猫伝染性腹膜炎という病気について、猫を飼っている人なら一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。新型コロナウイルスが大流行した時に少し話題になりましたし、SNSでも度々情報が流れてきます。
では、猫伝染性腹膜炎とはどのような病気なのでしょうか。今回は、猫伝染性腹膜炎について解説します。
この記事の目次
猫伝染性腹膜炎(FIP)とは

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)によって引き起こされる進行性の致死的な全身性炎症性疾患です。
FIPVは猫のコロナウイルスの一種で、軽度の下痢を引き起こす猫腸コロナウイルス(FECV)とは遺伝的、抗原的にきわめて近いウイルスと言われています。FIPVはFECVの突然変異型であるという説も唱えられていますが、まだ不明なことが多い感染症です。
感染経路
FIPVを含む猫コロナウイルスの感染経路は、ウイルスを含んだ糞便や唾液を介した経口あるいは経気道感染であると考えられています。
正確なFIPVの感染率は不明ですが、ある研究によると一般の猫集団の猫コロナウイルス感染率は16〜40%程度だとされています。
症状を伴う猫伝染性腹膜炎の発生頻度は一般的には低い(1%以下)とされていますが、多頭飼育環境下で発生率が高くなるようです。
好発猫種

猫種による差は認められていません。しかし、純血種の方が雑種に比べて猫コロナウイルスに対する抗体陽性率が高いことが報告されており、感受性が高いことが示唆されています。
また、1歳未満の若齢猫で最も多く発生すると言われています。
症状

猫伝染性腹膜炎の病型は、臨床的に滲出型と非滲出型に分けられます。しかし、これらは完全に区別されるものではなく、両方の所見が認められることもあります。
どちらの病型でも認められる症状には以下のようなものがあります。
- 発熱
- 元気・食欲の低下
- 体重減少
- 下痢
- 嘔吐
滲出型(ウェットタイプ)
腹水や胸水の貯留を伴った線維素性胸腹膜炎を特徴とし、腹部膨満や呼吸困難などの症状を呈します。
非滲出型(ドライタイプ)
多臓器における化膿性肉芽腫形成を特徴とし、肝臓や腎臓の腫大、黄疸、前ぶどう膜炎、脈絡網膜炎などが認められます。また、中枢神経系が侵された場合には、発作や後躯麻痺などの神経症状が見られることもあります。
診断

猫伝染性腹膜炎の診断は単一の検査で行うのではなく、多くの典型的な症状、身体検査所見、臨床病理学的検査所見、抗体価を組み合わせて診断します。
全血球算定
非再生性貧血や好中球主体の白血球増加が認められることが多いです。
また、猫伝染性腹膜炎は播種性血管内凝固(DIC)を引き起こす原因疾患として最も重要となっており、この場合は血小板減少が見られることがあります。
血液生化学検査
多クローン性高グロブリン血症を伴った血清蛋白濃度の上昇は多くの猫伝染性腹膜炎症例で認められます。
通常、血液中の蛋白質はアルブミンとグロブリンが半々くらいで存在しますが、この比(A/G比)が1以下になると猫伝染性腹膜炎の可能性があります。肝臓や腎臓に肉芽腫性炎症が存在する場合には肝酵素、ビリルビン、尿素窒素、クレアチニンの上昇が見られる場合があります。
画像検査
X線検査や超音波検査にて胸腹水の貯留や、肝臓や腎臓の腫大/辺縁不整などが確認できることがあります。
滲出液の検査
滲出型の猫伝染性腹膜炎では脈管系の炎症によって血清成分の血管外(体腔)への漏出や、マクロファージや好中球の滲出が起こります。この滲出液(胸水や腹水)を検査することが非常に重要です。
蛋白濃度が3.5〜12.0g/dL、好中球やマクロファージなどの炎症細胞を多く認めます。
血清学的検査
猫コロナウイルスに対する抗体を検出することが可能です。
この抗体価と猫伝染性腹膜炎の発症は相関しないとされていますが、発症猫の方が猫腸コロナウイルス陽性の健常猫よりも高い抗体価を示す傾向にあるとされています。
治療

現在、猫伝染性腹膜炎の治療薬として承認されている動物用医薬品は存在しません。よって人用の医薬品を適応外使用するか、未承認の医薬品を使用することになります。
従来の治療
かつてはステロイドなどの免疫抑制薬やインターフェロン製剤を用いた抗炎症療法が行われてきました。しかし、これらは根本的な治療ではなく、延命を目的とした対症療法にとどまっていました。
昨今の新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって抗コロナウイルス薬の研究が進み、それが猫のコロナウイルス感染症にも応用されるようになりました。
抗ウイルス薬
現在の猫伝染性腹膜炎の治療の主流です。レムデシビル、GS-441524製剤、MUTIAN、モルヌピラビルなどが用いられています。
海外ではレムデシビルおよびGS-441524製剤による治療ガイドラインが確立していますが、日本ではこれらの薬剤は入手が困難(輸入による入手のため高価)なこともあり、モルヌピラビルを使用している動物病院が多いようです。
予後

滲出型の全身症状を呈している猫の予後は極めて不良です。
非滲出型の場合、障害臓器によって予後は大きく異なりますが、滲出型に比べて進行が緩やかなことが多いとされています。
予防

感染猫との接触や、排泄物の適切な処理によって感染を予防することが可能です。
- 室内飼いで、外の感染猫との接触を避ける。
- 感染猫の使用した食器やトイレはこまめに掃除し、他の猫に使い回さない。
- 多頭飼育の場合は感染猫と非感染猫との生活空間を隔離する。
まとめ

猫伝染性腹膜炎は非常に怖い病気です。しかし、近年では治療にも光が見えてきたように思います。
新しい研究の発展が待たれる分野でもあります。愛猫がこの病気にかかってしまった時、何がベストな選択なのか、かかりつけの獣医師とよく相談しましょう。



































