子育てのための育児休暇は広く知られた制度ですが、世界にはペットのための育児休暇「パウタニティ休暇」を導入している企業もあります。特に欧米で採用されているこの制度ですが、具体的にはどのような内容なのでしょうか。
今回は、世界のパウタニティ休暇と日本におけるペット関連の福利厚生についてご紹介します。
この記事の目次
パウタニティ休暇とは
父親の育児休暇のことを英語では「Paternity leave(パタニティ・リーブ)」と呼びますが、それに倣い、ペットのための育休は「Pawternity leave(パウタニティ・リーブ)」と名付けられています(Pawは動物の足や肉球を意味します)。この記事では、以降「パウタニティ休暇」という表現を使用します。
パウタニティ休暇とは、ペットを新しく迎え入れた際に取得できる休暇を指し、2010年代から欧米企業で徐々に導入され始めた制度です。
その先駆者が、ペットフードなどで知られるアメリカのマース・ペットケア。同社は世界で初めてパウタニティ休暇を導入した企業の一つとされ、従業員はペットが新しい環境に慣れるまで、最大10時間の有給休暇の取得が可能です。
パウタニティ休暇を取得するメリット
パウタニティ休暇を取得することで、ペットと飼い主にはどのようなメリットがあるのでしょうか。この章では、ペットが犬の場合を想定し、パウタニティ休暇のメリットや期間を紹介します。
健康を観察できる
子犬や保護犬、大人になってから飼い始めた犬など、犬を家に迎える理由はさまざまです。しかし、理由にかかわらず、犬はこれまで過ごしていた場所から離れ、新しい環境に適応する際にストレスを感じることがあります。その結果、体調を崩すことも少なくありません。
もし体調を崩してしまっても、パウタニティ休暇中であれば早期に異変に気付き、速やかに動物病院で診察を受けられます。
また、保護された背景などにより、しばらく通院が必要な場合もあるでしょう。そのような時でも、パウタニティ休暇があれば時間的な余裕があり、しっかりとケアに専念できます。
精神的なサポートができる
新しい家や家族、家庭のルールなど、犬は初めての環境で慣れなければならないことがたくさんあります。パウタニティ休暇があれば、犬が新しい環境に順応するまでの数日間、精神的なサポートに専念できます。
また、飼い主がそばで環境に慣れるようにサポートすることは、犬との強い信頼関係を築く大きな助けとなります。
簡単なルールを教えられる
パウタニティ休暇中は、犬に覚えてもらいたい基本的なルールを教えることが可能です。名前や食事の時間、トイレの場所や使い方、家の中で立ち入って良い場所などがそれにあたります。
ただし、パウタニティ休暇中はルールやトレーニングに重点を置きすぎず、信頼関係を築くことを優先することが重要だと言われています。
パウタニティ休暇の期間
犬を新たに家族に迎える際は、少なくとも5〜7日ほどの時間を確保できる時期に行うのが理想的だとされています。勤務先にパウタニティ休暇がない場合でも、数日間の休暇を取得したり、在宅勤務を活用することをおすすめします。
パウタニティ休暇を導入している企業
海外には、前述のマース・ペットケア以外にも、パウタニティ休暇を採用している企業があります。ここでは、その一部をご紹介します。
ブリュードッグ
ブリュードッグはイギリスのスコットランドで創業したクラフトビールメーカーです。この会社では、従業員が新しく子犬や保護犬を迎え入れた場合に、1週間のパウタニティ休暇を取得できます。
会社名に「ドッグ」とある通り、ブリュードッグは犬に優しい企業で、経営するバーには多くの飼い主が犬を連れて来店しています。また、ブリュードッグでは職場に愛犬を同伴することも可能です。
mParticle
ニューヨークに拠点を置くソフトウェア会社のmParticleは、保護犬や保護猫を引き取った従業員に、2週間の有給休暇を付与しています。また、同社ではオフィスへの犬連れ出勤も歓迎されています。
Musti Group
Musti Groupはヘルシンキに本社を置き、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーで事業を展開する、北欧最大のペット用品小売り会社です。Musti Groupでは、新しくペットを迎えた従業員に3日間の有給休暇が与えられます。
Musti Groupでは、従業員のほとんどがペットを飼っているため、この制度は非常に好評を得ているそうです。
HCI
インドの大手出版社HCIでは、ペットを飼い始めた従業員に1週間、もしくは5営業日の有給休暇を付与しています。この制度は、おそらくインド初の取り組みだとされています。
CEOのAnanth Padmanabhan氏は、「ペットの子どもは人間の子どもと同じか、それ以上の注意を必要とします。従業員には、家族を持つかどうかを決める際に、休暇の日数を気にしてほしくない」と述べています。
