犬パルボウイルス感染症 犬 病気
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いぬ健康

【獣医師が教えるワクチン接種必須の感染症】犬パルボウイルス感染症

相澤 啓介 獣医師

みなさんは、犬パルボウイルス感染症という感染症をご存知でしょうか?

犬パルボウイルス感染症は、病原性及び感染力が非常に強い感染症で、ワクチンでの獲得免疫が不十分な子犬に感染して猛威を奮います。

どんな病気なのかを理解して頂き、定期的なワクチン接種への意識づけになれば幸いです。

犬パルボウイルスって何?

犬のパルボウイルス感染症としては、1967年に報告された犬微小ウイルス感染症と、1970年代後半に報告された犬パルボウイルス(2型)感染症があります。

いずれもパルボウイルスを原因としていますが、ウイルスの性状は全く異なり、ウイルス学的に前者を犬パルボウイルス1型、後者を犬パルボウイルス2型と分類しています。

現在、臨床上問題となるのは犬パルボウイルス2型による感染症で、ワクチンもこのウイルス型を基に作製されています。

犬パルボウイルスの感染経路

ウイルスは糞便中に大量に含まれ、これを介して経口伝播します

また、パルボウイルスは環境中で数か月は生存するので、靴などに付着してあらゆる環境に持ち込まれる可能性があります。

犬パルボウイルスの症状

犬パルボウイルス感染症は、腸炎型と心筋炎型に分けられます。それぞれについて症状を見ていきましょう。

腸炎型で見られる症状

離乳期以降の全ての年齢で見られます。

症状としては、元気消失、食欲不振、発熱、嘔吐、下痢などが現れます。
下痢は次第に水様となり、ついには出血性の水様下痢になります。激しい嘔吐と下痢のため、特に子犬は脱水状態に陥り、ショック症状を呈します

また、腸粘膜が破壊されることでそこから細菌の二次感染が起こり、敗血症を引き起こすこともあります。
さらに、妊娠犬に感染すると流産を起こすこともあります。

心筋炎型で見られる症状

生まれてまもない3〜8週齢の子犬に見られる心筋炎を主徴とします。

症状は、吐き気、呼吸困難、虚脱が突然現れます。
現在、この心筋炎型の発生は減少しています。

動物病院での診断方法

ワクチン接種歴のない犬で激しい嘔吐や下痢が現れている場合、犬パルボウイルス感染症を疑って迅速に検査を行います。

糞便検査

糞便中のウイルスを簡易キットで検出します。
犬パルボウイルスに限らず、下痢を起こしている場合はしっかり密封した上で便を持参することをお勧めします。

血液検査

ウイルスは骨髄やリンパ系組織に侵入し、そこで細胞を破壊します。よって、消化器症状の後には、貧血や白血球の減少が起こります。
血液検査によって血球の減少を経時的に観察し、治療の指針にしていきます。

犬パルボウイルスの治療法


現在、犬パルボウイルスに対する特効薬はありません

治療は対症療法、支持療法にとどまります。治療に効果を示さない場合の予後は非常に悪く、死亡してしまうことも珍しくありません。

まずは入院隔離

感染犬はウイルスを大量に排出し続けるので、入院での隔離が必須です。

特に、幼犬の過急性感染では発症後1日程度で死亡することもあるので、そのことを理解して頂いた上でお預かりします。逆に言えば、診断後すぐに適切な治療を施さないと危険だということです。

輸液療法

激しい嘔吐や下痢によって体内の水分が急激に少なくなると、低循環性ショックが引き起こされます。
そのため、静脈点滴により失われた水分を補給すると同時に、自由に飲水できるような環境を用意して、徹底的に脱水を予防します。

輸血

貧血が起きている場合は輸血を行うこともあります。
輸血前には供血犬(ドナー)との適合試験を行う必要があります。この試験には少し時間がかかるため、飼い主さんには予め説明して許可を得ることが多いです。

制吐薬、止瀉薬

嘔吐や下痢がひどい場合には薬剤を用いて症状を緩和します。
下血が見られる場合には止血薬を併用し、犬の苦痛を少しでも和らげるようにしていきます。

抗菌薬

傷害を受けた腸管壁からの細菌の二次感染を予防するためにも抗菌薬の投与は重要です。
ウイルスを直接叩く薬ではありませんので注意しましょう。

その他

抗インフルエンザ薬や、インターフェロン療法などが用いられることがあります。
これらはウイルスの増殖を阻害し、症状の重篤化を防ぐ目的で行われます。

絶対に押さえておきたい予防法


犬パルボウイルスは感染すると死亡することもある怖い疾患です。また、治療には多種の薬剤が用いられるため、治療費も高額となることが多いです。

そのため、犬パルボウイルスには感染しないように、予防をすることが非常に重要です。

ワクチン接種

予防方法の第一として、まずは何と言ってもワクチンの接種をすることです。

混合ワクチンには犬パルボウイルスは確実に入っていますし、単体の追加ワクチンもあります。
移行抗体の影響でワクチンの作用が阻害されないよう、犬パルボウイルスに関しては生後18週以降にワクチン接種が完了しているプログラムを組むことをおすすめします

環境の清浄化

同居犬がいる場合、万が一感染を拡大させないために便に異常が現れたときは環境を清潔に保つことも大切です。
犬パルボウイルスは、通常のアルコールでは効果がありません

消毒薬としては、塩素系の漂白剤を水で30倍程に薄めたものを、汚染されたものの表面に30分以上塗布しておきます。
また床に凹凸があるとその部分のウイルスが残る可能性があるので、犬の居住空間には平らで滑らかな家具を設置しておくといいかもしれません。

まとめ

犬パルボウイルス感染症は感染力・病原性が強く、死に至ってしまう可能性がある恐ろしい病気です。

ワクチンの接種が普及してきた現在でも、まれに犬パルボウイルスの集団感染事例は耳にします。

狂犬病以外のワクチンを接種させることの義務はありませんが、ワクチンの接種で守れる命もあることを飼い主は知っておくべきでしょう。病気の理解を深め、ワクチン接種について改めて考えてみてはいかがでしょうか?

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