ペットを亡くした悲しみは、誰にとっても深く、言葉で簡単に片づけられるものではありません。
私自身、実家で飼っていたシベリアン・ハスキーの最期を看取ることができませんでした。「もっと会いに帰ればよかった」「実家に帰ったとき、もう少しそばにいてあげればよかった」という思いは、今でも心に残っています。
この記事では、飼い主としてのペットロスの経験や、ペットロスとの向き合い方、そして悲しみや後悔を少しずつ癒していくための心の整理についてお話しします。今、つらい思いをしている方のお気持ちに、少しでも寄り添えたら幸いです。
この記事の目次
【実体験】愛犬が亡くなったときに感じた後悔

実家で飼っていたシベリアン・ハスキーは、私が小学生のときに迎えた犬でした。
大学進学を機に実家を離れるころ、愛犬はシニア期に入っていました。12歳を過ぎた頃からは、認知症の症状が見られるようになりました。
もちろんその子のことは大好きだったのですが、老いを直視するのが怖くて、せっかく実家に帰ってもどこか距離を取ってしまっていたように思います。
獣医師として働き始めて数か月後、愛犬が亡くなったという知らせを受けました。離れて暮らしていたので、犬が亡くなったことで私の暮らしが何か大きく変わったわけではありませんでした。
けれど、泣いて立ち直れないほどの喪失感ではなかったものの、「最後まで寄り添えていたのか」という問いは、ずっと自分の中で続いています。
ペットロスとは?悲しみの形は人それぞれ

「ペットロス」とは、大切なペットを失ったことで生じる心の反応のことを指します。
- 数週間〜数か月、涙が止まらず仕事や家事が手につかない
- 写真を見るのもつらく、部屋の片づけができない
- 「自分だけが泣いていられない」と感情を押し殺してしまう
- 逆に、まったく涙が出ず「自分は冷たいのでは」と悩む
私は一番下のようなケースに近かったかもしれません。
グリーフの5段階と心の整理

心理学では、人が死や大きな喪失を経験した際にたどる心や体の反応を「グリーフ(悲嘆)」と呼びます。有名な「グリーフの5段階」は、ペットロスを理解するうえでも参考になる考え方です。
- 否認:喪失の事実を拒否し、現実を受け入れられない状態です。
- 「まさか死んだなんて信じられない」
- 怒り:自分自身や状況に対して不公平感や怒りを感じることがあります。
- 「どうしてあの子が」「自分のせいで」
- 取引:何らかの犠牲を払ってでも状況を変えたい、元の状態に戻したいと願う段階です。
- 「あのとき治療を変えていれば」「もう一度会いたい」
- 抑うつ:喪失の大きさを実感し、深い悲しみや絶望感、無力感に襲われます。
- 「何もしたくない」「空虚で毎日がつらい」
- 受容:喪失の事実を現実のものとして受け入れ、悲しみと共に新しい生活に適応し、前向きに進もうとする段階です。
- 「もう会えないけど、楽しかった思い出が残っている」
これらの段階は、人によって順番も長さも異なり、行きつ戻りつを繰り返しながら、少しずつ心が整理されて落ち着いていくのが特徴です。
受容までどれくらいの期間がかかるのか
早い人で数か月〜半年ほどで「受容」に進める場合もありますが、1年〜数年かかる人も少なくありません。特に、ペットと一緒にいた時間が長いケースや、看取り方への後悔が強い場合は、時間がかかります。
一度「受容」しても、記念日や季節の変わり目などで再び悲しみがよみがえるのも自然なことです。
悲しみの感じ方に正解はない
ペットロスからの回復に大切なのは、早く立ち直らなければとあせらないことです。しっかり悲しむ時間は、立ち直って歩き出すためには必要な時間でもあります。
ペットが亡くなったときに「涙が出ない自分」を責める方もいらっしゃいますが、それは人それぞれです。悲しみは涙の量で測るものではありません。
涙が出る人もいれば、涙ではなく後悔が強く残る人もいます。一生懸命最期まで介護して、晴れ晴れしい気持ちで送る方もいるでしょう。
どんな形であっても、それは「大切な存在を想う気持ち」があるからこそ。正解はないし、他の人と比べる必要はありません。
ペットロス症候群とは?長引く悲しみのサイン

ペットを失った深い悲しみが長く続き、身体的または精神的に日常生活に支障が生じてしまう状態をペットロス症候群といいます。グリーフの5段階のうち、第4段階の「抑うつ」から次の「受容」に進みにくくなっている状態と考えられます。
一時的な落ち込みは自然な反応ですが、この状態が数週間〜数か月続く場合は、心が強いストレス状態にさらされているサインです。
ペットロス症候群になりやすい方
ペットロス症候群は、次のような傾向をもつ人ほど、悲しみが深く長引きやすいといわれています。
- ペットを家族同然・我が子同然に感じていた人
- 「ペット=家族」という強い絆があるほど、喪失感も大きくなります。
- 最期を看取れなかった、助けられなかったという後悔が強い人
- 「自分のせいでは」と責めてしまう思考が続きやすいです。
- 真面目で責任感が強い人
- 「もっとできたはず」と自分を追い詰めてしまいやすい傾向があります。
- ペットが唯一の支えだった人(高齢者・単身者など)
- 孤独感が強まり、気持ちの切り替えが難しくなります。
- 悲しみを周囲に話せない人
- 家族や職場に理解がないと、気持ちを押し殺してしまい、回復が遅れます。
ペットロス症候群は、「心が弱いからなるもの」ではありません。それだけペットを深く愛していた証拠であり、誰にでも起こりうる自然な反応です。
新しいペットを迎えるのはペットロスの回復に役立つか
ペットを亡くしたあと、「もう一度動物と暮らしたい」と思う人もいれば、「あの子以外は考えられない」と感じる人もいます。新しい命と触れ合うことが、心の癒やしにつながる場合もあります。
動物との関わりが再び日常のリズムを作り、孤独感を和らげてくれることもあるでしょう。
しかし一方で、悲しみが整理されていないまま新しいペットを迎えると、亡くなった子と比較してしまったり、罪悪感を覚えたりすることもあります。
もしも新しいペットを迎えるのであれば、「失った悲しみ」と「新しい出会い」を別のものとして受け止めることが大切です。
亡くなった子の存在を忘れるのではなく、「あの子がいたからこそ、また動物に優しくなれる」と感じられるタイミングが、迎える時期の目安になります。
もし迷っているなら、ボランティアや一時預かりなど、自宅で直接ペットを飼う以外の形で動物と関わってみるのも良い方法です。
まとめ

ペットを失ったときの心の反応は、人によってまったく異なります。涙があふれて止まらない人もいれば、涙が出ずに静かに後悔が残る人もいます。どちらも自然なことで、悲しみの感じ方に正解はありません。
心理学でいう「グリーフの5段階」は、喪失を受け止める心の流れを示したものですが、その過程や期間も人それぞれです。もし悲しみが長く続き、日常生活に支障が出ている場合は、専門家の力を借りることも回復への大切な一歩です。
別れを経験したあと、新しいペットを迎える人もいれば、亡くなった子だけを胸に生きていこうと決める人もいます。どちらの選択も間違いではありません。
大切なのは、自分の心に正直に向き合い、徐々に穏やかな日々を取り戻していくことです。悲しみの大きさは、愛情の深さの証です。どうか焦ることなく、自分のペースで心を癒やしていってください。





































