「ハズバンダリートレーニング」という言葉を聞いたことはありますか。「受診動作訓練」と訳され、病院での診察時に動物たちがストレスなく、そして診察する側の人も安全に行えることを目的として行うトレーニングです。
今回はこのハズバンダリートレーニングについて解説していきます。ご自宅でもできるトレーニングも紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
この記事の目次
ハズバンダリートレーニングとは
「受診動作訓練」という訳からもわかるように、病院で受診時に役立つトレーニングです。
もともとは動物園や水族館で行われていたと言われています。例えば、イルカの採血をする際に、イルカたちがトレーナーの指示に従って仰向けになり、そのままの体勢をキープし、かつ採血する場所を触られたり、多少の刺激があっても落ち着いていられるようにするのがハズバンダリートレーニングです。
目的
ハズバンダリートレーニングを行う目的は大きく2つです。
- 動物たちのストレス軽減のため
野生では絶対に行うことのない、検温や触診、採血、爪切りなどの行為は、通常多くの動物たちにとって、非常にストレスがかかります。
この動作や対応に慣れることで、動物たちのストレスや負担を減らすことが大きな目的です。 -
動物と人の安全のため
診察に慣れていない動物たちは自分の身を守るために、人に対して攻撃行動に出る可能性もあります。また、動物たちが受診から逃れるために暴れ、動物自身もケガをする恐れもあります。
そういったことを防ぎ、安全に行うためというのがもう一つの大きな目的です。
ハズバンダリートレーニングが役立つ日常のお手入れ
受診動作というと病院に限定されたものと思われるかもしれませんが、ご自宅で行う日々のお手入れや、人と生活する上でも役立ちます。
では、ハズバンダリートレーニングが日常の中でどんな時に役立つかを犬を例に見ていきます。
- 歯磨き
- 目やにとり
- 耳掃除
- 爪切り
- 肛門しぼり
- ボディチェック
- 目薬
- お腹を見せる
- 抱っこ
- ブラッシング 等
どれもご自宅で行ったり病院やトリミングで行うものだと思います。「獣医師やトリマーにお任せしているから大丈夫」は要注意です。
ストレスがかかりやすい病院やトリミングサロンで愛犬の負担を少しでも減らせるよう、まずはご自宅でハズバンダリートレーニングを少しずつでもやることをおすすめします。
やっておきたいハズバンダリートレーニング5選
ご自宅でできるハズバンダリートレーニングを紹介します。
トレーニングは愛犬が好きなおやつを使って行います。できた行動に対しておやつをあげることが成長の近道です。
やったことがないものもぜひ積極的に挑戦してみてください!新しいことに挑戦すると、愛犬にとっても良い刺激になります。
①あごのせ
人が出した手のひらに、愛犬があごをのせ、その状態をキープできることを目指します。
- 人の手のひらを、愛犬があごを乗せやすい位置に出します。
- おやつを犬の鼻先に提示し、手のひらにそのままあごが乗るよう誘導し、一瞬でも乗せてくれたらおやつをあげます。
- 2を何度も繰り返し、あごを乗せられる時間を伸ばしていきます。
- おやつでの誘導がなくても乗せられるとさらに良いです。
※おやつで誘導しなくても、あごを乗せている時におやつをあげて褒めてあげることも大切です。
②鼻でタッチ
人が出した手に鼻でタッチできることを目指します。
- おやつを親指と手のひらで挟むように持ちます。
- 愛犬が恐がらないくらいの距離感で顔の近くにそっと手を出します。愛犬の鼻や顔が手のひらに触れたらおやつをあげます。
- 2と同様の手順で、鼻が手に触れている時間を少しずつ伸ばします。2よりも長い時間触れられたら、おやつをあげます。
- 3を繰り返し何度も行います。タッチする時間を伸ばすことで、顔周りを人が触れることに慣れていきます。
③顔周りを触られる
目やにを取る際やトリミング時、目薬をさす際などに、顔周りを触られても気にせず嫌がらないでいられる状態を目指します。
- いきなり目の近くではなく、顔の横など、恐がりにくい場所から少しずつ優しく触れます。この時、同時におやつをあげます。触れているとおやつがもらえ、良いイメージがつくように行います。
- おやつの代わりに所有欲がない子であれば、知育玩具などに夢中になっている際に、愛犬が嫌がらないレベルで触るのもおすすめです。
④お腹を見せる
「ごろん」といったトリックでも知られるお腹を見せるトレーニングです。お腹を見せて、その状態をキープできることを目指します。
- フセをしてもらいます。
- おやつを犬の鼻先に提示して、そのままおやつを鼻先から犬の首に沿わせて、犬の体が斜め上を向くようにします。少しでも体が傾いたらおやつをあげます。
- 2を繰り返し、お腹がしっかり見える角度まで練習します。
- お腹が見える状態でおやつをかがせ続け、この体勢をキープできる時間を伸ばします。
- おやつは持たず、おやつを持っている時と同じように手で誘導し、お腹が見える体勢をキープできるように練習します。
- 色々な場所で挑戦し、緊張しやすい病院でもできるレベルを目指しましょう。
注意
おやつは仰向けの状態であげるのは控えましょう。喉につまってしまう可能性があり危険です。
⑤手先を触られる
爪切りの時などに、指の先端や爪を触られても、その状態をキープして落ち着いていられる状態を目指します。
- お手ができる場合はお手をしてもらい、そのまま人の手のひらに愛犬の手を置く時間を伸ばします。手のひらに手が乗っている時におやつをあげます。
- 1を何度も繰り返します。
- 手のひらに犬の手が乗っている時に、手が乗っている手のひらの指で優しく犬の手先を触りおやつをあげます。
- 3を繰り返し、少しずつ触る時間を伸ばし、触る箇所を爪へと移行します。
- 犬の手が乗っていない、もう一方の手で犬の手や爪などを触り、おやつをあげます。
- 5を繰り返し、少しずつ触る時間を伸ばします。
- 実際の爪切りなどを爪にあてて、おやつをあげます。
- 7を繰り返し、少しずつあてる時間を伸ばします。
- 安全で行える範囲で、爪の先端を少し実際に切って、おやつをあげます。
注意
爪切りは、切る人側が慣れていない場合、血管を切ってしまったりと、愛犬に嫌なイメージを与えてしまう可能性もあります。安全と嫌なイメージを付けにくくするためにも、8または9までしっかりと練習をしたら、実際に切るのはトリミングや病院に任せることをおすすめします。
「お手」の練習方法
- おやつを手で握り、犬の前脚よりも10センチ程上の位置に出します。
- 犬が前脚でおやつを握った手に触れたら、おやつをあげます。
- 2を繰り返し、握っていた手を広げ、その状態でも前脚で触れてくれたらおやつをあげます。
- 3を繰り返したら完成です!
まとめ
ハズバンダリートレーニングという言葉は難しそうに聞こえるかもしれませんが、内容を見ると、とても身近なところで役立つものが多かったのではないでしょうか。
若いうちは診察の機会が少ないかもしれませんが 、シニアになるにつれて受診の機会が増えることも考えられます。病院やトリミングという場所や獣医師、トリマーに慣れることも大切ですが、愛犬のストレス軽減のために、ぜひ今日からご自宅でハズバンダリートレーニングを試してみてください。