飼い犬が悪いことをしたとき、あなたはどうしますか?
「ダメ」と言って叱るでしょうか。頭を叩くでしょうか。あるいは、ごはんを一食抜くでしょうか。
近年、親による子供のしつけと虐待のボーダーラインをめぐる議論が活発化していますが、ペットも同様です。自分ではしつけのつもりでも、他人から見ると虐待になっている可能性もあり、しつけと虐待のボーダーラインについて、いま一度、考える必要があります。
今回は、犬のしつけが「虐待」になりうる可能性を一緒に考えていきましょう。
この記事の目次
何が「虐待」になるのか
正しいしつけをせず、「虐待」を繰り返すと、犬などのペットと飼い主との信頼関係が悪くなり、さらにしつけが難しくなります。また、虐待による慢性的なストレスで、病気にかかりやすくなってしまいます。
では、具体的にどのような行為が「虐待」にあたるのでしょうか。
1. 痛みを伴う体罰
まず、犬が痛いと感じる体罰は全て虐待と言ってよいでしょう。
具体的には、叩いたり蹴ったり、マズル(口まわりから鼻先部分)を強く掴んだりする行為です。少し前までは、それが一般的な方法と考えられていた時代もあります。
しかし、日頃からそのような行為を繰り返していると、犬は次第に攻撃的になるか、常に怯えた状態になってしまいます。
2. 大声をあげて怒鳴る
大声をあげて怒鳴ることは、近年人間の世界でも、「虐待」「体罰」「パワハラ」として認識されるようになりました。
大声で怒鳴られることはそれほど精神的に負荷の大きいことなのです。
痛みを伴う体罰同様、飼い主に怒鳴り続けられた犬は、攻撃的になったり、怖がりになったりします。
3. 「ネグレクト」にあたる行為
犬への虐待は大きく、「体罰」と「ネグレクト」に分けられます。ネグレクトとは、十分な食事を与えない、病気を放置する、衛生的な飼育環境を保たないなど、犬の健康を害する行為のことをいいます。
「しつけ」と言って食事を与えないなどは、この「ネグレクト」にあたります。「一食くらい大丈夫だ」と思うかもしれませんが、犬にはなぜごはんをもらえないのか理解ができないので全く意味がありません。単にお腹を空かせて、健康に悪影響を及ぼすだけです。
正しいしつけの仕方は?
犬は学習能力がとても高い動物です。「こうでもしないとわからないんだ」というのは、飼い主の身勝手であり、怠慢です。正しいしつけ方法をとり、根気強く犬に教えてあげることで、犬はちゃんと学習できるのです。
正しいしつけのポイントは主に、次の3つです。
- 「褒める」「叱る」のメリハリをつける
- 「なぜ叱られたか」を犬が理解できるようにする
- ひとりで抱え込まず、トレーナーに相談してみる
これらのポイントについて、詳しくみていきましょう。
しつけのポイント1. 「褒める」と「叱る」のメリハリをつけて
「褒める」と「叱る」をうまく使い分けるのが、上手なしつけのコツです。
たとえば、犬におしっこをする場所を教えるときを例に考えてみましょう。
毛布の上でおしっこをしてしまいました。そこで叱った場合、叱られた犬はおしっこをしたこと自体を叱られたのだと思ってしまうかもしれません。
しかし、トイレでおしっこをしたときに褒められれば、「トイレでおしっこをしたら褒められた」「毛布でしたら怒られた」という経験から、「トイレでおしっこをすればいいんだ」と理解するようになります。
声のトーンを使い分けて、大げさに
褒めるときは高い声、叱るときは低い声を使いましょう。犬は、雰囲気を察せる動物です。決して大きな声を出さなくても、声のトーンを変えるだけで自分が褒められているのか叱られているのか、察することができます。
さらに、褒めるときは大げさに褒め、撫でてあげるとよりわかりやすいでしょう。恥じらいを捨て、ムツゴロウさんが動物に接するときのように、大げさに振る舞ってみましょう。逆に、いけない事をした場合は、長々と叱るのではなく、低い声で一度だけにしましょう。
注意
なかには、人間に触られたり、撫でられる事を嫌と感じる犬もいます。飼い主との信頼関係が出来てくると、ほとんどが撫でられることを喜ぶようになりますが、そうではないケースもあるため、日頃から愛犬を観察し、何が好きで何が嫌なのかは把握しておく必要があります。飼い主は褒めているつもりでも、それが愛犬にとって嫌なことであれば、褒めていることにはならないためです。
このように、「褒める」と「叱る」のメリハリをつけて犬にわかりやすくすることで、叱るときに体罰に間違われるような行為を行わずとも、犬に伝わるようになります。
しつけのポイント2. 「なぜ叱られたか」を犬がわかっていることが大事
