8週目から16週目に社会化トレーニングをするのに対し、サールロース・ウルフドッグは生後3週目からしっかりトレーニングしないと間に合わないとも言われています。
運動量はかなり多く必要で、運動不足になると余ったエネルギーを消費するため、家庭内で破壊行動を見せることもあります。
チェコスロバキアン・ウルフドッグとは
先述した、サールロース・ウルフドッグと見分けるのが難しいほど外見が似ているのがチェコスロバキアン・ウルフドッグで、旧チェコスロバキア原産の犬種です。
歴史
1955年、旧チェコスロバキアにおいて、オオカミと犬を交配させ生まれた個体がどのような行動を示すかを実験的に調査する試みが行われました。この実験では、ジャーマン・シェパード・ドッグとカルパチアン・ウルフが交配されたとされています。そして、その子孫たちは人間による飼育が可能であることが実証されました。
その後、オオカミと犬を交配して両者の良い特性を兼ね備えたワーキング・ドッグを作り出したいという思いから、この犬種の繁殖が計画的に進められ、1989年にFCIにおいて犬種として公認されました。
身体的特徴
体高はオスが最低65cm、メスが最低60cmとされ、サールロース・ウルフドッグとほぼ同じくらいの大型犬です。体重はオスが最低26kg、メスが最低20kgとされ、その体の大きさに対してスリムな印象を受けます。毛色は黄色みがかったグレーからシルバー・グレーです。
性格
他のウルフドッグほど神経質ではなく、家族には愛情深く、明るい気質を持っているとされています。ウルフドッグにしては勇敢さも持ち合わせています。
ただし、あまり吠えず一頭だけでの留守番には適していなかったり、人見知りが激しいため子犬期のしっかりとした社会化訓練は必須であるなど、ウルフドッグらしい一面も備えています。
また、サールロース・ウルフドッグと同じく運動量がかなり多い点も特徴です。
ウルフドッグは飼いにくい?
オオカミのように凛々しくカッコイイため、一部では非常に人気のあるウルフドッグですが、相当な覚悟がない限り、飼うことはおすすめできません。
まず、非常に運動量が豊富で広い飼育スペースが必要であり、優れた跳躍力を持つため2~3mくらいの柵であれば飛び越えて脱走してしまうと言われています。
また、群れで生活する習性が通常の犬より強く残っているので、多頭飼育が好ましいとされています。
さらに、ウルフドッグの食事は通常のドッグフードですが、食事量が多いため費用がかかり、個体によっては肉しか食べられないこともあるため、そのような場合はエサ代だけで年間50万円近くかかります。
加えて、ウルフドッグに適したしっかりとしたトレーニングも必要です。なぜなら、ウルフドッグはプロであっても飼育が難しい面があり、実際に次のような事件が起こっています。
2021年の脱走事件
長野県でブリーダー業を営む飼い主宅の犬舎から2頭のウルフドッグが脱走しました。警戒心の強さもあってか、なかなか捕獲できず、警察や自治体職員も出動する大騒動となりました。翌日、飼い主がまるでタックルするかのように抱え込んでようやく捕獲に成功したとのことです。
2015年の死亡事故
4頭のウルフドッグを飼う北海道の施設内で、女性が胸や腕をかまれて亡くなっているのが発見されました。亡くなった女性はウルフドッグの世界ではトップクラスのブリーダーであり、4頭中3頭は彼女が育て、飼い主に譲渡した犬でした。女性は飼い主が不在時に訪問したため、犬たちは家族でない侵入者が来たと判断し、攻撃を加えたと考えられています。
まとめ
ウルフドッグは交配により、かなりオオカミに近い個体も存在する混血犬です。中には犬種として認定されている種類の犬もいますが、基本的に飼うのが難しいとされています。
しかしながら、オオカミのように精悍で野性的な魅力があるのも事実です。飼うのは難しくとも、図鑑や動画などを通じて親しんでみてはいかがでしょうか。