【獣医師監修】心臓病が原因で肺に水が溜まる?犬猫の心原性肺水腫とは

2025.11.22
【獣医師監修】心臓病が原因で肺に水が溜まる?犬猫の心原性肺水腫とは

突然ですが、心原性肺水腫という病気をご存じでしょうか。人間と同じように、犬や猫も心臓病にかかることがあります。そして、心疾患は多くの場合、循環不全を起こし、それによって身体に様々な異常が生じます。

その異常の中の一つに呼吸器への影響がありますが、心原性肺水腫もそれに含まれます。

今回は、犬猫の心原性肺水腫について解説します。

この記事の目次

心原性肺水腫とは

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心原性肺水腫は読んで字のごとく、心臓疾患が原因で生じる肺水腫のことです。肺水腫とは「肺に水が溜まった状態のこと」で、呼吸困難などの呼吸器症状を呈し、時には命に関わる病態です。

犬や猫では、僧帽弁閉鎖不全や肥大型心筋症などの心臓病に併発して見られることが多いです。

心臓病以外(腫瘍や感電など)でも肺水腫になることはありますが、本記事では心臓病由来の心原性肺水腫について記述します。

好発犬種/猫種

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心臓病にかかりやすい犬種や猫種は、肺水腫のリスクがあります。

好発犬種

  • キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
  • チワワ
  • トイ・プードル
  • マルチーズ
  • ポメラニアン

好発猫種

  • メインクーン
  • アメリカン・ショートヘア
  • ラグドール
  • ペルシャ

心原性肺水腫は心臓病に伴って現れる病態なので、心臓病のチェックが重要です。

病態生理

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心臓病では、種々の要因により心臓からの血液が正常に送り出せなくなり、静脈での血液の渋滞(うっ血)が起こります。

例えば僧帽弁閉鎖不全では、僧帽弁逆流によって左心房圧が上昇し、肺から心臓へ血液が流れ込みにくくなります。その結果、肺静脈の静水圧が上昇し、水が肺の間質内に漏出します。

症状

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心原性肺水腫では、以下のような症状が現れます。

  • 運動不耐性(疲れやすく、動きたがらない)
  • 食欲不振
  • 呼吸困難(呼吸回数の増加、猫では開口呼吸)
  • 舌のチアノーゼ

これらの他に、原因となる心疾患の症状が認められます。心疾患の経過観察中に呼吸器症状が見られた際には、肺水腫が疑われます。すぐに動物病院を受診した方がよいでしょう。

診断

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肺水腫があるかどうかは、数種類の検査によって総合的に判断します。その際に重要になるのは画像検査で、肺に異常があるかどうかをチェックします。

動物病院に来院した時点で呼吸状態が悪そうであれば、酸素吸入を行いながら検査を進めていきます。

身体検査

呼吸数の確認、舌を含めた可視粘膜の確認、聴診による呼吸音や心音の確認などを行います。

X線検査

通常、肺は空気(ガス)を含んでいるためX線画像上では黒く見えますが、肺水腫では白く見えてきます。同時に心臓の状態もチェックします。

肺腫瘍や胸水貯留などの有無も確認します。

超音波検査

肺エコー検査で肺の中の水を検知します。
また、心臓の状態も確認し、肺水腫の原因が心臓由来なのかも判断します。

血液検査

肺水腫を診断するための直接的な検査ではありませんが、同じような呼吸器症状を示す肺炎と鑑別するため、炎症マーカーや白血球数を確認します。

また、肺水腫の治療で利尿薬を用いるために腎臓や肝臓の状態を確認する必要があります。

治療

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心原性肺水腫が疑われる場合は、早急に治療を行う必要があります。その治療方針は、水腫の除去、低酸素血症の改善、原疾患(症状や合併症の原因となっている根本的な病気や障害)の治療です。

利尿薬

肺に溜まった水を尿として排泄させるために利尿薬を用います。しかし、心機能が低下している状態では尿の産生がうまく行われないことがあるため、原疾患の治療も行う必要があります。

また、腎臓に負担がかかる薬剤であるため、使用する前と使用中には血液検査にて腎臓の状態を把握します。

酸素吸入

呼吸の苦しさを改善するために酸素吸入を行います。検査の際にはマスクによる酸素吸入が、入院管理などの際には酸素室での管理が行われます。

原因となる心臓病に対する治療

強心剤、血管拡張薬、β遮断薬などの投与といった、原因となる心疾患の治療も同時に行います。心臓の負担を軽減し、循環の改善を図ります。

予後

基礎疾患の重症度に依存します。

心原性肺水腫のような静脈圧が上昇するタイプの肺水腫は、感染症や誤嚥性肺炎などのような血管基底膜の破綻によるタイプの肺水腫よりも、治療に対する反応が良いとされています。しかし、何度も再発する場合には予後不良となります。

予防

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心原性肺水腫や原因となる心疾患を予防する方法は、残念ながらありません。そのため、病気の早期発見と早期治療が重要となります。

7歳以上のシニア期と言われる年齢では、半年に1回の健康診断をおすすめします。特に心疾患の好発犬種/猫種では、心臓の定期健診を行いましょう。

また、心疾患を持っている子では、自宅での呼吸回数を数えておくことを強くおすすめします。

寝ているときの15秒間の呼吸回数をカウントし、4倍して1分間の呼吸回数を割り出します。1分間に40回以上呼吸しているときは、呼吸が速くなっていると判断します。

日常的に安静時の呼吸回数を測るクセをつけておくと、異常に早く気付きやすくなります。

まとめ

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心原性肺水腫は、命に大きく関わる病態であると同時に、心疾患を抱えている子にとっては身近な病態でもあります。

何か変わったことがあれば、すぐにかかりつけの動物病院にご相談ください。

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