ペットショップのショーケースに並ぶ可愛らしい子犬や子猫たち。皆さんは、この無垢であどけない動物たちがどのような所で生まれてきたのか考えたことがあるでしょうか。その場所は、もしかしたら恐ろしいパピーミルだったかもしれません。
この記事では、日本のパピーミルで起きた事件や世界のパピーミルに関する法律などを紹介します。不幸な動物たちを減らすために私たちができることについて考える一助となれば幸いです。
この記事の目次
パピーミルとは
パピーミル(Puppy mill)とは、直訳すると「子犬工場」を意味し、子犬の販売による利益のみを追求し、犬たちを劣悪な環境で大量に繁殖させる施設を指します。イギリスなどではパピーファーム(Puppy Farm)とも呼ばれます(以下、パピーミル)。
パピーミルでは、多くの犬が狭く不衛生なケージに押し込められ、十分な運動や社会的な交流ができない状態で飼育されているため、犬たちの多くは精神的・肉体的な健康を害し、深刻な状況に置かれています。
また、本来ブリーダーは犬種の特性や遺伝的な疾患の有無などを考慮して繁殖を行いますが、パピーミルの繁殖業者は利益を優先するあまり、それらの点が考慮されない交配が行われます。その結果、健康問題を抱えた子犬が生まれてしまう点も問題視されています。
日本のパピーミルで起きた残虐な事件
パピーミルで起きた動物虐待事件として有名なのは、2021年に発覚した長野県松本市のペット繁殖業者の事件です。450頭余りの犬が劣悪な環境で飼育されていたことが明らかになり、11月には繁殖業者の社長と社員が動物愛護法違反の疑いで逮捕されました。
さらに、麻酔なしで犬たちを帝王切開していたという非常にショッキングな事実も明らかになり、多くの人々の記憶に残っていることでしょう。
※事件の詳細はこちらの記事をご覧ください。
「死んだ犬は弁当ゴミと一緒に処理」「餌は2日に1回、水は川から」…元従業員が告発 悪質ペット繁殖業者逮捕《ペットブームで飼育頭数は2倍強に》 | 文春オンライン
https://bunshun.jp/articles/-/50582
事件の判決
2024年5月10日に開かれた判決公判では、被告に懲役1年・罰金10万円、執行猶予3年の判決が言い渡されました。
このあまりにも軽い判決に対し、動物の福祉に関心を持つ人々からは落胆や憤り、日本が動物福祉後進国であることを嘆く声が聞かれます。
動物たちを劣悪な環境に置き、精神的・肉体的な健康を害するパピーミルは、今や日本だけでなく世界的な問題となっています。しかし、世界にはこの問題の解決を目指して、一歩進んだ法律を制定している国もあります。
アメリカ・ニューヨーク州「パピーミル・パイプライン法」
2024年12月にはアメリカのニューヨーク州で「パピーミル・パイプライン法」が施行されます。この法律は、ペットショップでの犬、猫、うさぎの販売を禁止し、シェルターからの引き取りを推奨する内容となっています。
アメリカでは、カリフォルニア州やイリノイ州などですでにペットショップでの犬、猫、うさぎの販売が禁止されていますが、ペットショップが多いニューヨーク州でこの法律が可決されたことで大きな注目を集めています。
法律制定の背景とは
アメリカにおいても、以前からパピーミルの存在は動物福祉の観点から大きな問題とされてきました。具体的な事例として、以下のものがあります。
2021年、アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)は、米国農務省(USDA)が認可しているアイオワ州の繁殖施設から500頭以上の犬を救出しました。この施設は2019年にUSDAの認可を受けていましたが、数年間にわたり施設の調査が行われていませんでした。
2021年になってUSDAがようやく施設を視察したところ、パルボウイルスやジステンパーなどの病気の発生、水や食料の不足、犬の死骸や瀕死の犬の発見など、合計190件以上の動物福祉法の違反が明らかになりました。
さらに、ニューヨークで子犬を販売しているペットショップの3分の1以上が、このブリーダーから子犬を仕入れていたことも判明しています。
参考:
The Connection Between a Cruel Iowa Puppy Mill and New York Pet Stores | ASPCA
このようなパピーミルはアメリカ中西部に多く存在し、各地に供給ルートを張り巡らせており、ニューヨーク州のペットショップがその供給先となっています。そこで、パピーミルから子犬をニューヨークへ運ぶ「パイプライン」を遮断するため、ニューヨーク州ではペットショップの規制に乗り出しました。
イギリス「ルーシー法」
イギリスには2020年に導入された通称「ルーシー法」と呼ばれる法律があります。この法律では、第三者(ペットショップなど)による子犬や子猫の商業販売を禁止することで、パピーミルからの子犬や子猫の大量供給を阻むことを目的としています。これにより、イギリスで新たに子犬や子猫を飼いたい人は、ブリーダーから直接購入するか、保護センターから引き取ることになりました。
ブリーダーから購入する場合でも、ブリーダーは認可が必要であり、生まれた場所で子犬が母親と交流している様子を見せることや、無許可で子犬や子猫を販売した場合は無制限の罰金、または最長6か月の懲役刑が科せられるという厳しい内容となっています。
きっかけはキャバリアの「ルーシー」
ルーシー法の制定のきっかけとなったのは、2013年にウェールズのパピーミルから救出されたキャバリア・キングチャールズ・スパニエルのルーシーです。ルーシーは繁殖用の犬として、劣悪な環境下で5年もの間、飼育されていました。
救出された当時のルーシーは、狭い檻に閉じ込められていた影響で背骨や骨盤が変形し、真っ直ぐ立つこともできず、極度の栄養失調やてんかん、ドライアイ、皮膚炎など、さまざまな健康問題を抱えていました。そして、3年後の2016年に他界しました。
ルーシーを引き取り、飼い主となったリサさんは、パピーミルにおいて非人道的な扱いを受けている犬や猫たちの実態を多くの人に知らせ、パピーミルや同様の繁殖業者を撲滅するために、「ルーシー法」キャンペーンを展開しました。
そして、多くの人々の賛同や協力を得て、第三者による子犬や子猫の販売禁止が政府の方針に盛り込まれるに至ったのです。
まとめ
同様の法律は2021年にフランスでも可決され、2024年から施行される予定です。ヨーロッパにはすでにペットショップでの犬や猫の生体販売を禁止している国があり、その流れは今後さらに広く浸透していくと思われます。
動物福祉後進国と言われる日本に住む私たちも、パピーミルへの規制強化だけでなく、ペットショップに並ぶ子犬や子猫たちがどこから来ているのかを考え、不幸な動物たちを減らすために声を上げる時が来ているのではないでしょうか。