2019年に「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」が改正され、2022年までに段階的に施行されています。
この改正の特徴の一つとして、動物の飼育に関して初めて「数値規制」が導入されました。
今回は、数値規制を導入した行政側の狙いと、それによって影響を受ける動物保護団体の活動の問題点を解説していきます。
この記事の目次
なぜ数値規制を導入したのか
以前までの動物愛護管理法には、適切な飼育の条件となる「飼育頭数」、「従業員数」、「飼育スペースの広さ」などに具体的な規定がありませんでした。
そのため、自治体が不適切な飼育現場を指導するための法的な根拠がなく、悪質な業者に指導することが出来なかったり、業者自身も不適切な飼育環境だという認識がなかったりという問題がありました。
適切な飼育環境を数値で表すことによって、基準を守っていない場合は指導することができ、速やかに改善しなかったり、改善の意思がなかったりする事業者に対しては、最終的に動物取扱業の取り消しも可能になります。
具体的な数値制限とは
2019年の改正動物愛護管理法では、「繁殖年齢や回数」、「飼育環境の温度や湿度」、「臭気の基準」など様々な数値規制が導入されましたが、特に注目したいポイントは「飼育スペース」と「従業員数」です。
飼育スペース
身動きが取れないような狭いゲージに動物を入れっぱなしにし、運動も出来ないような劣悪な環境で飼育するペット関連業者も存在します。
数値による規制が出来ることによって、違反行為が具体的で明確になりました。
■運動スペース一体型飼養等(平飼い等)を行う際のケージ等の基準のイメージ
(画像:環境省「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針~守るべき基準のポイント~」より)
従業員数
一人の従業員が世話をする頭数の制限を設けることによって、一人で何十頭、何百頭の動物を抱え、十分な世話をされず放置されるような環境を減らしていく効果が期待できます。
■従業員一人当たりが飼養又は保管をする頭数の上限
犬の場合 | 22年 | 23年 | 24年 | 25年 |
---|---|---|---|---|
ブリーダーなど(繁殖用) | 25 | 20 | 15 | |
ペットショップなど(販売用) | 30 | 25 | 20 | |
動物保護団体など(非営利)※ | 30 | 25 | 20 |
猫の場合 | 22年 | 23年 | 24年 | 25年 |
---|---|---|---|---|
ブリーダーなど(繁殖用) | 35 | 30 | 25 | |
ペットショップなど(販売用) | 40 | 35 | 30 | |
動物保護団体など(非営利)※ | 40 | 35 | 30 |
※動物保護団体などの第二種動物取扱業では、法律の施行後にブリーダー等の第一種動物取扱業から譲渡される動物が増加する可能性が考えられるため、完全施行時期を1年遅らせることになっています。
詳しい飼育基準の数値制限等はこちらをご覧ください
動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針~守るべき基準のポイント~/環境省
厳しい状況におかれたペット業界
先に述べたような動物愛護管理法の数値規制導入にあたって、ペット関連の業界団体や一部の繁殖業者からは、「廃業に追い込まれる業者も出る」と強い反発がありました。
実際に数値制限の導入後に繁殖犬・猫を減らすブリーダーは増えていると言われており、全国のブリーダーに対して実施されたアンケートによると約30%のブリーダーが廃業も視野に入れているとされています。
その結果、一部では13万頭以上の犬や猫に保護が必要になり、殺処分が増えると主張する意見もあります。しかし、そういった行き場のない動物たちの受け皿となる動物保護団体も数値規制の対象となるのです。
保護団体のキャパシティと葛藤
ブリーダーの廃業が進み、手放された動物たちが保護団体へ引き渡されたとしても、保護頭数が法律の数値規制以上に増えてしまった場合、保護団体はスタッフの増員や飼育スペースの拡張を迫られます。
もちろん、それには莫大な資金が必要になり、多くの保護団体の頭を悩ませる問題となっています。
また、動物保護活動をされている方の多くが、1頭でも多くの動物を救いたいと考えています。そうした方々の「保護したいが数値規制のために断らざるをえない」という苦しみは、金銭面だけでなく精神的な負担も強いています。
しかし、保護団体への数値規制で保護が出来なくなる動物が増える一方で、保護団体と称する劣悪な環境の施設を減らすことも可能になるでしょう。
「保護する動物の数」と「保護後の飼育の質」のバランスが非常に難しい問題となっています。
最後に
日本のペット業界の問題として、ペット産業の「大量生産、大量廃棄」が指摘されています。数値規制により悪質なブリーダーが減り、大量生産がなくなれば、大量廃棄つまりは殺処分や遺棄の減少が期待出来るかもしれません。
しかし、それに至るまでの過程で保護団体にかかる負担や、懸念されている殺処分の増加は避けて通れない問題です。
残念ながら、多くのペットたちが幸せに暮らせる環境になるには、まだまだ解決すべき問題が山積しています。まずは多くの人が現状を知り、少しずつでも改善していくことを願います。