皆さんの中には犬が言うことをきかない時、カッとなって叩いてしまいそうになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
かつての犬のしつけ方法では、犬が痛い思いをすることで飼い主の言うことをきくようになると考えられていたため、体罰が多く使われていました。しかし、動物愛護の観点はもちろんですが、体罰にはデメリットも多く、現代では犬に対する体罰は否定的な意見が多数を占めています。
そこで今回は、犬への体罰の弊害について解説していきます。
この記事の目次
なぜ体罰は良くないのか
犬や猫を中心とした伴侶動物(ペット)の行動診療に関心の高い獣医師を中心に発足した「日本獣医動物行動研究会」は、2018年に家庭動物のしつけや行動修正のために体罰を用いることや、獣医師、トレーナーなどが体罰を推奨する行為に反対する声明を出しています。
体罰によるデメリット
「日本獣医動物行動研究会」の声明を元に、犬に対する体罰のデメリットを8つ挙げていきます。いかに体罰が犬にとっても飼い主にとっても良くないことか、ご理解いただけると思います。
1. 体罰はエスカレートする
体罰を続けていくと犬が苦痛の強さに慣れてしまい、より強い苦痛を与えないと言うことをきかなくなる可能性があり、最終的には命を奪ってしまう可能性があります。
2. いろいろなものに対して恐怖心を抱くようになる
体罰を与える人はもちろんのこと、直接体罰とは関係のない「近くにいる他の人」、「動物」、「物」などに対しても強い恐怖心を抱くようになることがあります。
3. 攻撃的になる
体罰を回避したいがために、攻撃行動(先制攻撃)をすることがあります。
4. 問題行動が悪化する
恐怖や不安などが原因である問題行動の場合に体罰を用いると、恐怖や不安が増し、問題行動がさらに悪化することがあります。
5. 突然の攻撃行動を取るようになる
一般的には逃げる、唸る、吠えるなどの「警戒行動」をとり、それでも嫌なことが解消されない場合に咬むという「攻撃行動」に移ります。
しかし、体罰を受けた犬は「警戒行動」を取らず、突然飛びついて激しく咬みつくなどといった、避けるのが難しい深刻な「攻撃行動」をするようになる可能性があります。
6. 問題行動が再発する可能性が高い
体罰の効果は一時的なため、効果が継続する可能性は低く、問題行動がのちに再発する可能性があります。
7. 体罰をしない人の言うことはきかなくなる
体罰の効果は体罰を与えた人に限定されがちで、体罰をする人がいない状況になると言うことをきかなくなる場合があります。
8. 他の問題行動を引き起こしやすくなる
体罰は犬に何を行えば良いかという学習をさせることはできず、犬が混乱し、他の問題行動を引き起こしてしまう原因となることがあります。
犬の気質によっては、自ら行動をすることをやめてしまう「学習性無力」の状態を引き起こす原因となることもあります。
体罰を受けた犬に多いハンドシャイ
ハンドシャイとは犬が人の「手」に対して恐怖を感じてしまう現象です。原因として「手で叩かれて叱られていた」、「叱る時に床や壁などを手で叩いて大きな音を出した」などが挙げられます。
ハンドシャイの症状としては
- 触ろうとすると唸る・咬む
- 触ろうとすると避ける
- 撫でている時に震える・固まってしまう
といった行動が見られます。この行動は、人に対する不信感や恐怖心が背景にあります。
本来、犬にとっての飼い主の手は、おやつをもらったり、撫でてもらったりする優しい存在です。それにもかかわらず、犬をしつけようとして手で叩く体罰を使ったせいで、「咬む犬に育ててしまう」という最悪の結果になってしまいます。
かつて推奨されていた犬の叱り方
体罰とは言い切れないかもしれませんが、母犬が子犬を叱る時に行う方法だとして、かつては次のような叱り方が推奨されていましたが、現代では否定的な意見が主流となっています。
なお、英語で名称がついていることからもわかる通り、日本だけでなく世界中でこの叱り方が流行していましたが、ドッグトレーナーの中には「犬に本気で咬まれるようになった飼い主の多くが、この叱り方をしていた」と語る人もいるほど、現在では良くない?り方とされています。
否定的な意見が多い叱り方①アルファロールオーバー(アルファオーバー)
犬を仰向けにさせ、抵抗しなくなるまで押さえつける叱り方。
飼い主の方が犬よりも上位だと示す方法とされていましたが、犬にとっては無理やり力ずくで押さえつけられることによって、飼い主に対して恐怖や不信を感じるとされ、信頼関係を失い、恐怖からくる攻撃行動に繋がりやすくなるとされています。
否定的な意見が多い叱り方②マズルコントロール
犬の鼻先から目の下のあたりまでの口全体(マズル)を、強くわし掴みにする叱り方。
マズルは犬にとってあまり触られたくない敏感な部分のため、叱る度に強く掴まれていると、マズルに触られることに嫌悪感を抱き、触られるのを嫌がり、最悪の場合は咬むようになってしまうこともあります。
その結果、口や鼻の治療や歯磨きが出来なくなったり、飼い主の手に対して嫌な印象をつけてしまうため、先程述べた「ハンドシャイ」になってしまったりする可能性もあります。
まとめ
体罰によって犬をしつけることで、犬にも飼い主にも良くない影響が出てしまうことをご理解いただけたでしょうか。また、体罰を使うくらい犬のしつけを真面目にやってしまう方は、一人で頑張りすぎないことも重要です。
小さなイタズラの場合は、イタズラが出来ないように環境を工夫したり、言葉で叱ったりすることで行動を修正しましょう。問題行動が深刻で、自身や他人に危害が及ぶようであれば、ドッグトレーナーや、かかりつけの獣医師に相談してみて下さい。
犬も人間も共に幸せに暮らすことが、一番大切なのではないでしょうか。