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コラム

保護犬の預かりボランティアの役割とは?〜ボランティア経験から学んだこと〜

もう都内ではほぼ見かけなくなった野良犬。しかし、地方では野山で生活をしている野犬がまだまだいます。今回は、そんな野犬たちが産んだ、ある1頭の子犬の一時預かりボランティアをさせてもらった体験談をお届けします。

野犬の子はどのような状態なのか、一時預かりボランティアはどのような役割を担っているのかをご紹介します。生まれて初めて人間と接することになった犬への注意点もお伝えしていますので、初めて犬を飼う方にもお役に立てる内容になっていると思います。

地方の保健所に収容された野犬の子犬


基本的に野犬の子は、産まれてから人間と接触をせずに生きて来た子達がほとんどです。私が出会った子犬たちは、生後6週ぐらいでした。普通なら、まだ母犬や兄弟と一緒に過ごしている時期です。しかし、ある日突然、初めて出会った人間であろう保健所の職員さんに捕まえられ、母犬から離され、保健所に収容されて数日を過ごすことになったのです。

都会で生活していると、野良犬は見かけることが少なくなりました。しかし、こういった野犬たちは、まだ日本にも数多く存在しているというのが実情です。そして、その多くは保健所に収容され、最悪のケースでは、殺処分されることになります。

私が預りボランティアをした野犬の子は、ある保護団体が保健所から引き出したことで、殺処分を免れることができました。当然、人間との信頼関係は全く無く、人間は恐怖の対象でしかありません。兄妹と思われる数頭と一緒に保護されましたが、恐怖で体が硬直し、用意した餌を食べることすらできない子もいました。そんな子犬達のうちの一匹、真っ白なメスの子を我が家で預かることになりました。

初めて人間と一緒に生活する子犬に分かってもらいたかったこと


我が家に来た子犬は、何が起こっているのか分からず、少し困惑しているようでした。しかし、とても疲れていたのでしょう。初めて来た日の夜は、用意してあったゲージの1番奥で寝ていました。

こういった子が里親さんのところで幸せに暮らすためには、まず人間との信頼関係を築くことが必要です。里親さんのところでも同じ様子では、里親さんも不安になってしまいますし、この子自身にも多大なストレスがかかってしまうからです。

そのため、なるべく安心して過ごせるよう、静かに寝かせてあげました。そして、起きたらごはんをあげて、優しく声をかけるようにしました。決して、こちらから無理やり何かをさせることはしません。

すると、2日目には、子犬自らゲージを出て来て、リビングを歩き回って探検し始めました。そんな時、私は極力動かないように、できるだけ静かにして、「すぐそばにはいるけど、君の邪魔をしたり、何か怖いことはしないよ」と伝わるよう努めます。まずは、人間が「怖い存在ではない」ということを分かってもらいたかったのです。

人間は怖くないと思ってもらうために


この子はいずれ、飼い主となる里親さんの家で暮らすことになるので、その時までに「人間と暮らすって良いものだな」と思ってもらうことが、預かりボランティアをしている私の最大のミッションです。少しでも早く、人間への恐怖心をなくし、楽しく人間と過ごせるように、一日一日を大切に過ごす必要があります。

ごはんをあげる時も、お皿からではなく、なるべく手からあげるようにします。しつけ等でも同様ですが、食事の効果は非常に大きいです。いつの間にか「この人はごはんをくれる人だ」というイメージがついて、尻尾も上がり、とてもうれしそうに食べてくれるようになりました。

そして、数日がたち、私に対する恐怖心が取れてくると、すっかり甘えん坊の赤ちゃんワンコになりました(笑)私のそばで無防備に、おなか丸出しの姿で寝てくれた時は「ここは安心できる場所だと思ってくれたんだな」と本当にうれしくなります。

いずれ出会う里親さんのために


私との信頼関係が築けたらそこで終わり、ではありません。私にしか懐かない犬になってしまってはダメなのです。いずれ里親さんとなる方とスムーズに暮らせるようにするために、どんな人とも仲良くなれるようになってもらいたいのです。

そこで、ちょうど親戚が集まった私の実家に連れて行きました。初めての家、初めて会う人間たちに最初は固まっていました。子犬そっちのけでお酒が入って盛り上がっている人たちを興味津々で眺めていたのが印象的です。その日はそこまででしたが、2回目の訪問では、私の兄たちとオモチャで遊べるようになりました。そして、3回目の訪問では、兄にじゃれついて、とても楽しそうに過ごすまでに成長することができました。

実家訪問ではとても良い成長がみられたので、その後も友人宅に連れて行ったり、自宅に知人を招いたりして、さまざまな人と会う経験を重ねて、多くの経験をさせます。しかし、この時も「初めて会う人間でも怖くない」と思ってもらえるように、できるだけ怖がらせないように、嫌な思いをさせないように注意をしています。

いずれ経験するであろうことの予行練習


最後は、これから人間と暮らす生活の中で経験するであろう物事に慣れておいてもらうための予行練習をしていきます。首輪、ハーネス、電車や車などの騒音への適応。経験させたいことは山ほどあります。

最初は、首輪にも違和感があったようで、頻繁に首元をかいていました。首輪に慣れたら、次はハーネスにも慣れるように家の中で着けて、そのまま歩き回る練習を何度もしていきます。そして、抱っこして外に行って、車の音や電車の音など人間社会の見学をして外の雰囲気にも慣れる練習もします。

その他に、シャンプーの練習として、お風呂場で体を少しだけぬらしながらオヤツを食べたりもします。この段階を楽しく過ごせるようになってから、初めてのシャンプーも経験させました。無事に、オヤツを食べながら、特に嫌がることもなくシャンプーすることができました。

運命の里親さんとの出会い


こうして、我が家に来てから一カ月がたった頃、運命の里親さんと譲渡会にて出会うことができました。そのご家族に初めて抱っこされた時、ちょっと緊張気味ではありましたが、すんなりと抱かれていたのが印象的でした。この瞬間は、ここまで多くの人に会わせ、人間に慣らしていったことの成果が現れた時でもあります。

里親さんご家族も子犬を迎え、本当にうれしそうで幸せそうでした。ちょっと寂しくも感じることもありましたが、預かりボランティアとしての役割を果たせた安堵とうれしさの方をより強く感じました。

預かりボランティアで学んだこと


預かりボランティアをしてみて、里親さんとの橋渡しをする責任の重さを実感しました。特に、野犬の子に関しては、預かり中にどこまで人間社会に慣れさせることができるかが、その後の里親さんとの生活に大きく影響します。そのため、私たち預りボランティアの責任は重大です。

しかし、生後3カ月ごろまでと言われる社会化期の子犬は、好奇心を持ってどんどん新しい環境を受け入れていきます。実際に、野犬の子が家庭犬へとどんどん成長していく姿は感動的でしたし、この仕事に非常にやりがいを感じました。幸せな犬と人が増えていくことを願い、小さな命を大切にし、今後も少しずつでもボランティア活動を続けていきたいと思います。

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