「これをしたらダメって前にも言ったでしょ?どうしてわからないの?」と言っても、「なにがダメなのか」「なぜ怒られたのか」を犬が理解できないと、しつけは全く意味がなくなってしまいます。
これではいつまでたっても犬が変わらず、飼い主さんにとっても、犬にとってもストレスになってしまうでしょう。
犬には人間の言葉がわからない
まず、犬は人間の言葉を知りません。もちろん、「おすわり」「まて」など、簡単な単語を繰り返して教えることで覚えられることはありますが、その意味を理解して「おすわり」しているわけではなく、その音に反応していると言われています。単に、それを何度も繰り返すことでその行動が定着していっただけなのです。
たとえば、あなたが全く知らない国の言葉で何か命令をされても、言われた通りに動くことはできないでしょう。それなのに怒って叩かれたら、あまりに理不尽だと感じるのではないでしょうか。犬も同じです。多くの場合、犬が言われたことを「できない」のは、「わからない」からなのです。そのことをよく理解して、犬の気持ちになって犬と接しましょう。
ポイントは、行為から1.3秒以内に叱ること
犬が短期記憶できる時間は、わずか1.3秒と言われています。つまり、それ以上経ってから叱られても、どうして叱られたのか犬は理解できないため、全く伝わりません。場合によっては、1.3秒以内にとった別の行動を叱られていると勘違いしてしまうこともあります。
たとえば、飼い主が留守中に犬が粗相をしてしまったとしましょう。帰宅した飼い主が粗相を発見し、それから犬に怒ったとしても、犬には伝わらないのです。犬のしつけはタイミングが大事です。例え10秒〜20秒であっても、その瞬間から時間が経過してしまったら、次のタイミングが来るまで叱るのはやめておきましょう。
しつけのポイント3. ひとりで抱え込まず、ドッグトレーナーに相談してみる
これまで間違ったしつけをしてしまっていた場合や、犬の性格によっては、正しいしつけを実行しようと思っても簡単にできないことがあります。そんな時は、ひとりで抱え込まず、犬の専門家であるドッグトレーナーに相談してみましょう。
特に、犬の本能から生じているような行動をやめさせようとするのは一般の飼い主の方には非常に難しい問題です。例えば、以下の行動が当てはまりますが、これらでお困りの場合は、ドッグトレーナーに相談するのが良いでしょう。
吠える
犬はもともと、吠えて相手の居場所や状況を飼い主に知らせるよう訓練されてきた生き物です。成犬になっても吠える犬に、いきなり吠えるなというのは、大人の人間に今後は話をしてはいけないと言っているようなもので、非常に難しい問題です。
咬む
臆病な犬に多く、自分の身を守るためだったり、自分の物を守るためにこの行動を取ることが多いです。稀に病気の場合もあります。咬まれると大抵の飼い主は直前の行動をやめるため、犬は咬めば止めてもらえる、咬めば自分の身を守れると覚えてしまい、どんどん矯正が難しくなっていきます。
中には、「お金がもったいない…」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、うまくしつけができなければ犬も飼い主も互いにストレスがたまってしまいます。場合によってはご近所トラブルに発展し、人間まで住みづらくなることもあります。
また、飼い主がイライラして犬を虐待してしまう可能性もあります。そのようなことになる前に、プロに頼るのもひとつの手段として考えてみてください。自分にできることとできないことの見極めをすることも大事なしつけのポイントです。
ドッグトレーナーにもさまざまなタイプの方がいます。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
まとめ
今回は、犬の「しつけ」と「虐待」のボーダーラインはどこにあるのか、そして、正しいしつけのポイントをご紹介しました。
近年では、アニマルウェルフェアの観点からも、叱ることなく、褒めてしつけることが求められるようになりました。褒めてもしつけられるということは、科学的にも立証されており、これにはオペラント条件づけという行動心理学の基本理論が用いられています。
「叩かないとわからない」「怒鳴らないとわからない」という犬はいません。犬のしつけ方を正しく理解することで、飼い主と犬の信頼関係が深まり、さらにいろいろなことにチャレンジできるようにもなります。
ぜひ、しつけと称した虐待まがいの行為にはサヨナラして、犬にとってもストレスのない正しいしつけ方で、犬との信頼関係を構築していきましょう。