みなさんは、犬ジステンパーという病気を聞いたことがありますか?
犬ジステンパーは、感染力・致死率がともに高い感染症です。ワクチンの開発によって発生は減少しましたが、かつては日本でも猛威を奮いました。
しかし、いまだに犬パルボウイルス感染症とともに、子犬に感染すると怖い感染症でもあります。
本記事では、あまり聞いたことがない犬ジステンパーについて解説していきます。
この記事の目次
犬ジステンパーって何?
犬ジステンパーは、人の麻疹に似た、犬ジステンパーウイルスによる感染症です。
犬のウイルス病としては最も多く、発病率は25〜75%、致死率も50〜90%と高いことが特徴です。
免疫応答が十分であれば無症状か軽症で済み、ウイルスは14日目までに消失します。
犬ジステンパーの感染経路
犬ジステンパーウイルスは鼻水、目ヤニ、唾液、尿、便などあらゆる分泌物中に含まれます。これら分泌物との直接接触あるいは飛沫、チリやホコリを吸引することで感染します。
感染した犬ジステンパーウイルスは扁桃や気管支リンパ節で増殖し、全身のリンパ組織に蔓延します。
これによって液性免疫が抑制され、リンパ球が枯渇することで免疫不全状態になります。
免疫不全状態になったところに、二次性の細菌感染によって、膿性分泌物などの症状があらわれます。
犬ジステンパーの症状
犬ジステンパーの急性症は感染後約14〜18日後に見られます。
症状は時間とともに呼吸器、消化器、中枢神経症状へと広がっていきます。
神経症状のイメージがあるかもしれませんが、全身のあらゆるところで症状を示します。
全身症状
犬ジステンパーでは、まずは二度の発熱が見られます。
最初の発熱は一過性で、気付かれないことも多くあります。
二度目の発熱は39〜41℃と高熱で、鼻炎による粘液膿性鼻汁や結膜炎に伴う膿性目ヤニ、活力の消失、食欲不振が見られます。
呼吸器症状と消化器症状
発熱に次いで、発咳や呼吸困難などの呼吸器症状、嘔吐や下痢といった消化器症状を示します。
中枢神経症状
呼吸器症状と消化器症状に次いで、あるいは同時に神経症状が現れます。
神経症状は沈うつ、知覚過敏、歩行異常、異常行動、てんかん発作、斜頸、眼振、閉口障害などと多岐にわたります。
これは犬ジステンパーウイルスが大脳、間脳、中脳、小脳、前庭、脊髄、末梢神経といったさまざまな神経系を侵すことによります。
眼症状
犬ジステンパーは眼にも症状を現します。
前ぶどう膜炎、脈絡網膜炎、視神経炎、角結膜炎が発生し、最悪の場合失明することもあります。
その他の症状
上記の症状の他にも、腹部などの化膿性皮膚炎、パッドの角化亢進(ハードパッド)、死産、流産が見られます。
全身のあらゆる臓器に影響を及ぼすことがわかります。
犬ジステンパーの診断
命に関わる感染症であるため、疑われる症例は迅速に診断する必要があります。
実際には、どんな検査が行われるのでしょうか。
簡易キットでの抗原検出
犬の眼脂、唾液、生殖器及び肛門スワブ中の犬ジステンパーウイルスの抗原を検出できます。
検査結果も20分程で出るため、動物病院でも多く取り扱われています。
便を持参しなくても検体が採取できることが強みです。
血液検査
犬ジステンパーでは、感染初期にリンパ球の減少に伴う白血球の減少が見られます。
その後、細菌感染が起こると逆に好中球性の白血球増加が認められます。
同時に血小板減少も見られるため、血液検査が行われます。
画像検査
胸部X線検査で肺炎の程度を、MRI検査で中枢神経系病変をそれぞれ評価します。
MRI検査には全身麻酔が必要となるので、事前に血液検査での全身の評価が必須です。
MRI検査の際に脳脊髄液を採取し、犬ジステンパーウイルス抗原を検出することもできます。
犬ジステンパーの治療および予後
現在、犬ジステンパーウイルスに対する特効薬は開発されていません。
対症療法と二次的な細菌感染に対する治療を行い、回復を待つことしかできません。
予後は非常に悪く、感染した犬の約半数が死亡してしまいます。
軽症例や、治療によって回復したように見えても、その後激しい神経症状を呈して死亡することもあるので、まったく油断ができません。
抗菌薬
犬ジステンパーウイルスの二次性細菌感染を制御する目的で使用します。
広い範囲の細菌に効果が得られるものを選択しますが、幼犬に投与する際に注意する薬剤もあります。
去痰薬、気管支拡張薬
犬ジステンパーにより肺炎症状が強い場合に使用します。
他にもネブライザーによって粘液除去剤や抗菌薬を経気道的に局所投与することもあります。
制吐薬、止瀉薬
犬ジステンパーにより嘔吐や下痢がひどい場合に使用します。
脱水の補正のために静脈点滴によって水分を補給することもあります。
抗痙攣薬
犬ジステンパーにより神経症状が見られる場合に使用しますが、効果が得られないこともあります。
また、ステロイドや脳圧降下剤を使用して脳へのダメージを軽減します。しかし、これら薬剤の効果は一過性で、だんだん効かなくなってきます。
犬ジステンパーの予防
感染すると死亡率が高く、回復しても後遺症が残る可能性が高い犬ジステンパーは感染させないこと、予防することが重要です。
ワクチン接種
2種類以上の混合ワクチンの定期的な接種によって犬ジステンパーを予防します。
混合ワクチンには最低限、犬ジステンパーと犬パルボウイルス感染症が含まれています。
各製薬会社によって予防できる感染症が異なる場合があるので、かかりつけの動物病院がどの種類の混合ワクチンを使用しているのか確認しておきましょう。
犬ジステンパーの多くは、ワクチン接種前あるいはワクチン接種後間もない幼犬で認められます。しっかりとしたワクチンプログラムを計画し、ワクチン接種が完了するまでは他の犬との接触を避けることが大切です。
また、ワクチン未接種の成犬や免疫力が低下した老犬でも注意が必要です。
半年に1回~1年に1回程度ワクチン抗体価の測定を行い、十分な免疫が確保できているか調べた方がいいでしょう。
感染犬の隔離と消毒
万が一、同居犬が犬ジステンパーに感染してしまったら、速やかに隔離する必要があります。
犬ジステンパーウイルスは環境中で弱く、2〜3日程しか生存できません。消毒薬や乾燥にも弱く、市販の消毒薬で十分です。
まとめ
犬ジステンパーの怖さが少しでも伝わりましたでしょうか?
ワクチンで予防できるからと油断していると、いざという時に迅速に対応できないこともあります。
犬ジステンパーに限った話ではありませんが、感染症は正しい情報を知って、予期しておくことが重要です。