獣医師は動物病院の先生だけじゃない!公務員獣医師という働き方

獣医師は動物病院の先生だけじゃない!公務員獣医師という働き方

獣医師の活躍の場は動物病院だけではありません。国や地方自治体、企業、動物園や水族館など、さまざまな施設で社会を支える獣医師が働いています。

この記事では、私自身の経験をもとに、あまり知られていない「公務員獣医師」の仕事についてご紹介します。記事を通じて、公務員獣医師という働き方にも興味を持っていただけたらうれしいです。

この記事の目次

「獣医師=動物病院」だけじゃない?

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「獣医師」と聞いて、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、動物病院で犬や猫の診療をしている「ペットのお医者さん」ではないでしょうか。実際、獣医学生の卒業後の進路で最も多いのは、小動物臨床(犬や猫などペットの動物病院)です。

卒業生の進路調査から分かること

農林水産省が公表している獣医系大学卒業者の進路調査(家畜衛生週報 No. 3832/2024.12.16)によると、2024年3月の卒業者1,090名のうち、494名(約45%)小動物臨床に進みました。これは全体の中でも最も多い割合であり、ペット人気を反映していると言えるでしょう。

大学に入学する時点では多くの獣医学生が小動物の獣医師を目指していますし、当然の結果かもしれません。

一方で、残りの半数近くは公務員、牛や豚などの家畜臨床、食品衛生、研究機関、製薬・飼料関連の企業などと、実にさまざまな分野に就職しています。

公務員獣医師の割合

2024年の卒業者のうち134人(約12%)が、国や都道府県、市町村といった公的機関で採用されました。この割合は例年10〜12%前後で推移しており、公務員獣医師は決して珍しい進路ではありません。

私が公務員獣医師を選んだ理由

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私は県の公務員獣医師として9年間働きました。多くの友人たちが小動物臨床に進む中で、公務員の獣医師という選択をした理由をお話したいと思います。

考え方が変わった実習の体験

もともとは実家で犬を飼っていた影響で獣医師に興味を持ったため、卒業後の進路も小動物臨床を考えていました。

しかし、大学5年生の夏休みに参加した大動物診療の実習が、私の考え方に大きな変化をもたらしました。牛を相手にした診療は、どこかのんびりとした空気が流れていて、小動物の診療現場とはまた違った魅力がありました。

牛の体が大きいぶん診察は大変そうでしたが、先生と農家さんとの距離感や、協力しながら診療を進めていく様子に温かさを感じたのを覚えています。

食を守る仕事に興味を持つ

もうひとつ大きかったのは、「この仕事が食に直結している」という実感です。家畜の健康を守ることは、そのまま安心・安全な牛乳や卵、肉などの生産物を作ることにつながります

獣医師として病気を治すだけでなく、「人々の暮らしを支える存在」として役に立てることに大きな意味を感じ、大動物の獣医師という道に関心を持つようになりました。

当時の現実と、公務員という選択

とはいえ、当時はまだ女性の大動物獣医師は少なく、実習先で「女性は雇う予定がない」「結婚も妊娠もしないっていうなら雇うけど」とはっきり言われたこともあります。

そんな経験もあり、家畜と関わる獣医師を調べているうちに、公務員の獣医師という仕事を知りました。大学で専攻していた病理学を活かせる仕事でもあり、6年生になる直前に進路を変更。そこから公務員試験の勉強と卒論の制作で一気に忙しくなりました。

働き方も重視した

正直に言えば、仕事内容だけではなく、将来の働き方も大きな判断材料でした。子育てと仕事の両立がしやすいという点は、とても魅力的でした。「長く、無理なく働き続けられる道かもしれない」と思えたことも、決断の理由のひとつです。

獣医師として何を大切にしたいのか、どんな人生を歩みたいのか。自分自身と向き合ったからこそ、公務員獣医師という道にたどり着いたのだと思います。

家畜保健衛生所での仕事内容

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配属された家畜保健衛生所では、牛や豚、鶏などを対象に、伝染病の予防や監視、検査などを行っていました。農場での採血や、死亡した家畜の病理解剖、病理検査など、幅広い業務に携わりました。

特に印象的だったのは、牛や豚を何百頭と飼う農家さんたちとの関わりです。より良い飼育環境を作るために考え支援していくことは、とてもやりがいがありました。

公務員獣医師の仕事で大変だったこと

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公務員獣医師は、時に「命を守る」だけでなく、「命を奪う」役割を担うこともあります。

私が勤務していた頃も、口蹄疫や鳥インフルエンザといった強い感染症が発生しました。これらの病気は拡散力が強く、ひとたび広がると地域の畜産業に壊滅的な影響を与えてしまいます。

法律では、感染が疑われる家畜については、まだ発症していないものも含めて殺処分を行うことが定められています。私も殺処分を行う現場の対応にあたったことがありました。

教科書でしか見たことのなかった症状の鶏が目の前にいて、衝撃を受けました。それでも、「これ以上被害を拡大させないために必要な措置だ」と、自分に言い聞かせて乗り越えてきた経験は、今でも心に残っています。

公務員獣医師のやりがいと魅力

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公務員の仕事は大変なことばかりではなく、次のような魅力もあります。

安定した勤務環境と福利厚生

伝染病が発生している最中などの特別な時を除けば、公務員は定時出勤・定時退社が可能な職場です。私も産休・育休を取得し、つわりの時期は時差出勤制度を活用するなど、柔軟な働き方ができました。

達成感のある業務

100頭以上の家畜を相手に行う採血や検査は体力勝負ですが、やりきったあとの達成感は格別でした。

農家さんとの温かな交流

農家の方々は気さくな人が多く、「今日もよく頑張ったね」と労ってくださることも。当時は家畜保健衛生所の女性獣医師はまだ珍しかったこともあり、温かい声掛けをいただく場面も多かったです。

獣医師を目指している方へ

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もし、獣医師を目指している方がこの記事を読んでいたら、ぜひ知っておいてほしいことがあります。

「獣医師=ペットのお医者さん」というイメージはまだ根強いですが、公務員獣医師は社会の安全と安心を支える仕事です。目の前の動物と向き合うことだけでなく、食の安全、感染症の防止など、より広い視点から命と向き合えます。

「人の役に立ちたい」「社会に貢献したい」という気持ちを持っている方にとって、公務員獣医師はやりがいのある選択肢だと思います。

公務員獣医師にはさまざまな分野と働き方がある

今回ご紹介したのは、私が経験した「家畜衛生」の分野での働き方です。

私が働いていた家畜保健衛生所以外にも、家畜の健康と生産性を向上させるために研究を行う「試験場」や「改良センター」といった研究機関に勤めることもありますし、都道府県庁などの行政の中心機関で、現場の支援や制度づくりに関わる役割を担うこともあります。

また、「公衆衛生」の分野で働く公務員獣医師もいます。こちらでは、人の感染症や動物由来感染症の拡大を防ぐ仕事や、動物愛護に関する仕事に携わります。

おわりに

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公務員獣医師には、それぞれの専門性を生かしながら社会全体を支える仕事がたくさんあります。動物に直接触れる機会が少なくても、現場での経験を通して「命の重さ」や「社会とのつながり」を強く実感しました。

「獣医師になりたいけど、動物病院以外の選択肢も知りたい」という方の参考になればうれしいです。

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