皆さんはチベタン・マスティフという犬種をご存じでしょうか。がっしりとした頑丈な骨格を持ち、首回りや肩の毛が厚く、ライオンのようだと称される個性的で非常に珍しい犬種です。また、人間に翻弄された悲劇的な歴史を持つ犬という側面もあります。
この記事では、チベタン・マスティフの歴史や特徴、日本における飼育数などについてご紹介します。
この記事の目次
チベタン・マスティフの歴史
チベタン・マスティフは、ヒマラヤの遊牧民の家畜を守ったり、チベットの僧院の護衛犬を務めたり、チンギス・ハン率いるモンゴル軍の軍用犬としても活躍していたとされています。しかし、その歴史は多くの謎に包まれており、さまざまな説が提唱されています。
学者の中には、セント・バーナードやグレート・ピレニーズなどの大型のマウンテンドッグやマスティフタイプの犬の祖先がチベタン・マスティフであるという説を唱える者もいますが、未だに確かなことは分かっていません。
非常に歴史が古い犬種であり、古代ギリシアの哲学者アリストテレス(紀元前384~322年)や「東方見聞録」で知られるマルコ・ポーロ(1254~1324年)などが執筆した歴史的な文書にチベタン・マスティフの存在が記述されています。
1940年代の終わり頃に中国がチベットに侵攻すると、チベタン・マスティフは虐殺の対象となり激減しました。その後、ヨーロッパやアメリカに渡っていた個体を基に繁殖され、なんとか絶滅の危機は回避されました。
チベタン・マスティフの特徴
別名「チベット犬」や「東方神犬」、「ドーキー(Do-Khyi)」とも呼ばれるチベタン・マスティフ。その特徴を見ていきましょう。
身体的特徴
オスの体高は66cm以上、メスの体高は61cm以上が標準とされています。体重は64~82kg程度ですが、大きな個体では100kgを超えることもあります。
がっしりとした骨太の体格で、力強さや重量感が感じられます。成長のスピードが他の犬種と比べて遅く、成犬になるまでに2~4年かかります。
被毛
ダブルコートの被毛は密生しており、首周りや肩の毛が特に厚くなっています。毛色はリッチ・ブラック、ブラック&タン、ブラウン、様々なシェードのゴールド、グレー&ブルー、グレー&ブルー&タンが認められています。
性格
元々護衛犬や軍用犬として活躍していたため、独立心や防衛本能が強く、子犬のうちからしっかりしつけをすれば心強い番犬となると言われています。
しかし、近年温和な個体が増えてきたとはいえ、その大きさや警戒心の強さから、ペットとして迎えるには難しい犬種です。
チベタン・マスティフは日本にいるの?
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チベタン・マスティフを見たことがあるという方はなかなかいないと思われます。日本での飼育頭数はどのくらいなのでしょうか。
JKCの登録数
日本で血統書の発行などをしているJKC(ジャパン・ケネル・クラブ)では、毎年新規に血統証明書が発行された犬の頭数を公表しています。そのデータによると、チベタン・マスティフは2019年に3頭の登録しかなく、その後は登録がありません。
2019年にトップだったプードルの中でも最も多いトイ・プードルが86,413頭、超大型犬とされる犬種のうちのトップで、全体では24位のバーニーズ・マウンテンドッグが1,836頭登録されているのと比較すると、いかに少ないかがわかります。
2019年(1月~12月)犬種別犬籍登録頭数 | 一般社団法人 ジャパンケネルクラブ
https://www.jkc.or.jp/archives/enrollment/10192
もし、チベタン・マスティフに出会うことがあったら、とても貴重な体験になりますね。
チベタン・マスティフブームと悲劇
1990年代から中国の富裕層の間で、チベタン・マスティフがステータスシンボルとして人気を博し、そのブームは2010年代半ばにピークを迎えました。2014年には約2億円という驚くべき価格で販売されたチベタン・マスティフも登場し、大きな話題になりました。
当時は北京郊外に次々と繁殖施設が作られ、2万頭以上が市場に出されたとされています。
ブームの終焉
ところが、その後ニセモノの流通や供給過多のために価格が暴落。元々の警戒心の強さやしつけ不足から、人や小型犬への咬傷事故が数多く報告され、一般家庭で飼うことが難しいことが広く知られるようになったことも重なり、ブームは終焉を迎えました。
行き場を失ったチベタン・マスティフの中には、残酷な方法で処理され、食用の肉になったケースもありました。
さらに、飼い主やブリーダーによる飼育放棄が頻発し、野犬の存在が深刻な問題となっています。2021年の報道によると、青海省の三江源国立自然保護区では野犬の数が約16万頭に上り、そのうちの97%がチベタン・マスティフの血統とされています。
「チベタン・マスティフ」が中国で凶暴な“やから集団”に成り果てた悲しい理由 | クーリエ・ジャポン
https://courrier.jp/news/archives/230009/
これらの野犬が人や家畜を襲う事件が数多く発生し、近絶滅種であるユキヒョウの生息域を脅かすなど、深刻な問題となっています。
まとめ
ライオンのように逞しい容姿と勇猛な性格を持つチベタン・マスティフですが、身勝手な人間たちによって悲劇的な運命を辿った個体も多い犬種です。
チベタン・マスティフの悲劇から私たちが学ぶべきことは、一時のブームに踊らされず、犬種について十分に学び、大きな覚悟を持って最後まで大切に飼うことの重要性かもしれません。