猫免疫不全ウイルス感染症は、室外にいる猫が多い日本において感染率が非常に高く、大きな問題となっている感染症の一つです。
本記事では、猫免疫不全ウイルスに感染するとどうなるのか、そしてなぜ大問題として取り上げられているかを詳しく解説していきます。猫を飼っている方、飼おうとしている方はぜひ最後まで読んでください。
この記事の目次
猫免疫不全ウイルス感染症って何?
猫免疫不全ウイルス感染症は、レトロウイルス科レンチウイルス属の猫免疫不全ウイルス(FIV)による感染症で、これによって引き起こされる猫後天性免疫不全症候群は「猫エイズ」と呼ばれています。
感染力が強いこと、治療法が確立されていないこと、そして種々の腫瘍(特にリンパ腫)の発生に関与することから、猫の老後の生活の質に大きな影響を与えます。
また、FIVは分子生物学的な病原性がヒト免疫不全ウイルス(HIV)に類似することから、HIV感染症の動物モデルとしても注目されています。
猫免疫不全ウイルス感染症の症状
猫免疫不全ウイルス感染症の病態は、症状に基づいて5つの病期に分類されています。
①急性期
発熱、リンパ節腫大、白血球減少、貧血、下痢などの症状が見られますが、猫免疫不全ウイルス感染症に特異な症状は現れません。この期間は感染後、約数週間から4カ月程度持続します。
②無症候性キャリアー期
「無症候」の名の通り、症状が現れることはありません。この時期は猫の個体によって、あるいはウイルスの病原性の強さによっても異なりますが、数カ月から数年継続するとされています。
③持続性全身性リンパ節症期
全身性のリンパ節腫大以外の症状はなく、臨床的に明確ではない時期です。この時期は2カ月から4カ月、あるいはそれ未満と言われています。
④エイズ関連症候群期
口内炎、歯肉炎、消化器症状、呼吸器症状、皮膚病変など、免疫異常に伴う症状が現れます。特に、口内炎や歯肉炎を訴える頻度が高いように思われます。
⑤エイズ期
免疫不全による症状が進行する時期です。エイズ関連症候群期の症状が重篤化するとともに、種々の感染症(日和見感染)、貧血、腫瘍(特にリンパ腫)、神経症状、重度の痩せ、衰弱が見られます。エイズ関連症候群期からエイズ期までは1年以内に移行し、余命は数カ月という報告もあります。
猫免疫不全ウイルスの感染経路
ウイルスは唾液中に存在するため、主な感染経路はケンカなどによる咬傷です。そのため、屋外生活をする雄猫に多発することが報告されています。
母猫からの垂直感染はないので、FIVキャリアーの猫との接触がなければ感染のリスクは少ないです。
猫免疫不全ウイルス感染症の予防
確実な治療法がない以上、FIVに対する予防は大きな意味を持ちます。どのようにすれば予防できるのか、確認しておきましょう。
ワクチン接種
現在、国内においてもFIVに対するワクチンが販売されています。
しかし残念ながら、ワクチン接種によって感染が100%予防できるかは疑問です。事前に獣医師と話し合い、必要性を確認してから、ワクチン接種を受けるか判断しましょう。
また、感染後のワクチン接種は無意味であるため、FIV感染の有無を検査してから、ワクチンを接種してください。
他の猫との接触を避ける
咬傷による感染が主である以上、他の猫との接触が最大の感染リスクです。
完全室内飼いにして外には出さないことや、病歴不明の猫と一緒にしないことが大切です。また、多頭飼育で感染した猫がいる場合は、必ず他の猫から隔離しましょう。
猫免疫不全ウイルス感染症の診断
他の猫にFIVを感染させないためにも、早めに診断をすることが非常に重要です。
簡易キットによる診断
FIV構成蛋白に対する抗体を検出する簡易キットを用いれば、少量の採血で検査が可能です。ただしこのキットは感染約4~6週間後から感染を確認できるもので、それより前では陰性と判定されてしまうため、注意が必要です。
血液検査
特異な所見はありませんが、感染末期には赤血球や白血球の減少、高γグロブリン血症が認められます。
敗血症などのリスク判定のためにも、定期的な白血球数の推移を観察します。
猫免疫不全ウイルス感染症の治療
ウイルスに対する直接的な治療法はなく、対症療法や細菌による二次感染の防止に留まります。
ステロイド
口内炎や歯肉炎に対して、炎症の軽減を目的に使用しますが、この口内炎や歯肉炎は治りにくい性質であることが多く、症状の改善が見られない場合があります。その際にはヨード剤の塗布などによって、少しでも口の中の痛みが取れるように処置を行います。
抗菌薬
感染末期には、上部気道炎、膿胸、腸炎などが起こり、細菌や真菌感染の予防のためにさまざまな抗菌薬を用います。
しかし、これら感染症もまた治りにくい性質であることが多く、耐性菌の出現も頻繁に起こることから、抗菌薬は薬剤感受性試験によって慎重に選択します。
輸血
エイズ関連症候群期には、軽度から中程度の貧血が見られる場合があり、貧血が進行した時には輸血を検討します。また、血小板の減少に対して輸血を行います。
まとめ
猫免疫不全ウイルス感染症は猫同士の接触によって容易に感染し、末期には感染した猫のQOLを著しく低下させる病気です。猫自身はもちろん、家族にとっても獣医師にとっても、一つの命がなすすべなく弱っていくのを見るのは非常に苦しいものです。
一度、愛猫の生活環境についてよく考え、それでもどうしても外に出すときには、ワクチン接種を受けさせてあげましょう。