愛犬や愛猫に突然、嘔吐や下痢の症状が見られたとき、飼い主であるあなたはどうしますか?
動物病院でも、嘔吐や下痢を主訴に来院するケースは多いです。そこで考えなければならない疾患の一つに急性膵炎があります。
今回は犬猫の急性膵炎について解説していきます。
この記事の目次
急性膵炎とは
膵炎は、自分の消化酵素によって自己組織が障害されることで生じる疾患です。膵炎における消化酵素による障害は、周辺組織にも波及します。逆に周辺組織からの炎症が膵臓に波及して膵炎を発症することもあります。
膵臓の炎症により嘔吐や下痢、腹痛といった消化器症状が見られ、発症後24〜48時間以内の治療開始が推奨される緊急性の高い疾患です。
好発犬種/猫種
特に犬種や猫種によって発症頻度の差はないようです。また、犬猫いずれにおいても中高齢(平均年齢は犬6.5歳、猫7.3歳)に多い傾向にあります。
雌雄の発症率の差は認められていません。
病態生理
膵炎はどのように起こるのか、膵炎によって体内で何が起こるのかを理解することで、治療や検査の理解に役立ちます。少し難しいかもしれませんが、頭に入れておくと良いかもしれません。
犬の場合
各種要因(高脂肪食の多給、膵臓の損傷など)によって膵臓における消化酵素のもとが活性化され、自己組織を消化することで膵炎が起こります。
さらに、膵管の閉塞、高カルシウム血症、感染症のほか、リスク因子として肥満、全身性代謝性疾患(糖尿病、副腎皮質機能亢進症、慢性腎不全)、腫瘍などが挙げられます。
また、重度の膵炎では様々な合併症が問題となります。合併症としては、活性化した消化酵素による腹膜炎や肝炎、胆管閉塞、播種性血管内凝固(DIC)、低血糖、低血圧、肺水腫、高脂血症、高カルシウム血症、糖尿病などが挙げられます。
猫の場合
犬と異なる点は、高脂肪食の給与による膵炎の発症は比較的少ないことです。猫の場合、胆管炎、胆管肝炎、肝リピドーシス、炎症性腸疾患との併発が多いと言われています。これら炎症性疾患からの膵臓への炎症の波及、または膵炎からこれら臓器への炎症の波及が起こります。
また、トキソプラズマの重度感染、ヘルペスウイルス感染症によっても膵炎が誘発されると言われています。
症状
膵炎に特異的な症状はなく、胃腸炎など他の消化器疾患と同様の症状が見られます。また、症状には軽症例から重症例まで大きな幅があります。
特に重症例では早期に適切な治療を行う必要があります。犬と猫で症状に少し違いがあるため、それぞれ別々にご紹介します。
犬の場合
- 突然の激しい嘔吐
- 腹痛
- 元気消失
- 下痢/黒色便
腹痛は特に右上腹部を圧迫すると顕著になります。触れる際には攻撃されないように注意しましょう。
また、後肢を起立し前肢を前方に延ばして伏臥したような「祈りの姿勢」を示すことがあります。
猫の場合
- 体重減少
- 元気/食欲消失
嘔吐は40%に見られる程度で、下痢も頻度は高くありません。
診断
急性膵炎の診断には、主に血液検査と画像検査が用いられます。
血液検査
採血を行い、特定の項目をチェックします。また、合併症の有無を判断するため、膵臓に関連する項目以外も確認していきます。
血液生化学検査:
- 上昇→アミラーゼ、リパーゼ、尿素窒素(BUN)、クレアチニン、グルコース濃度
- 減少→アルブミン、カルシウム濃度
また、総ビリルビン濃度、肝酵素活性(ALT、ALP)値の上昇などがしばしば認められます。
- CRP(犬):犬における炎症のマーカー
- Spec-cPL(犬):犬膵特異的リパーゼのこと。これの上昇により膵炎が高率に検出できる。
- Spec-fPL(猫):猫膵特異的リパーゼのこと
Spec-cPL や Spec-fPL は現在、迅速診断キットによって短時間で検査が可能になりました。ただし、これらの検査の値が正常か、正常よりギリギリ高いような場合でも膵炎が否定されることにはならないので注意が必要です。
画像検査
超音波検査によって膵臓および膵臓付近の組織を確認します。また、腹膜炎による腹水の貯留や十二指腸の蠕動の様子も確認していきます。
治療
前述のように、急性膵炎は発症後24〜48時間以内に治療を開始することが重要です。よって検査を行った結果、膵炎の確定診断が得られなくとも、膵炎がわずかでも疑われる場合は治療を開始することがあります。
- 輸液:嘔吐や下痢による脱水、電解質の補正のために点滴を行います。
- 抗菌薬:壊死した膵組織への腸内細菌の二次感染を予防します。
- 嘔吐への処置:制吐薬を投与します。十二指腸に胃液が流入すると膵液の分泌が促進されてしまうので、胃酸分泌抑制薬も投与します。
- 下痢や腹痛に対する処置:場合によっては止瀉薬や痛み止めを投与します。
- 膵炎治療薬:犬の膵炎急性期における臨床症状の改善を目的とした薬剤があります。
- 食事管理:ササミなど低脂肪、低炭水化物のものを選択します。
絶食は必要か
過去には膵炎の初期治療には絶食と絶水が行われてきました。しかし、近年では栄養学的観点や、絶食による消化管運動の低下などの悪影響を考慮し、早い段階で低脂肪食の経口摂取が推奨されています。
嘔吐しないかを慎重に確認しつつ、ごく少量から食事をスタートし、徐々に量を増やしていきます。
予後
早期に治療を開始し、併発症を未然に防ぐことができれば、予後は良好です。
一方で、全身性炎症反応症候群(SIRS)や播種性血管内凝固(DIC)などの併発症が起こった場合は、予後不良となります。
予防
獣医師側からしても注意しなければならない膵炎ですが、予防する方法はあるのでしょうか。
高脂肪食の多給が素因と考えられていることからも、日常の食事管理によって膵炎のリスクを低減させることは可能でしょう。体重管理や人の食べ物を与えないことなどが重要です。
余談ですが、アメリカではクリスマスに犬の膵炎が多いというデータがあるそうで、これは人が食べ残したフライドチキンを飼い犬がゴミ箱から漁って食べることによる、という話もあります。生ごみの管理も大切そうですね。
まとめ
急性膵炎は治療が遅れると命に関わることもある恐ろしい疾患です。しかし、日常的に愛犬や愛猫の健康を観察することで、早期に気付ける疾患でもあります。
嘔吐や下痢は遭遇することも多い症状ですが、甘く見ずに動物病院を受診した方が良いでしょう。