ペット同伴出勤が可能な企業も増加中
AmazonやGoogle、Salesforceなどのアメリカのグローバル企業は、ペット同伴出勤が可能なペットフレンドリー企業として知られています。そして、アメリカではペット同伴出勤ができる企業がさらに増えていると言われています。
この背景には、コロナ禍に起こった空前のペットブームがあるとされています。オフィスが閉鎖され、在宅勤務が広がる中、コロナ禍のアメリカでは約2,300万世帯が新たにペットを飼い始めました(2021年、アメリカ動物虐待防止協会調べ)。
しかし、パンデミックが落ち着き、オフィス勤務が再開されると、自宅にペットを残しておくことに不安を感じる飼い主が増え、ペット同伴出勤を求める声が高まっていきました。こうしたニーズに応え、ペット同伴出勤を許可する企業が増えつつあると言われています。
この取り組みは、ペットへの負担軽減だけでなく、従業員のメンタルヘルスの向上やストレス軽減に貢献しており、職場にリラックスした雰囲気をもたらす効果もあります。
特に、ペットと過ごすことで得られる癒しや、仕事の合間の散歩で運動不足が解消されることは、従業員の生産性向上につながっていると報告されています。また、ペット同伴出勤は、従業員同士のコミュニケーションを促進するきっかけにもなっています。
日本におけるペット関連の福利厚生
日本企業において、パウタニティ休暇はまだ一般的ではありません。しかし、ペット同伴出勤や亡くなった際に取得できるペットの忌引き休暇などを設けている企業も見られます。
ここからは、ユニークなペット関連の福利厚生を実施している企業を2社ご紹介します。
富士通株式会社
富士通は2022年、神奈川県川崎市にあるオフィスの25階に、犬と一緒に勤務できる部屋「Dog Office」を試験的に開設しました。小型犬限定の予約制で、3つの個室と共有のドッグランがあり、ドッグフードやペットシートなどのグッズも用意されている充実ぶりです。
この設置の背景には、コロナ禍でテレワークが増加した影響があります。コロナの収束後、オフィスに出勤する価値を感じてもらうことを目的として導入されました。利用した社員からは好評を得ており、犬の存在が社員間のコミュニケーションを活性化する役割も果たしているようです。
ファーレイ株式会社
東京都中央区にあるIT企業、ファーレイ株式会社では「猫とはたらく」というユニークな社風で知られています。猫を飼っている社員には「猫手当て」が支給され、さらに「猫同伴出勤」が可能です。
ここまで猫を大切にする理由は「猫だすけ」の理念に基づいています。同社は、本当に豊かな社会を築くためには、動植物や自然、環境に対しても真摯に取り組む必要があると考え、まずは恵まれない猫たちを助けることを通じて、本当の意味での裕福な社会を目指しているそうです。
日本では仕事を休みづらい?
WEBメディアのNUNAVI(いぬなび)が実施したアンケートによると、ペット同伴出勤やペット休暇などの制度について、79.8%が「知らない」と回答しています。また、「そのような制度がある会社で働いている(働いていた)」という回答はわずか0.4%にとどまり、これらの制度を導入している企業がいかに少ないかが伺えます。
愛犬のために休みたい人は約8割
同アンケートによると、57.8%の人が「愛犬を理由に仕事や学校を休んだことはない」と答えています。
一方で、愛犬の世話や体調の問題で休まざるを得ない場合、51.8%が「休むと思う」と回答しています。「遅刻や早退をするかもしれない」と回答した人も35.6%おり、合計で87.4%の飼い主が愛犬のために休むなどの対応を考えていることがわかります。
この結果から、日本の企業においても、ペット関連の福利厚生は一定数の従業員のニーズがあると言えるでしょう。
約8割が休みづらいと感じている
もし愛犬のために休まなければならない場合、どのように休暇を申請するのでしょうか。最も多かった回答は「言いにくいからウソをつく」45.8%でした。
次に多かったのは、「言いにくいが本当のことを言う」という回答で、33.2%を占めています。これらを合わせると、約8割の人が愛犬を理由とした休暇は取りにくいと感じていることがわかります。
その理由としては、ペットを飼っていない人からの理解が得られにくいことや、子供や家族を理由にした休暇は認められるが、ペットの場合は難しいと感じる点が挙げられます。
まとめ
パウタニティ休暇は、新しくペットを迎え入れた時に取得できる休暇で、環境が変わったばかりのペットをさまざまな面でサポートできるメリットがあります。海外では、この休暇が徐々に取り入れられつつあり、ペット同伴の出勤を許可する企業も増加傾向にあります。
一方で、日本企業ではペットに関する福利厚生がまだ少なく、ペットのための休暇取得をためらう人も多いことがわかりました。「ペットは家族」という考え方が徐々に広まっているものの、社会全体での共通認識にはまだ時間がかかるかもしれません。