ペット共生型福祉施設「わおん」は、障がい者と保護犬が共に暮らせる障がい者グループホームです。犬が人間に与える癒し効果は科学的にも証明されており、精神障がいの症状改善にも期待が高まっています。さらに、「わおん」で保護犬を受け入れることで犬を殺処分から救うこともできます。
「わおん」はまさに、人間の福祉と犬の福祉の両方を追求したグループホームなのです。
この度シェリー編集部では、「わおん」を運営する(株)アニスピホールディングスの藤田英明社長にお話を伺ってまいりました。
この記事の目次
ペット共生型福祉グループホーム「わおん」
「わおん」に入れるのはどんな人ですか?
「わおん」は基本的に、障がい者認定を受けている人なら誰でも入ることができます。入居できるのは64歳までですが、入居後は何歳まででもグループホームで暮らせます。
グループホームとはどのような形ですか?
グループホームと一口に言っても、「わおん」のグループホームは4-5人で暮らす一戸建てタイプからアパートで共同生活を送るタイプまでさまざまです。
プライバシーをしっかり確保したい人はアパートタイプ、他の入居者さんとより近い距離でわいわい暮らしたい人は一戸建てタイプというように、入居者さんの障がいの種類や好みに合わせて選んでいただけます。身体障がいを抱えている入居者さん向けに、バリアフリーのグループホームもご用意しています。
グループホームの形をとることのメリットを教えてください。
大型の障がい者施設と比べてグループホームは規模が小さいので、他の入居者さんとのコミュニケーションが生まれやすくなります。
コミュニケーションをとるのが苦手な障がい者は多く、人が大勢いると部屋に閉じこもってしまう傾向にあります。グループホームの形を取ることで人間関係が築きやすくなり、お互いが家族のように親密な関係に発展していけます。
また、病院で暮らしているとなかなか自分で生活を選ぶことが難しいですが、グループホームなら自分で生き方を決めやすいのも重要なポイントです。犬と散歩に行ってみたり、少しずつ仕事をしてみたり。「わおん」は、障がい者が自立に向けて第一歩踏み出す後押しをする役割を担っています。」
障がい者と犬が一緒に暮らすということ
障がい者グループホームに犬を受け入れようと思ったのはなぜですか?
まず、障がい者で動物が好きという人の割合が、障がい者でない人の動物好きの割合より多いと言われています。それほど、障がい者には動物好きの人が多いです。それにもかかわらず、ペットと暮らせる物件は家賃が高い、障がい者施設が動物を受け入れていないなどの理由で、動物と一緒に暮らせない方が多くいます。
障がい者だからといって犬と暮らすことを諦めざるを得ない状況をなんとか変えたい。また、飼い主が見つからずに殺処分されてしまう動物の命をできるだけ救いたい。そんな思いからこのグループホームは生まれました。
障がい者が犬と過ごすとどんな効果がありますか?
他の人とのコミュニケーションが苦手な人でも犬となら信頼関係を築くことができたり、ストレスを軽減できたりと、障がい者が犬と暮らすメリットがたくさんあります。
さらに、犬がいると入居者さんたちは自然と散歩に行くのが日課になります。そうすると次第に、地域の人との交流が生まれます。犬の散歩を通した地域の人との交流は入居者さんの社会化にも繋がりますし、今まで障がい者に馴染みのなかった地域の人たちに、障がい者のことをよく知ってもらうきっかけにもなる。犬の散歩で仲良くなった地域の人が、「わおん」に遊びに来てくれることもあるんですよ。
保護犬にとっての「わおん」とは
「わおん」にいる犬は保護団体から受け入れていると聞きましたが、どのように受け入れているのですか?
僕は昔、動物愛護団体の活動をしていました。最初はその繋がりで犬を引き取っていました。ありがたいことに僕のビジョンに賛同してくれる保護団体の人がたくさんいて、こちらから聞かないでも引き取りの依頼を受けることがほとんどです。「わおん」のLINE@には、保護犬の写真や性格の情報がよく送られて来ます。
保護犬にとって「わおん」はどんな役割を果たしていると思いますか?
