古代エジプトとは、一般的に紀元前3000年頃から紀元前30年までの、文字や美術、建築、衣食住などが発展した時代を指します。
古代エジプトにおける人と動物の関係は、現代の私たちとは異なります。もちろん、古代エジプトの時代にもペットはいましたが、それ以外にも動物たちは特別な宗教的・社会的な意味を持ち、神聖視され、時には神々の象徴として崇められました。
今回は、古代エジプトにおけるペットや動物観について紹介します。
この記事の目次
古代エジプトのペットたち
古代エジプトの人々は、現代の私たちと同様にペットに深い愛情を注いでいたと考えられています。その証拠の一つが、お墓に見られます。紀元前2663年頃のものとされる墓には、埋葬された人物が飼っていたペットの姿が描かれていました。
古代エジプトといえばミイラが思い浮かびますが、動物のミイラ化も盛んに行われました。多くの動物は神への捧げ物としてミイラ化されましたが、中にはペットがミイラにされ、飼い主と一緒に埋葬された例もあります。
古代エジプトで人気のペット
古代エジプトでは、現代と同じように犬と猫がペットとして人気がありました。加えて、トキ、タカ、ハヤブサ、サル、ヘビなど、現代の日本ではペットとして一般的でない動物も飼育されていました。
古代エジプトの初期の支配者たちはゾウやヒョウ、ワニといった猛獣を飼っていたことも調査により判明しています。これは獰猛な動物を飼うことが、支配者にとって権力の象徴であったためと考えられます。
古代エジプトの動物崇拝
猫の頭を持つ「バステト」や、ジャッカルの頭を持つ冥界の神「アヌビス」、ウシの角を持つ「ハトホル」など、古代エジプトには動物の姿をした神々が数多く存在しました。これは、動物を神聖視する信仰が深く根付いていたためです。
その背景には、当時のエジプト人が自然や宇宙に対して強い畏敬の念を抱き、動物を神々や自然の力と結びつけていたことが考えられます。
次第に、エジプトの神々は動物の姿で表現され、神話や信仰の中で重要な役割を果たすようになりました。
このように、古代エジプトにおいて動物は神聖な存在であり、愛されるペットでもありました。一方で、神への奉納物や食料など、さまざまな役割を担っていたことも分かっています。
猫への愛に溢れる古代エジプト
エジプトにおける猫と人間の関係を辿ると、古代エジプト時代にはすでに猫が人々と共に生活していたことが判明しています。
猫が人間と共に暮らし始めたのは約4000年前の中王国時代とされています。当初はネズミや害虫を退治する役割を果たしていましたが、約3500年前の新王国時代には、ペットとして愛される存在へと変わっていきました。
猫への愛が溢れるエピソード
ここで、古代エジプト人の猫への深い愛情を示す、2つのエピソードをご紹介します。
一つ目は「ペルシウムの戦い」にまつわる伝説です。紀元前525年に起きたこの戦いでは、ペルシア軍が兵士の盾に猫の神であるバステトの像を描かせたため、猫を大切にしていた古代エジプト人が攻撃をためらい、結果として降伏し、エジプトがペルシア人の支配下に入ったという逸話が伝えられています。
もう一つは、歴史家ヘロドトス(紀元前484年頃~紀元前425年頃)の記述です。彼によれば、エジプトの人々は家が火事になった際、自分たちや家財を守るよりも、まず猫を助けることを優先していたとされています。
神聖な埋葬の儀式
古代エジプトでは、飼い猫が死んだ際、その家の住人が眉毛を剃って悲しみを表すこともあったとされています。時には、猫の亡骸はミイラにされ、合同で埋葬されることもありました。
墓から多くの猫のミイラが発見されていることから、これらのミイラは神への捧げ物と考えられる一方、神聖な場所に埋葬することで、来世での幸福を願っていたとも考えられています。
2柱の猫の女神
エジプト神話には、メスのライオンの頭を持つ女神「セクメト」が登場します。神話によると、セクメトは太陽神ラーに反抗した人間たちを罰するために遣わされた、攻撃的で恐ろしい神として描かれています。
一方で、猫の姿や猫の頭部を持つ姿で表される「バステト」は、家庭に多くの子供と平穏をもたらす女神として広く信仰されてきました。
この攻撃的な「セクメト」と慈悲深い「バステト」は、猫が持つ二面性を象徴しているとされています。
犬も深く愛されていた
犬は古代エジプト人にとって社会的な地位に関係なく、非常に重要な存在でした。当時の犬たちは、ペットとしてだけでなく、狩猟犬や番犬、警察犬、軍用犬など、さまざまな役割を担っていました。
犬種としては、バセンジー、グレーハウンド、ファラオ・ハウンド、サルーキなどがいたとされ、これらの犬は彫刻や絵画、文章にも描かれています。
飼い犬は家族の一員として愛され、犬が死ぬとその亡骸はミイラにされることもありました。また、家族は全身の毛を剃ることで、深い悲しみを表現したといいます。
時には、飼い主と共に埋葬されることもありました。これは、死後の世界でも友情を育むためだったと考えられています。
冥界の神「アヌビス」
一説には、ジャッカルの頭を持つ神アヌビスは、世界最古の犬種の一つであるバセンジーがモデルだと考えられています(他にもイビザン・ハウンド、ファラオ・ハウンド、グレーハウンドがモデルとされる説もあります)。
いずれにしても、犬はアヌビス神と深い関係があり、死者の魂を「真実の殿堂」へ導き、そこで魂は冥界の支配者オシリス神によって裁かれると信じられていました。
古代エジプトのエキゾチックペットたち
先に触れたように、古代エジプト人たちは現代の日本では一般的でない独特なペットを飼っていました。その種類は多岐にわたりますが、ここではその中からいくつかを紹介します。
神聖な象徴でもあった鳥たち
ハヤブサは、天空の神「ホルス」の象徴として非常に大切にされていました。王たちは狩りのためにハヤブサを飼っていましたが、神の力を象徴する存在でもありました。
また、トキも上流階級に人気の鳥で、知恵の神「トート」の象徴とされていました。
愛されていた猿たち
ヒヒは知恵の神「トート」やナイル川を神格化した「ハピ」の象徴として大切にされていました。
一方で、サルはペットとして飼われることが多かったようです。サルは簡単に訓練できたため、物を回収するなどの役割を果たしていたことが碑文に記されています。
古代エジプトの動物たちの暗い一面
古代エジプト人は動物を非常に大切にし、ペットとして愛情を注ぐ一方で、動物を神聖な存在として崇拝していました。この文化は非常に興味深いものですが、動物が置かれる環境は、いつの時代も美しいものばかりではありません。
実際、古代エジプトの動物の骨からは虐待の痕跡が見られることがあり、飼い主が亡くなった際に一緒に墓に入れるために殺されたと思われるペットや、神への生贄としてさまざまな動物がミイラにされ奉納されることもありました。
このような暗い一面も、古代エジプトのペット文化や動物観を知る上で重要な要素です。
まとめ
古代エジプト人たちは動物を非常に大切にし、ペットとして愛情を注ぐ一方で、動物を神聖な存在として崇拝していました。
しかし、宗教的な儀式や神への捧げ物として多くの動物が犠牲にされる一面もあり、虐待の痕跡が残る骨が発掘されるなど、矛盾した側面も見られます。
現代とは大きく異なる古代エジプトの動物観は、非常に奥深く、興味深いものですね。