僕は、保護犬は”救ってなんぼ“だと思っています。動物愛護センターで保護された犬は、飼い主や譲渡先が見つからなければ殺処分されてしまいます。動物保護団体で保護された犬は一時的に保護されていますが、施設によっていつまで面倒を見てもらえるかわかりません。「わおん」で暮らすのが犬にとって最高の人生かどうかは不明ですが、僕は目の前の救える命は確実に救いたい。
それに、「わおん」で暮らす人はみんな犬好きの人たちだし、入居者さんや世話人に囲まれながらのほほんと暮らせて、それなりに良い住環境なんじゃないかと思います。
トラブルや人手不足を防ぐ!「わおん」の工夫
入居者同士で相性が悪かったり、犬との相性が悪かったりすることはありませんか?
「わおん」では、最大50日の体験入居期間を設けています。体験してみて自分に合わないと思えば他のグループホームを探すこともできますし、施設側も入居を断ることもできます。体験期間を設けることで、お互いに相性が良いと感じて初めて入居が決まるので、トラブルを少なくできます。また、施設に受け入れている犬は穏やかな犬が多く、入居者も動物好きの方が集まっています。
福祉業界は人手不足が深刻化していますが、「わおん」では何か対策や工夫をしていますか?
工夫といいますか、「わおん」では犬と一緒に働けるので、そのおかげで自然と人が集まりやすくなっています。働く人が自分の犬を連れて来ることもできますし、そうでなくとも受け入れた保護犬と働くことができます。福祉系の仕事をしていると、精神的にきついと感じることもあると思います。そんな時、いつでも癒してくれる犬の存在はとても大きい。そんな犬パワーのおかげで、Facebookの求人広告にもたくさんの反応やコメントをいただいています。まさに犬様様ですね(笑)
藤田社長が思い描く未来
藤田社長が目指す「わおん」の未来は?
これから、AI技術などが発展していくとますますリストラが増え、精神を病んでしまう人も増えるかもしれません。
実際、リーマンショックの後にはうつ病患者が急増しましたよね。そういう人たちが社会からドロップアウトしないように、もししてしまっても社会復帰できるように、心地いい居場所を提供し、それぞれの状況に合わせたサポートをおこない、最終的には自立できるようにしてあげることです。
「わおん」以外にこれからやってみたいことはありますか?
障がいのある子供や虐待を受けている子供のための養護施設を手がけてみたいと思ってます。それも単なる養護施設じゃなく、プログラマーになるための教育などを提供する施設を作りたいです。
現在、発達障がいを持つ子供の数は増えています。子供に障がい者向けの特別授業を受けさせる親も多いけど、そうすると、大人になってから社会の中で働くのが難しくなってしまう。自分で働けなければ、国に頼ったり、親に頼ったりして生活するしかないし、引きこもってしまう人も少なくない。
だから、大人になって自分で働いて、自立した生活を送れるように、プログラミングなどの技術を教えながら将来の生活を支えてあげたいんです。
最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします!
現在、日本で障がい者認定されている人は約1,000万人います。これからは、ますます障がい者が社会に出てくる時代です。問題意識を持たずにいると、”気づいたら”理解のないまま周りに障がい者がたくさんいる状況になってしまいます。障がい者が社会にインクルードされていく中で、それぞれが問題意識をもったり、障がい者のことをよく知ることはますます重要になると思います。
人間の福祉、犬の福祉
今回は、障がい者と犬が一緒に暮らせるグループホーム「わおん」について、(株)アニスピホールディングスの藤田社長にお話を伺いました。
「わおん」は、保護犬の命を救う場所として、そして障がい者が大好きな犬と生活し、自立に向けて一歩踏み出せる場所として、犬と障がい者双方の福祉に寄与していることがわかりました。人間と動物の幸せのためにできることを先まで見据えて考えておられる姿に、正直感銘を受けました。
シェリー編集部は今回の取材を通し、単に人が生きられる環境を提供するのではなく、人が自分の意思で、生きる意味を持って過ごせる環境を提供するのが福祉サービスにおいて最も重要なことであると感じました。
これは犬にも同じことが言えます。単に生かされれば良いのではなく、犬好きの人たちに迎えられ、のんびり安心して生きられるのが犬にとって幸せなことなのかもしれません。
福祉という言葉には主に、「公的扶助やサービスによる生活の安定」と、「幸福」の2つの意味があります。「生活の安定」は生活に必要なお金があれば満たされますが、「幸福」はそうはいきません。「幸福」を満たすには、どんなサービスが必要なのか?「わおん」の福祉サービスの形をふまえて、今後の人間の福祉サービス、動物の福祉サービスのあるべき姿をみなさんもぜひ考えてみてください。
わおん公式サイト:https://waonpet.com
(株)アニスピホールディングス公式サイト:https://anispi.co.jp/